第三話 連絡先交換

「なぁ、さっきの女子、お前に用があったのか?」


 ユウゴが聞いてきた。あったもなにも、バレンタインのプレゼントを渡されましたからね、はい。


「バレンタインのプレゼントを渡されたんだよ。それに、放課後–––」

「マジかよ! やっぱりお前、モテるんだな!」


 俺が言い終わる前に、ユウゴがデカイ声で言った。おい、鼓膜が吹っ飛ぶかと思っただろ、やめてくれ。それにそんな大声で言われると、他のクラスメートに聞かれて

恥ずかしいし……。


「……おい、声デカすぎ。鼓膜吹っ飛ぶかと思った。それに、俺が女子からプレゼント貰うことなんて、そんなに珍しいことでもないだろ」


 俺は呆れたようにユウゴに言う。


「ははっ、ごめんごめん」


 ユウゴはニカっと笑って謝る。

 ……コイツは、時折こうやって爽やかな笑顔を見せてくれるので、憎むに憎めないんだよなぁ。つい、怒る気がなくなる。


「……もういいよ。ほら、もうすぐ先生が来る。お前も席に座れよ?」


 俺はユウゴに言った。


「そうだったな。じゃ、休み時間にまた来るよ」


 ユウゴはそう言い、自分の席に戻った。


          *


 ––––放課後。俺は校門前で女の子を待った。ユウゴは、部活があるので、部室に行ってしまった。まぁ、今日はユウゴと帰る約束はしていなかったから、別に良いけど。

 俺は続々と帰宅していく奴らを尻目に、女の子を待つ。帰宅していく奴らは、俺を

ちらちら見ていたようだったが、特にそれ以上気にせずに自分の家路についていく

ようだった。


 ……ちょっとここで待ち合わせするのは特殊だったかもしれないな。校門の前で

待ち合わせする奴なんて、確かにあまり見かけないし……。


「すみません、遅くなりましたー!」


 俺がそんなことを考えている間に、女の子がやってきた。


「ごめんなさい、帰りのホームルームが長引いちゃって……」


 彼女はどうやら、自分の教室から走って、校門前まで来てくれたらしい。肩で息を

切らしている。よく見ると、汗がおでこの方に溜まっている。

 ……きっと、俺との待ち合わせに遅れるまいと、必死にここまで走ってきてくれたのだろう。何か申し訳なくなってきたな。


「……なんかごめんね。急がせちゃったみたいで」


 俺は女の子に言う。


「いえ、そんな、大丈夫ですよ〜! なんか、走ったおかげで良い運動になりましたし、今日の時間割、体育なかったのでちょうど良かったです。全然、気にしないでください!」


 女の子は息を切らしながらも、笑顔で明るく言った。可愛いなぁ……。


 ……おっと、そう思ってる場合じゃない。そうだ、校門の前に集合した目的は

連絡先の交換だったし、目的を達成しないと話にならない。


 でも、このまま喋り続けてもいいかもしれない。なんか良い感じの雰囲気だし……。


「私、ちゃんとスマホ持ってきたので、連絡先交換しちゃいましょう!」


 女の子が言った。……デスヨネー、そんな都合よく喋り続けられるわけないよな、

うん。


 俺はスマホを取り出し、トークアプリを開いた。そして、トーク画面から

プロフィール画面に移動し、右上にある友達追加ボタンを押す。


「じゃあ、俺がQRコード読み取るから、君は自分のQRコード表示してくれる?」

「はい、分かりました!」


 女の子はそう言い、自分のスマホを俺のスマホの下にかざした。


 –––出た。彼女のプロフィール画面が映った。名前は、多田音ただねハルっていうのか。

名前の響きも可愛らしい。友達追加をして、トーク画面に移る。


 よし、完了したな。試しになにか送ってみよう。俺は『よろしくね』と

メッセージを打ち、青い送信ボタンを押した。


 すぐに既読がつき、『よろしくおねがいします!』といったメッセージと共に

可愛らしいスタンプが送られてきた。


「これで、連絡先交換できましたね! 良かったです!」


 彼女はそう言って、満面の笑みを見せた。


 連絡先を交換しようと思って良かった。俺は心からそう思った。


「あっ、ハルじゃん。こんなところで何してんの?」


 女の子の声がし、ハッとして振り向くと、彼女の友達らしき子が

こっちに歩いてきた。


「あっ……じゃあ、俺はこれで……」


 俺はそそくさとその場を離れた。


「今の人、誰? ……あっ、もしかして、私の知らない間に彼氏できてたとか⁉︎」

「ち、ちがうよー!」

「でも、あの人あんたと話してなかったっけ?」

「き、きっと気のせいだよ! あはは……」

「アヤシイ……」


 背後からそんな会話が聞こえた。やっぱり、校門前じゃなくて、告白には定番の

校舎裏とかの方が良かったかな? 人気がない方が目立たなかっただろうし……


 俺は少し後悔をしながら、家路についた。

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