第6話 真っ黒

やめてくれ...やめてくれ......

やめて..くだ...さい


無機質なペンの書く音が響く静寂の中

コウキは自分の席に誠実に座って居る。


机の傷を見ると

心の奥底から勝手に不安、恐怖が

溢れ出てきて、近づいて来る。


ありえない俺は、俺は

心が耐えられなくなって自分を守るために、

コウキは体が勝手に立ち上がり叫ぶ。


「いや!そんなわけない!!」

キーーン

自分の大声で耳鳴りが鳴り続ける、


うるうると歪んだ視界で見える中、

コウキに驚きつつも、

蔑む様なみんなの視線が集中する、


汗だらけなコウキは戸惑って辺りを見回すと

自分が何をしたのか理解する、

顔を青くして申し訳なさそうに頭を下げた。

「すいません、何でもないです。」


「そうですか...わかりました。

授業を続けます。」

先生は何も聞かず何もなかった様に

黒板に書き続ける。


そんな嫌にリアルな妄想がずっとずっと頭の中でぐるぐると回る。


コウキは俯きながら、

目を閉じ手を祈る様に合わせて唇を噛む、

そのままの形で固まった。


授業が明けてコウキに1人近づいてくる

カツキが話しかけて来た。

「お前どうしたんだよ

なんか今日顔色悪いぜ」


「ああ..ごめん」

その一言で弱気で毒気の抜かれた様子を

カツキは感じ取りコウキに顔を寄せる。

「コウキ...何かあったのか?」


「何も無いよ。」


「嘘だ。だってそんな辛そうな顔してんじゃん」


「.....何も無いよ、」


「え〜本当は?からの〜?」


「...あのさ..俺ッ」

コウキが覚悟を決めて話そうとした瞬間

近づいて来るアイツ、


「オイカツキ退け。」

周りの事なんか無視して

力ずくで無理やりカツキを退ける。

カツキは頭を下げて立っていたから

簡単にバランスを崩して倒れる。


「ウワッ」


そしてコウキの前に立ちはだかり、

ニタニタした嫌な顔で睨む、

大問題児オオトリだった。

「コウキだっけお前、あの時はよくもなあ、」


粘着質の意地悪な嫌な声

「なんの事?」

「あのさぁ実は前から気に入らねえんだよ。

クラスで仲間外れにされて俺可哀想だな、

でその原因はお前だって、」


「お前の所為で俺は科学の時間いじめられたんだよ、可哀想じゃ無い?」

だんだんヒートアップしていく声

「お前は、迷惑なんだよ!」

コウキは頭を掴まれて無理やり立たせられる。


「なんとか言えよ。」


「やめろ!!」

倒されたカツキが立ち上がり、オオトリに声を荒げる。


「チッあ〜あ〜何カツキ?」

「放せよ!」


「何言ってんだカツキ、俺に向かって。」

「うるせえ!もうあの時とは違うんだよ!

お前はもう怖い存在じゃ無い。」


「フッ、って言うか俺は被害者だぞ。

コイツの所為で、」


「全部お前のせいだろーが!

