第一話 なんでこんな事になってるんだ……

「ねぇ、お前今日何個たい焼き貰った?」

「俺が貰えるわけないだろ、タイチじゃあるまいし」

「まぁ、そうだよな。あいつ、学校に着いて自分の机の中見て、唖然としてたぜ」

「流石のあいつでも、あんなに貰うのは初めてだったのかな?」

「いや、あいつならもっと貰ったことあるだろ」


 聞こえてますよ君たち。

 俺は、授業中にも関わらず俺の方を時折チラチラ見てそう呟く、自分の右斜め前に座っているクラスメイトを睨みながら思う。

 確かに唖然とはしてたが、それは机の中にたい焼きとか、おはぎとかがあった

からだ。大体はお店で買ってきた物の様だった。まぁたい焼きとか手作りするの

難しそうだもんな……。

 俺は呆然としながらそんなことを考えていた。学校に着いたら、いつも通りに

チョコがあると思ったのになぁ、どうやら思惑は外れた様だ。


           *


 コンビニから出た後も、俺はチョコが何処かにあることをを諦められなかった。

 ––––学校に着けば、机の中いっぱいにチョコレートが入っている––––

 俺はそう信じて、ただ学校へと足を早めた。


 しかし、自分の机の中にあったものは、やはりたい焼きやおはぎなどのあんこが

ぎっしり詰まっている和菓子だった。学校では、例年通りに友達同士でチョコを渡したりしているだろうと期待していた。だが、クラスメイトたちの会話はどこを聞いても


「たい焼き四個も貰った!」

「今日は気になってるユキヤ先輩にどら焼きあげるんだ! あ〜、今から緊張して

きた……」


 といった会話だった。君たちチョコはどうしたよ。

 コンビニにも、チョコは売っていなかった。

 SNSにも、チョコの呟きや画像の投稿は無かった。


           *


 なんでこんなことになってるんだ……。俺は頭を抱えてこの不可思議な現象に

ついて考えた。


 なぜチョコがあんこに変わっているのか……もしかしたら、俺の住んでいる町だと

もうチョコは製造中止になってるのかもしれない。それなら、コンビニにチョコが

無いというのも納得がいく。

 いやでも、じゃあなんでSNSにチョコレートの文字が無いんだ? SNSは日本中、いや世界中の情報が集まってるはずだ。そのSNSにもチョコレートの文字は無かった。

 もちろん、英語表記でも『chocolate』って検索してみたけどそれも駄目でした。

海外の人たちもチョコレートを食べないのかな……? それって、ずいぶん特殊じゃない? 逆に海外の人たちお菓子何食べてるんだよ、クッキーとかか?

 うぅむ。俺は心の中で唸った。これはこの後も、要調査が必要かもしれないな。


 俺がそんなことを考えている間にいつの間にか休み時間になってしまった。


「はぁ〜、長かった……。やっと昼休みだ……」


 俺は机に顔を突っ伏して呟いた。


「お疲れさん。なんだよお前、今朝から様子がおかしいぞ。急にコンビニに走ったりとかしてさ。一体どうしたんだよ」


 ユウゴが俺のそばに来て、不思議そうに言う。


「いや……なんて言うんだ、その……」

「なんだよ、俺ら友達だろ。隠し事なんて水臭いぞ」


 俺が言葉に詰まっていると、ユウゴが更に追い討ちをかけてきた。どうせ言っても

信じてもらえないと思うが、言ってみるか。


「こんな事言っても信じてもらえないかもしれないが……。

 チョコがあんこに変わってるから、ちょっと衝撃を受けたんだ。カルチャー

ショックって言えばいいのか? 俺はチョコ好きだからさ、ちょっと今絶望して

るんだ……」

 

俺は机に突っ伏したままユウゴに言う。どうせ信じてもらえないだろうな。


「俺はその『チョコ』っていうのがよく分からねぇんだよな……」


 ユウゴは困った様に頭を掻く。やっぱりそうか。俺の予感は的中した。


 あっ、そういえば……俺はふと疑問に思ったことをユウゴに聞いてみる。


「なぁ、外国ではどうなんだ?やっぱり外国でもあんこがあるのか?」


 するとユウゴは奇異の目で俺を見て


「お前どうしちまったんだよ、あんこを知らないみたいな顔をして。

外国でもあんこがあるに決まってんだろ」


 と言った。


 いや別に、あんこを知らないわけじゃないんだけどな……。

 っていうか、外国にもあんこってあるんだな。あんこって日本特有の食べ物じゃ

ないのか……。


 まぁ、俺が元いた世界でも、海外であんこが流行ってたらしいし、この世界では

むしろ海外にあんこがあっても何ら不思議ではないのかもしれない。


「……あのぉ……」


 ふと、廊下の方から声がした。女の子の声だ。

 声のする方を見ると、茶髪で、毛先を少しカールしている女の子が、こちらを

見ている。


 誰だ? 大方、俺と同じクラスの子ではなさそうだが……。あんまり見かけない顔だしな。俺も女の子を見つめ返す。


 ……ってこれ、多分俺に用がある感じかな? ずっと俺を見てるし。


「おい、あの子、さっきからお前を見てんぞ。お前に用があるんじゃないのか?」


 ユウゴが俺に耳打ちする。これは、俺が女の子の方に行った方がいい感じか。


 俺は立ち上がって、女の子が立っている廊下に向かった。









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