第七話 会話の仕方

 僕はタイチと別れ、女の子達の方に歩いて行った。女の子達が僕をチラリと見て


「えっ、やばい。こっち来たんだけど!」

「えーなになに?」


 と小声で言い合っているのが聞こえる。


「……ちょっと今、いいかな」


 僕は女の子達に話しかけた。


 すると女の子達は僕を見て


「えっ、なんですか?」


 と、期待の眼差しを僕に向けている。

 そんな期待の眼差しを向けられているところ悪いけど、僕は君達の

期待しているような言葉を言うわけじゃないと思うんだ。


「……ちょっと、君たちの声がうるさくてお話に集中できないから、しばらく

黙っててくれるかな?」


 僕がそう言った途端、女の子達の表情が若干曇り、そのまま硬直してしまった。

 その表情は、まるで”何か見てはいけないものを見てしまった”とでも言うような顔をした。


「ん? どうかした?」

「「え、えぇと……ご、ごめんなさいぃぃ!」」


 僕が声をかけると、女の子達は一目散に逃げていった。


 あれ、逃げちゃった。なんでだ、僕何かしたっけ。

 僕は首を傾げたが、首を傾げたところで女の子達が戻ってくるはずもなく、僕は

タイチのところへ戻っていった。



      *



「お、おいユキヤ……お前、女の子達に何か変なことしてないだろうな?

あの子達、一目散に逃げていったけど……」


 俺はユキヤにそう言った。


「いや、別に……『君たちの声がうるさくてお話に集中できないから、しばらく黙っててくれる?』って言ったら、しばらく固まった後、逃げちゃったんだ」


 ユキヤは悪びれる様子もなく、むしろ不思議そうな顔をしながらそう言った。


「お前なぁ……その言動がダメだったんじゃないか?」


 俺はユキヤに言った。


「これでも優しく言ったつもりだったんだけどなぁ……日本語難しいよな」

「日本語難しい件については俺も同意だが……あれだな、お前はもっと

言葉をオブラートに包んだほうがいいかもな。ちょっと言葉が強いし」


 俺はユキヤにそう教えてやった。


「言葉をオブラートに包む? ……なるほど。確かに、そうすることで、さっきみたいに、急に逃げられたりすることが減れば、効果はあるかもしれないな」


 ユキヤは頷きながらそう言った。


「……やっぱり、僕ってコミュ障なのかもしれないな……」


 ユキヤは、急に肩を落として力なくそう言った。なんだこいつ、急に落ち込むじゃん。


「お、おい……。そう落ち込むなって……」

「うーん……普通に注意するつもりが、さっきの子達は逃げちゃったし……。

難しいね、人との会話って」


 なんだこいつ、宇宙人みたいなこと言いやがって……。俺は心底疲れていた。

もうこいつ、掴みどころがなさすぎて、怖いな。


 俺は深くため息をついた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る