また勝手に人の所為にしてんじゃ無え!」


何も言われずに後ろから転ばされたけど、流石にカツキこんなに怒ることは珍しい。

そこには何か踏み込んでは行けない領域があった気がする。


「先生ーまたオオトリくん喧嘩してるー」

甲高い女子の声が聞こえた後程なくしてドタドタと足音を立てて先生近づいてきた。


「まずっ、オイコウキ

コマチの次はお前だからな。」


オオトリは先生の足音を聞くと捨て台詞を吐いて窓を開けて、窓の通路から足早に逃げていく。


「テメェら!何喧嘩してんだ、

ってコウキとカツキ?お前らが喧嘩?」


「ちげーよオオトリが喧嘩売ってきたんだよ、」

先生はカツキの言葉と

乱雑に開けられた窓を見て納得する。


「そうかまたアイツか、

はぁーーめんどくせぇ、


あ、カツキお前怪我してんじゃん。」

膝の皮が裂け血が滲んでいた。

転ばされた時についたであろう傷。

先生は傷口を触らない様に、

患部を見る、


「コレは..転んだ。」

カツキは悔しそうにそう言った。

先生は何も聞かずに歩ける様に肩を貸す。


「次もアイツは来るぞ、コウキも反撃しろよ。」

「うん先生も許すぞ、ゴミは殺せ、窓から突き落とせ。」

2人はこんな時だけ揃ってグッドポーズする、

肩を組みヨタヨタと保健室に連れて行く。


これからいじめが始まるなんて、友達にもみんなにも家族にも恵まれていた自分には想像できなかった。


帰る途中、角を曲がったそこに、

オオトリが待っていた。

「よおー、コウキ。」


「何オオトリくん...」


「いやいやたまたま会ったから話しかけただけだよコウキ、フフハハ」

鼻で笑うと邪悪な笑みを浮かべて、

背後の誰かに合図を出す。


「ついでに友達も連れてきただけ。」


問題児のヤツガイ、カドツクが出て来る、


3人が同じ気味の悪い笑顔でノソノソ近づいて来る。そして腕を掴まれ持ち上げられる。

「コイツがですか?オオトリさん」

「何か弱そうですね、根暗っぽいし」


「ああそうだよそのバカを壊せ。」

オオトリの一言で取り巻きは動き出した。

「了〜解〜。」


無抵抗なコウキを殴る、蹴る、罵る。

「もう諦めろオオトリさんに目つけられた

時点で終わりなんだよ、低脳。」

「静かにしてろね。」

ボコッ!ボコ

ボコッ!ポコ


「ア、ッハァハァ」

いきなり2人がかりで鳩尾や胸を殴られ、あまりの衝撃に筋肉が痙攣して呼吸がしづらくなる。


「コイツ意外と力あるぞ、

腹筋が硬くて手がいてぇっす。」


「殴り続ければ硬くもなくなるだろ。

やれ!」

オオトリは取り巻きが痛がっている事なんか

構わず続ける様に命令する。


殴り続けられていると、

1人が背負ったカバンの中を漁りだす。

「じゃあそろそろ物使いますかね。」

「何持って来たヤツガイ。」


「今日は〜物差しソードです!へーい

しなって当たったら鞭跡みたいになるね。」

竹製の長い物差しを見せびらかす様に

ブンブン音を立てて振り回す。


振りかぶってコウキの脇腹を打つ。

「ウワァ」

ビュン


物差しは空をきる

情けない声を出しながら決死の回避、

持たれている腕に体を持ち上げて懸垂の状態になる。


避けられた取り巻きは、自分の振りかぶった

力でそのまま転び倒れ込んだ。


抑えてた取り巻きも急に腕に重さが掛かり、バランスを崩して手を離す。


その様子を見ていたオオトリは地面に寝ている取り巻きに声を荒げる。

「オイ!何してんだよお前ら、早く立て。」


ゴミを見る様な怒りの顔から豹変し、次は笑顔でコウキに振り向くと優しく話しながら近づいてくる。


「そうか運動神経良いんだっけコウキくん人気者だから。


そんな奴が、俺らのこと三体一でいじめて来るなんてフフフハハッ。」


1人で笑うオオトリ、

警戒心むき出しのコウキ。


「まあカツキほどじゃあねえな」


立ち上がった取り巻きは不満そうに手を見ると。

「イテー俺傷が痛むんですよ、切り傷がほらコレ。」


その手のひらには

大きくも無いでも小さくも無い

切り傷を見せる。


「ああ知るかよ!早く掴め!」


それはだれもがどうでも良い事だったが

コウキだけには脳内に別の傷と重なって見えた。

「傷キズ...黒いヒビ..ウ、ウウ、」


コウキは無意識の内に強張っていた体から

ダランと警戒心と力が抜ける。



「何だよ力が無く...気色悪りぃな、殺すぞ。」

拳が目の前で握られ、

殴られる、ただその瞬間


背後から大声が聞こえ、気づいた時には取り巻きに向かってドロップキックが綺麗に決まる。

取り巻きは人形の様に体から力が抜ける。


「な!?....カツキかーだれかと思ったぜ。

ハァーー、二体一かよ

遊んでただけなのに本気になりやがって。」


「消えろよ、オオトリ。」


倒れた2人を見て小さく舌打ちをする。

「ッチ使えねぇなお前ら..じゃあ帰らせてもらうわ、あとは勝手に、コウキまた明日。」


2人はオオトリが見えなくなるまで

警戒を解かなかったが、角を曲がって見えなくなるとドッと力が抜けて座り込む。


2人は顔を見合わせて、

傷を見合う。

「コウキ大丈夫か」

「うん。」

「腹見せろアイツ空手やってたから。」

お腹は少し赤くなっていたが、

それ程の大事にはなってい無かった。

「大丈夫か?」


「た..ろ...いや何でも、無い。」


「あんな奴気にすんな、まかしてやろーぜ俺らで。」


「...うんそうだな、」


2人の約束の前に、傷のついた少年と傷のついた少年の拳と拳が打つける。


そんな夏の終わり、

だがいじめは序章の始まりですらなかった。

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