第十六話 ちょっと不思議な女の子

「とりあえず、サクラさんとハルさんにメッセージを送ろう」


 俺はそう呟き、ハルさんとサクラさんにメッセージを送ろうとした。


「……あ」


 あることに俺は気づく。


「そういえば俺、ハルさんの連絡先は持ってるけど、サクラさんの連絡先は持ってないや」


 あちゃーと、俺はおでこを手で叩いた。


「あらら、連絡先持ってないんだ。じゃあ、直接会いに行くしかないね」


 そうユキヤは言った。


「えっ、おいちょっと待てよ、直接なんて! 第一、相手の都合とかもあるだろ⁉︎」


 俺はユキヤを引き止めようとした。


「でもさ、このままこうしてても埒があかないじゃん。だったらもう教室にお邪魔するしかないでしょ」


 しかしユキヤは引かなかった。しかも、めっちゃ眼光が鋭い。こわっ、なんか久しぶりの感覚かもしれないな、ユキヤに睨まれるの……。


「ん? じっとしてるけど、どうしたの? 早く行こうよ」


 俺が恐怖(といえる感情なのかは分からないけど)で固まっていると、ユキヤはもう教室の扉のところまで移動していた。

行動が早すぎるだろこいつ。


「ちょっと待て。せめてハルさんには、メッセージ送ってから行くよ」


 俺はハルさんにはせめて、急に来てびっくりさせないようにメッセージを送ることにした。


「よし、送れた。おまたせ、ユキヤ」


 俺はユキヤにそう合図した。


「じゃあ行こう」


 ユキヤと俺は、まずはハルさんに声をかけることにした。



     *



「あのー、すいません。二年の藤見っていうんですけど。多田音さんって分かります?」


 俺は一年生の教室に着くなり、そこらへんにいる男子に声をかけた。


「えっ二年の先輩……。多田音って確か、俺のクラスの奴だ……。ちょっと呼んできますね」


 そう小さく呟くと、男子は教室に入っていった。


 しばらくして、男子は申し訳なさそうな顔をしながら教室から出てきた。


「いやぁちょっと今姿消してますね……」


 姿消してるって、忍者かよ。まぁしょうがないな。しかしハルさんはどこに行ってるんだ……。


「すいません、誰か探してるんですか〜?」


 そう声がした。見ると、黒髪ストレートの女の子が俺たちに声をかけてきたみたいだった。


「あー、えーと、多田音ハルって子を探してるんですけど––––」

「ハル⁉︎ 今ハルって言いました⁉︎」


 俺がハルさんの名前を口に出したら、その女の子は食い気味にそう言った。

こんなに食いついてくるってことは、もしかしなくてもハルさんの友達かな?


「えっと、君、ハルさんの友達なの?」


 ユキヤが女の子に聞く。


「そっかー……やっぱりハル、よりにもよって学校のイケメン二人組とそういう関係なのか……!」


 小さく女の子が何か言ったのが聞こえた。なにかひどい誤解をされてる気がする。

そしてユキヤの質問フル無視なんだね。


「えっと……僕の声、聞こえてる……?」


 そう不安げに呟いたユキヤをよそに、女の子はなにやらブツブツ独り言を言っている。


「うぐぐ……ハルってば……恋愛には奥手だと思ってたのに意外とやるじゃない……! こんなにイケメンの二人組とデートとか……解せないわ……」


 あ、もうこれダメかも。完全に自分の世界に入ってらっしゃる。

でも聞くしかないな、これ以上ここで時間食ってるわけにもいかないし、


「すいません! 俺たち時間ないんすよね、できれば手短に終わらせたいんすけど……」


 俺はちょっと声量大きめで女の子に声をかけた。


「えっ、あぁ、ごめんなさい! 私ったら、先走っちゃって。アハハ……」


 最後の乾いた笑いが気になるが、とりあえず自分の世界から戻ってきてくれて(?)助かった。


「えーと、ハルとあなた達がそういう関係なのはともかく、ハルは今部活です!」


 女の子は勢いよくそう言った。

最初と最後だけよく聞こえたが、真ん中らへんの部分何言ってんのか分かんなかったな。

ま、でも肝心なハルさんの居場所が聞けたし、良かったとしよう。


「あ、ありがとうございます! じゃあ、俺たちこの辺で!」


 俺はそう女の子に声をかけた。ユキヤも、女の子にコクリと一礼して俺の後をついてきた。


 少し不思議な女の子だったなぁ。


 部活があるんなら、ハルさんには当分会えそうもないかな。一応メッセージは送ったから、見てくれると良いんだけど……。


「あら、こんなところで会うなんて奇遇ね。ユキヤくん」


 艶やかな声がしたなと思い、振り向くと、すごく美人な女の人がいた。

上級生だろうか。


 ん? 今この人ユキヤくんって言ってた? ユキヤのことを知ってるのか?


 俺はユキヤをちらりと見た。いつもの無表情サイボーグとは違って、ちょっと表情に焦りが滲み出ている気がする。


 ……。

 ………。

 …………あ。


 俺は、この美人な女性がユキヤのことを「ユキヤくん」呼びしていることや、

ユキヤがこの女性を見て少し青ざめている、という状況がよく分かった。


 この人が、『サクラさん』という人か。


「あら、ユキヤくんの後ろに誰かいるわね……。あら、もしかしてその人……」

「––––藤見タイチです。初めまして、サクラさん」


 俺は『サクラさん』に挨拶をした。

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