第十一話 映える景色
楽しいなぁ……。俺は心からそう思った。今はベンチでハルさんと、売店で買った
ポップコーンを頬張っているところだ。
コーヒーカップに迷路、それにジェットコースター……(俺はジェットコースターは苦手なのだが、意外とハルさんが乗り気だったので、俺も乗ることにした。
おかげで酔ったが、ハルさんの楽しそうな顔が見られたので良かった)
色々なものに乗ったなぁ……。もちろん、ハルさんといるだけで天に昇る心地がするほど楽しいが、遊園地というこの空間が、この幸福感をより倍増させてくれる感じがする。
「やっぱり楽しいですね、遊園地は」
ハルさんがポップコーンを頬張りながら言った。もぐもぐと頬張っている姿が
ハムスターのようで愛らしい。
「そっすね。俺も、遊園地に来たの何年ぶりだったかなー……」
俺はぽつりと呟く。
最後に遊園地に来たときの事を思い出す。
最後に来たのは確か、小学生の時に姉さんと行ったきりだったかな。
そこでも、ゴーカートや迷路、わたあめを食べたりして、楽しかったなぁ……。
最後には観覧車に乗ったりして夜景を眺めて––––。
そうだ。俺の脳裏に良い考えが浮かんだ。
ハルさんと観覧車に乗ろう。ハルさんが高所恐怖症じゃなければ、
観覧車に乗れるはずだ。
俺はハルさんに声をかけようとした。
「あの、ハルさん」
「観覧車、綺麗ですね」
ハルさんはそうぽつりと呟いた。
ハルさんは夕日を浴びながらゆったりと動いている観覧車を見ていた。
観覧車に、ハルさんの瞳が吸い込まれていく。
もしかしたら、ハルさんも観覧車に乗りたいのだろうか。
「まだ閉園まで時間はありますし、観覧車乗ってもいいかもしれないっすね」
俺はさりげなくそう言ってみた。
「観覧車……! そうですね、乗りましょう!」
ハルさんの目がパァッと輝いた。
やっぱり、ハルさんも観覧車に乗りたいんだな。
「じゃあ、観覧車乗りに行きましょうか」
俺はハルさんに言った。
*
––––「良い景色ですね」
ハルさんがぽつりと呟いた。
俺もそう思う。観覧車から見えるビルや学校、公園がオレンジ色に染まっている。
この景色は生涯忘れることはないだろう、と言っても過言じゃないほどに綺麗な
景色だった。写真を撮るのが好きな人ならば何枚も撮ってフォルダに収めるだろう。
もしかするとテレビ番組やネット記事なんかで『綺麗な景色が見れる遊園地』として
紹介されてるかもしれない、と思ってしまうくらいには綺麗だった。
所謂『映える』というやつなんだろう。
「本当に、良い景色ですね。この観覧車に乗れて良かったなぁ」
俺はそう言った。
「そうですね。私も、タイチさんと観覧車に乗れて––––タイチさんと遊園地に
来れて、良かったです! おかげで、楽しい一日を過ごす事ができました!」
ハルさんは満面の笑顔でそう言ってくれた。
うわぁ、遊園地来て良かった……ハルさんと来れて良かった……。
俺は心の底からそう思った。
はぁ……これが元の世界だったら本当に良かったんだけどな。
元の世界ならチョコもあるし、ハルさんもいる……と思うし。
「これが元の世界なら……どれほど良かったかな」
俺はぼそりと呟いた。
「え……?」
ふとハルさんを見るとハルさんが目を丸くして驚いていた。
やばい、俺今意味不明な事言っちゃった。元の世界とか、ハルさんにとっては
意味不明だよな。
「ご、ごめんなさい今のはなんでもないです……忘れてください」
俺は俯きハルさんに弁解した。
うわぁ俺の馬鹿、ハルさんが困惑してるじゃないか。やばい耳も赤くなってきた。
今のは流石に失言だったか……。
俺が後悔していると
「元の世界……?」
とハルさんが眉間に皺を寄せて首を傾げている。
やばい、忘れてくれなかったか。
「いや、だから……」
俺は慌てて説得しようとしたが、ハルさんは言った。
「今、元の世界って言いました?」
ハルさんが首を傾げながら俺に問う。
「は、はい……言いましたけど……」
俺は確認するように言った。ハルさんは、
「元の世界……そっか、タイチさんは……」
などとブツブツ言っている。
あー、これもしかしてハルさん、あのパターンか。
要するに……
「実は……私も、元の世界からこの世界に来たんですよ」
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