第十五話 頭が混乱してる
「ねぇ、大丈夫?」
ユキヤの声に、俺はハッとした。
「あ、あぁ、大丈夫だ。なんか、ユキヤの話聞いて、俺もついこの間
大福か何かを食べたような気がしてな」
俺は愛想笑いをしながら言った。
「なんだ、思い出してるじゃん。その調子で、頑張って」
ユキヤはそう言ってくれたが、まだ表情がカタい。無表情サイボーグはまだ
卒業できそうにないな。
「お前、なんか優しくなってない?」
「え、元から優しいつもりだけど……?」
俺はおそるおそる、ユキヤが会った時より優しくなっているんじゃないかということを提示したが、当人はどうやら元から優しいつもりだったらしい。
思えば、こいつは最初からこういう奴だったかもな……。
「まぁいいや。とにかく、あんたがこの世界に来る前に、大福食べた、ってことを思い出せたんなら、良かったよ」
ユキヤはそう言った。意外と驚きはしないんだな。もっと嬉しがったりすることを
期待してたんだが。
「大福を食べた、と思うんだけどな……。ユキヤ、じゃなくて友達のユウゴと一緒に。……ダメだ、頭が混乱してる」
俺は頭を抱えて言った。
「まずは落ち着いてよ」
「あぁ……すまない」
ユキヤは俺の顔を覗き込み、心配そうに声をかけてくれた。
そうだ、落ち着くことが大事だ。俺はちょっと早まっていたのかもしれない。
「あんたが落ち着くまで、僕が話そうかな。僕は、この世界に来る前に
たい焼きを食べたんだ。両親と一緒にね。父さんが買ってきてくれて、
美味い店のたい焼きだから、お前も食べてみろって言われたんだ。
言われてみた通り、たい焼きを食べてその日は寝たんだ。たい焼きの味はまぁ……
たまに食べてみると悪くなかったよ。
で、翌日になったらもうこの世界に来ちゃってたんだ」
ユキヤはそう俺に解説をしてくれた。
そうか。ユキヤはたい焼きを食べたのか。たい焼きって、確かに中にあんこが
入ってるから、あんこを食べてあんこしかない世界に来た……。っていうのも、
納得がいくかもな。
俺は一人でそう頷いた。
「ちょっと情報が足りないかもな。もうちょっと情報を集めた方がいいと思う。
……ハルさんとか、サクラさんにも、集まってもらおう。そうすれば、もうちょっと
この世界について、何か理解が深まるかもしれない」
俺はユキヤにそう言う。
「そうだね。じゃあ、二人に集まってもらおう。でも、どうやって集まってもらう?」
「メッセージで伝えればいいだろ。それで、待ってれば」
ユキヤの問いに、俺はメッセージで伝えようと言った。いきなり教室に行っても
びっくりさせるだけだろう。それは嫌だな、なんか。
「まぁ、いきなり教室に行っても驚かせちゃうだけだもんね。じゃあそれは
辞めよう」
ユキヤが、まるで俺の思考を読み取っているかのようにそう言った。
こいつ、心を読む能力でも持っているのか……?
「僕たちが行ったら、女の子たちに騒がれるもんね……」
「イケメンすぎてな!」
「……どうしたの、あんた急に。頭でも打った?」
ちょっと調子に乗ったら、ユキヤに冷たくそう言われた。
まぁ、そう言われるのも仕方がないかもしれないが。
「今のは、ちょっと調子に乗っただけじゃんか。そんな冷たい態度
とらなくても良いだろ⁉︎」
俺は慌ててユキヤにそう言った。
「ごめんごめん。……とにかく、ハルさんとサクラさんにメッセージを送ろう」
ユキヤは少し苦笑した風に見えた。俺が怒ってるからって、面白かったのか?
まぁいい。ユキヤに多少ムカつきながらも、俺はスマホを取り出し、ハルさんとサクラさんにメッセージを送ろうとした。
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