第十二話 衝撃の告白
「実は、私も元の世界からこの世界に来たんですよ」
ハルさんが俺をまっすぐ見据えながら言った。なるほど、要するに俺と同じ
パターンか。気付いたらこの世界に居た、ってパターンかな。
「……あれ? そんなに驚いてませんね。もっとびっくりする事を期待してたのに」
ハルさんが意外そうな表情で俺に言った。
それはねぇ、ハルさんは知らないだろうけどユキヤって人とサクラさんって人も
気づいたらこの世界に居たんだ。ユキヤとサクラさんっていう二人の前例(?)が
あったから、もう驚きはしないよ。
俺は心の中でそう呟き、ハルさんに言った。
「あはは……まぁ俺の知り合いも、ハルさんと俺みたいな事になってるんですよ」
俺はハルさんに言った。するとハルさんは目を見開き
「えぇ! そうなんですか⁉︎ タイチさんと私と、あとタイチさんの知り合いの方も
大変な事になってるんですね……」
と驚いて言った。まさかハルさんも、自分みたいな人がこんなに沢山いるとは
思ってなかっただろう。
「はぁ〜。ったく、なんでこんなことになってるんだろ」
俺は投げやりにそう言った。
「……おかしいですよね。チョコがあんこに変わった世界にこうして来てしまったのは、何か理由があるんでしょうか」
ハルさんが顎に手を当てて考え込む。確かに、何か天変地異でも起こらない限り、
こういうのは考えづらいと思うんだが……。
急にこの世界に転移してきた人が俺含めて四人……。これで、もっと転移してきた人が増えたら、この世界どうなるんだ?
チョコがなくて、あんこだけがある世界に順応する人もいたり、俺みたいにチョコがある世界に帰りたい!っていう人もいそうだし、かなり滅茶苦茶になりそうだけどな。
……正直、転移してくる人がもっと増えるとか、勘弁して欲しいんだけどな。
どんな転移モノだよ。
「タイチさん、ぼけっとしてますけど大丈夫ですか? やっぱり私の告白はショック
でした?」
俺がうんざりしていると、ハルさんが俺に声をかけてきた。その声に、思わず
ハッとする。
「あぁごめんなさい。そんな、告白がショックという訳じゃなくて、むしろハルさんが俺と同じで良かったっていうか……」
俺はハルさんに咄嗟にそう弁解した。ハルさんが俺と同じで、この世界に転移してきた人だと知って、心強いなと思っているのは確かだ。
「私も、まさかタイチさんがこのチョコがない世界に来ているとは思わなくて、正直
びっくりです……」
ハルさんはそう言って、ふふと笑った。うむ、笑った顔も可愛らしい。
あれ、そういえばハルさんって、俺にたい焼き渡してきたよな?
あのたい焼きって、ハルさんがたい焼きが好きっていうことだけじゃなくて、
作れるものがあんこのお菓子だけだったんじゃ……。
俺は早速そのことについてハルさんに聞いてみる。
「あの、ハルさん……。こんなこと聞くのは失礼かもしれないですけど、ハルさんが
あの日たい焼きを作ってきたのって、チョコが無かったから、作れるのがたい焼きとか、あんこが入ってるお菓子だけだったんじゃないですか?」
うぅ、自分で分かっていてもつくづく失礼な聞き方だとは思ってるけど……。
「たしかに、今タイチさんが言ってくれたこともありますけど、皆がバレンタインデーにたい焼き作るって話をしてて、私もたい焼きなんて作ったことなかったから、
今回初めて挑戦してみたんですよ〜」
しかしハルさんは、俺の問いかけに気分を害した様子もなく、のんびりとした口調で答える。
なるほど、初めて作ったのに、すごい美味しかったし、これはもうハルさんは
お菓子作りの才能があるとしか思えない。
「そうだったんですか、やっぱり手作りだと愛情がこもってるんですかね、なんか
凄い美味しかったですよ」
俺がそうやってハルさんが作ったたい焼きを褒めると、ハルさんの顔は途端に赤くなった。耳まで赤くなっている。
「あはは、ありがとうございます。タイチさんにこんなに褒めてもらえると、私も
作ったかいがあります」
ハルさんはそう微笑んで言った。
「まぁ私もたい焼きが好きっていうのもありますけどね。自分で作って余ったものは
お姉ちゃんと食べたんですけど、美味しかったんですよ〜!」
ハルさんが言う。
そうなのか……。なるほど、ハルさんはたい焼きが好きと……メモメモ。
俺はハルさんはたい焼きが好きだということを心にメモしておいた。
「そうだ! 今度タイチさんもたい焼き食べませんか?うちの近所に
美味しいたい焼き屋さんがあるんですよ〜」
ハルさんがぽんと手を打って言う。なるほど、たい焼き屋さんに行ってみるって
いうのも経験として悪くないかもしれない。前にハルさんのたい焼きを食べた時は
すごく美味しかったし、だんだん慣れてくれば、苦手意識もなくなるかもな。
「そうなんですね、是非今度一緒に行きましょう!」
俺はハルさんにそう声をかけた。
「ええ、是非! 一緒に行きましょう!」
ハルさんはそう微笑んで言った。
*
「はい、降りてください」
スタッフさんに促される。気がつくと、観覧車は元の乗降場所に戻っていた。
俺とハルさんはおもむろに観覧車から降りた。
「そろそろ閉園時間ですね」
ハルさんが静かに言う。
「そうですね。今日は楽しかったです。ありがとうございます」
俺はハルさんにお礼を伝える。
「えっ、いやいや、お礼を言うのはこっちの方ですよ〜。こちらこそ、今日は
遊園地一緒に周ってくれてありがとうございました!」
ハルさんは満面の笑みを湛えながら俺にお礼を言った。
ハルさんが楽しんでくれたのなら、それが一番だ。
「そういえば、なんでタイチさんって私に対して敬語なんですか?」
ハルさんが唐突に俺に聞く。
「えっ、なんでって……」
そんなに急に聞かれても、すごく困る。そもそも、敬語なのはまだあまり
ハルさんとの距離感が掴めてないからなんだよなぁ。
「タイチさんって、私より一学年上ですよね。私がタイチさんに対して敬語使うのは
当たり前かと思うんですけど、タイチさんは私に対して敬語使わなくてもいいのに
って思って……」
ハルさんがそう理由を話す。
確かに、その通りなんだが、なんて言えばいいんだろう。やっぱり距離感って大事
じゃん?
「って、すいません、烏滸がましかったですかね⁉︎」
ハルさんがハッとして謝る。
「いや、そんなことはないですよ。むしろ、言ってくれてありがとうございます。
じゃ、じゃあ……ハルさん、今日はありがとう?」
俺は試しに敬語を使わずに話してみた。
途端に恥ずかしさのあまりに俯いてしまう。うわぁ、やっぱめっちゃ違和感ある!
穴があったら入りたいくらいだな。
ハルさんは俺のタメ口に少し顔を赤面させながらも
「……どういたしまして! 私も、今日は凄く楽しかったです!」
と満面の笑みで言った。
「じゃあ、駅まで一緒に行きましょうよ!」
「そ、そうだね」
うむ、ハルさん積極的だな。
遊園地開園時間から、積極的ではあったが、やっぱりあの告白(?)を
してから何か吹っ切れたように見える。
俺たちは遊園地を出て、駅まで歩いて行った。
ハルさんのことを、一刻も早くユキヤに相談しないとな。
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