第九話 展開早くね?

「いや、怖すぎるだろ!」


 俺は叫んだ。


「盗み聞きとか、するんだな。その上級生の女の人も……」

「うん。僕も、最初に聞いた時は驚いて、ちょっとパニックになりかけたよ。

 ……正直、まだあの人には苦手意識があるかもしれないな」


 ユキヤは、少し目を伏せながら言う。そんなに苦手なのか。


「まぁでも、そのサクラさんっていう人も、元の世界の人なんだな。

とりあえずは、情報共有とかできればいいよな」


 俺はユキヤに言った。


「確かにね。でも、今日はもうサクラさんは教室にはいないと思うよ。

もしどうしても会いたいっていうんだったら、月曜日とかにまた、サクラさんに声を

かければいいんじゃないかな」


 ユキヤは冷静に言った。

 そうか、もう教室にはいないのか。まぁ、サクラさんも部活とかあるだろうし、お邪魔しても悪いかもな……。


 っていうかなんだろう、元の世界から来たユキヤに会って、まだ数時間しか経っていないっていうのに、もうサクラさんという新しい人が来ちゃったよ……。それに、

ユキヤとサクラさんが話し合って、一緒に元の世界に帰ろうと結託(?)してるし……。

 あれ? 展開早くね?


 それに、この世界に俺以外に二人も元の世界から来た人がいるとか……なんなんだ? 異世界転移とかで、勇者複数人召喚しちゃったとかあるけど、それ系かな?

女神様とかの手違いで、そうなることとかありそー。


「とりあえず、今日はもう遅いし、帰ろう。肝心なことは、また月曜日に話そう」


 俺が脳内で勝手な想像を繰り広げていると、ユキヤが言った。


「そうだな。一旦土日で情報整理しとくか」


 情報整理する時間も必要だからな。


「……そうだ。タイチ、ちょっといい? あんたと、ちょっと連絡先交換したいんだけど」


 俺がカバンを持ち、帰ろうとするとユキヤが呼び止めた。


 俺と連絡先交換? よりによって、こいつが? まぁ、連絡先を交換することによって、今後の相談とかがスムーズに行えるのならその方がいいか。


「連絡先交換すれば、いつでもメッセージ送れるし。なんかこの世界のことについて気づいたこととかあったら、気軽にメッセージ送ってくれていいからさ」


 ユキヤはそう言って、スマホを俺に向けた。ユキヤのスマホの画面には、QRコードが表示されていた。


「あ、あぁ……そうだな」


 俺はユキヤのスマホに表示されているQRコードを読み取った。すると、すぐにユキヤのプロフィールが表示された。プロフィールの画像は……柴犬。


 なんか、少し意外だな。なんだろう、イメージと違うというか……プロフィールには頓着ないタイプだと思ってたんだが……。なんか、プロフィールに頓着なさそうだし、無地の背景使いそうだなと思ってたんだが、そういうこともなさそうだな。


「犬、好きなのか?」


 俺はユキヤに聞いてみた。


「うん……僕のおばあちゃんの家の、犬でね。名前は、シバヒコっていうんだ」


 そうなのか……シバヒコ……。意外と渋い(?)名前なんだな。

まぁ意外なのはともかく、無事にこいつとも連絡先が交換できて良かった。


「じゃあ、無事に連絡先も交換できたことだし……俺は、もう帰るよ」


 俺は今度こそ帰ろうとした。


「うん。じゃあ、また月曜に会おう。待ってるからな」


 ユキヤは俺にそう言って、自分の教室に戻っていった。カバンを取りに戻ったのだろう。


 さてと、俺も自分の家に帰るとするか。俺は自分の家へと歩を進めた。



       *



 俺はとぼとぼと帰路につく。今日も疲れたなぁ……。色々なことが起こりすぎだよ、この世界に来てまだ二日くらいしか経ってない気がするけど……。

 この世界に来てから、俺疲れすぎじゃない?

ついそんな事を考えてしまう。


 それにしたってなぁ……急にこの世界に転移してきた人が増えてないか……?

ユキヤに、サクラさんって、もう二人も増えてるじゃないか。

 バグじゃない? この世界、急に転移してきた人いすぎじゃない?

 うむ、これは何かの陰謀に違いない……


ヴヴヴヴ……


っと、そんなことを考えていたらスマホが鳴ったぞ。

なになに……。


 スマホを見てみると、ハルさんからの通知だった。

 俺は急いでメッセージアプリを開く。


『突然メールしてごめんなさい。日曜日は空いていますか?

日曜日、暇だったら私と遊園地に行きませんか?』


 メッセージにはこんな文言が書かれていた。


 え? ちょっと待て、展開が早いぞ。え、何これ。マジ?


 これって、つまり……


 『ハルさんとデート』という事じゃないか⁉︎ マジかよ、やった!

 そういえば最近『デート』っていうこと自体してなかったな……。


 もうここは快くOKするか! どうせ休日予定ないし! どうせこの世界のこと考えて土日終わるし! 正直土日にこの世界のことで頭を悩ませるよりも、ハルさんとデートした方が有意義かもしれないし!

 よし、OK出そう!


 俺は早速メッセージを打ち、送信ボタンを押した。


『日曜日、空いてますよ! ハルさんさえ良ければ、俺も行きたいです!』


 すぐに既読がつき


『良かったです! では、待ち合わせ場所はどうしますか?』


 という返事が返ってきた。


 あーまさかこんなことが起こるなんて。棚からぼた餅というやつかな?


 この世界に来てから、チョコが全部あんこに置き換わってろくなことなんて無いと

思ってたけど、ハルさんとこうして連絡先交換できて、デートの約束もできるなんて

この世界も、案外悪く無いのかもしれない。……なんてな。


 俺はスマホを握りしめ、早足で家に帰った。
















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