第十話 女神が、降りてきた……

『待ち合わせ場所は、遊園地の最寄り駅の、改札出た辺りでどうですか?』


 ハルさんからのメッセージが届いた。今は土曜日の夜九時半。


 遊園地の最寄りの駅、確かにそこは待ち合わせスポットとしても有名だし、

そこでいいな。


『はい。大丈夫です。楽しみに待ってますよー』


 俺はそうメッセージを打ち、ハルさんに送った。

 すぐに既読がつき


『分かりました。待ち合わせ時間って、なんか希望ありますか? この時間帯が良いなとか』


 と、メッセージが来た。


 いつも思うんだけど、ハルさんって毎回既読早いよな……。早いに越したことはないと思うけどさ。


 そうだな、待ち合わせ時間帯って、結構悩むんだよな。

ハルさんが、その遊園地の最寄り駅からどれほど遠いのか、とか、早い時間帯に

待ち合わせるとなると、朝早く起きなきゃいけないから大変だよな。


 あーでもあれか。遊園地って、結構混むから、なるべく早い時間帯から並んだ方が

良いかもしれないな。アトラクションも早く乗れるかもしれないし。


 俺とハルさんが行く遊園地の開園時間は十時だ。駅から遊園地まで徒歩で大体十五分くらい。だったら九時四十五分に待ち合わせするか。


 いや、俺かハルさんが遅れる可能性も含めると、ちょっと余裕を持って九時三十五分くらいかな。


 色々思案した結果、俺の中では、待ち合わせ場所は九時三十五分が最適、ということになった。


『俺は、待ち合わせ時間帯は九時三十五分がいいなと思ったんですけど、ハルさんは

どうですか?』


 俺がそうメッセージを送ると


『いいですね。電車とか遅れる可能性もありますし、私も賛成です!』


 という返事が返ってきた。


 それに適当なスタンプを返し、スマホを持ったままベッドに仰向けに倒れ込む。


「はぁー明日が楽しみだ……」


 嬉しさのあまり、思わず口から呟きが漏れてしまった。


 明日は、どんなアトラクション乗ろうかな……うわぁ、やばい。どんどん楽しみに

なってきたな。想像すればするほど、興奮して眠れないな。

それに、緊張もしているし、もう口から心臓が飛び出そうだ。


 まぁでも、眠れないとか言ってる場合じゃないよな。眠らなきゃ明日に響く可能性もあるし。


 とりあえず、布団には入ろう。

俺はただ、明日に期待を膨らませることで精一杯だった。



    *



 ––––ついに約束の時が来た。俺はきちんと身支度をして、家を出た。


 出かける時に姉さんに


「あれ? タイチどこ行くの?」


 と聞かれたが


「ちょっとユウゴと遊んでくるわ」


 と言って、そそくさと家を出た。


「へーそうなんだ。楽しんで、気をつけて行ってきてね〜!」


 姉さんは俺の答えを聞いて納得したようだ。


 本当はハルさんとデートの予定なのだが、ハルさんとデートするなんて言ったら

絶対に姉さんはからかうだろうな、と思ったのでハルさんのことは、姉さんには内緒にしておいた。


「分かってるよ姉さん。それじゃ、行ってきます」


 俺はそう言って家を後にした。



    *



 電車に揺られること約三十分ほど。やっと遊園地の最寄り駅に着いた。

電車に乗っている間も、今日どのアトラクションに乗ろうかとか、上手くハルさんを

エスコートできるかとか、色々考えてしまった。

 やばい、緊張してきた……。

俺は気もそぞろになりながら、改札へと向かった。


 改札には……ハルさんらしき人はいない。まだハルさんは来ていないようだ。

うわぁ緊張してきた。果たしてどんな格好してくるんだろう。


「お待たせしました〜! ごめんなさい、遅れてしまって!」


 ––––来た。ハルさんが来た。その姿を一目見た瞬間、女神が降臨したのかと思った。

大人っぽい黒地に白玉模様のワンピースを着ているハルさんの姿は、まさに女神と

形容してもいいほどに綺麗だった。


「いや、全然良いっすよ。そんなに、待ってないんで」


 俺は照れ隠しのために、少し目線を逸らしながらそう言った。


「それなら、良かったです!」


 ハルさんは明るくそう言った。


 しばし静寂が俺とハルさんを包む。

うわー気まずい。だいぶ気まずいぞこれは……。とにかく何か話さなくては……。


「今日のその服装、すごい可愛いですね。似合ってますよ、ハルさんに」


 俺はハルさんの服装を褒めた。別にこれはお世辞とかではなく、本当に思っている事だ。

すると俺の言葉を聞いて、ハルさんの顔が途端に真っ赤になった。


 ……あ、これは少しまずかったか? 下手したらこれセクハラになりかねない発言だしな、ハルさんがどう思うか……。


 見るとハルさんは小刻みにプルプルと震えている。やばい、これは絶対に怒っているな。

あぁどうしよう。今なら土下座すれば許してもらえる……か?

そうあたふたと考えているうちに、ハルさんが口を開いた。


「……うわぁ〜褒めてくれるんですか⁉︎ 嬉しいです! やっぱりこの服着てきて

良かった!」


 見ると、ハルさんは満面の笑みになっている。なんか、俺の想像していた展開と違って、安心したな……。


「やった〜! お姉ちゃんに相談しておいて良かった! タイチさんに褒めてもらえるなんて、もう感無量すぎて……」


 なんかすごい喜んでるなぁ、これは俺もハルさんの服装を褒めて良かったなぁ。

それにしても、喜んでるハルさん、あぁ可愛い……。


「あー気分がいいなぁ。よし、このまま遊園地に行って、並んじゃいましょう!」


 ハルさんが言った。すごいアクティブだなぁ。そんなところも元気で良いと思うし、俺のおかげでハルさんの気分が良くなるのなら、俺も嬉しいしハルさんも気分が良い。win-winじゃないか⁉︎


「そうですね! じゃあ早速行きましょうか!」


 俺も明るく返事をした。


 あー、なんか良いことが起こりそうな予感がするな。今日一日は、めいっぱい楽しもう。

 俺はそう決心したのだった。









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