第7話 同じ


夏の暖かい後風に寒さが近づくと感じさせる、若葉の蒼さも過ぎ服装もまた衣替えをし初めた。

今日この頃。


どんよりとした重苦しい雲が監視する元で、

コウキは厳重なフェンスに囲まれた校舎の裏でオオトリ達に殴られ蹴られ土でドロドロにされていた。


「なあコウキそろそろ折れてくれない?

聞いてたよりタフなんだよ、お前他の奴らと違って反応も薄いし、だろ!お前ら。」


オオトリが強制的に同意を求めると取り巻きも犬の様にウンウンと頷き続ける。

「コイツ楽勝かと思ってたら案外避けたりするしうざいんすよ」

「そうですね、オオトリさんから聞いてたより仲間も強いし疲れますね。」

ヤツガイの一言に、オオトリが眉を寄せる。


「何?それって俺が悪いって言ってんの?」

こっちを見る本気な目の圧力に押されたカドツクとヤツガイは震えながらも必死に言い訳をする。


「いやち、違いますよッコイツがッ悪いんですコイツが、」

「つまんないから、オオトリさんはやらされてる様なものネ!」


「ああそうだよな、


やっぱり...お前の所為だったな。」


何度言われただろう何度殴られただろう

季節が変わろうが何一つ良くならないこの地獄。


「早く壊れろよ!」

無抵抗に倒れたオオトリの足が脇腹に叩き込まれる。


キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン...

「帰るぞ..」


思いもしなかった楽しい時間を終わらせる、忌々しささえ抱いていた鐘の音が、

今や助けの音色になるなんて。


「..何で」

苦悶表情で広い校舎裏でうずくまると、

荒らされた学生カバンと残される。


ここ数ヶ月家族から学校の事をよく聞かれる。

僕は今までの様に楽しげに話すことが出来なくて別の話に変えたり、必死に隠す様になった。

学校で起こっていることも、汚されたものを隠れて洗うことも、体につけられた無数の傷も隠さないと、

毎日暴力を浴びているなんて言ったら、それこそ自分があんなに避けていた、アイツみたいにになってしまう気がした。


昨日は授業を受けていると後ろから汚い雑巾をぶつけられた。

おじいさんの先生も気づいているはずだけど、


この先生は他の先生には私が強く言い聞かせるとか言っといて何も言わない、特にオオトリの事は注意もしなければ、目の前で起きていても無視。


最近はいつもそうだ

見ている人を選んでは

周りから避けられて1人になった時や

人目のない所に連れて行かれ、


待ち伏せからの暴行

休み時間の行動の妨害

物を汚される、目の前で壊される

痛めつけられ、罵られ、

コウキは心身ともに限界だった。


でも机の傷には気づいてないみたいだった

それだけは良かった。


そんな事を考えていながら赤く腫れたお腹や腕を冷やす、新しく増えた傷に沁みる消毒液をつけ絆創膏を貼っていると、1人しか居ない保健室のドアが開く。

「「おーいコウキ!」」


「皆んな...どうしたの、そんなに急いで」

「今さっき窓からお前の戻る姿が見えてさ、怪我は..してるよな...ごめん助けれなくて」

「ああ、でも大丈夫だよ、授業始まるし

教室に戻ろうぜ。」

「でも、」


みんなから見たコウキは少しやつれて居た、

目の光がくすみ、最近あまり笑わなくなった。


体も数段白くなった肌が目立つ、

全身が少し細くなった気もする

あの頃のコウキより明らかに衰弱していた。


でも皆んなの前では、変わらない笑顔と目にうっすらと濁った光が戻る。


「大丈夫だって、帰ろうぜ。」


そう言って教室に戻り

席に触れると周りの違和感を

持つそして徐(おもむろ)にいつもなら騒がしいクラス内を眺めると。


自分の周りに人がいないのは

みんなの前でもオオトリにやられて知っているから当たり前だとして、


マドナやデタオ、カツキまでも、


マドナは話しかけた女子から無視をされ、

人気者だったマドナの周りにだれも近寄って行かない。

どこと無く寂しそうな顔をしていた。


デタオはいつもと変わらず1人で静かに本を読んでいたが命より大事だと言っていた

大切な本が所々破れていた。


カツキを見ると

コウキよりは少ないが明らかに全身の傷が

俺と同じ様に付いていた。

その顔は何回か見たことがある、

あの変に緊張した顔をしていた。


いじめは俺だけじゃない

クラスのみんなが無関係で居られなくなった加害者、自分たちに飛び火しない様に避ける、


僕たちはオオトリ達と変わらない位の

その"対象"。


自分と仲良くしてるとアイツらにも被害が出始めている。

自分のことが精一杯で友達の事を何も見ていなかった。


それに気づいた時コウキは圧倒されるほどの学校の居ずらさを感じた。


俺じゃなくて皆んな、何で見ないんだ、

クラスのみんな!あの時は俺が煽られた時は助けてくれたじゃん、助けてよ、助けてよ...


そんな声は誰に届くことは無く

     誰も聴くことは出来ない、


ダメだこれじゃあいつか、サラにまでッ

そんなに最悪な想像までしまう。


帰り道

そこにはクラスの時とは違い楽しそうに話していた皆んながいたが、コウキは唐突に直球に話しかけた。


「なあ皆んな、いじめられてるだろ。」


「え?」「あ、」

唐突すぎた言葉に最初は戸惑いの声だったが、だんだんと言われた事に気づき始め、


「いや...違うよコウキ、」

カツキは否定していた。


「マドナは隠し事できないよな、クラスでよく話してた女子もマドナを避ける様にしてただろ、」

マドナはいじめの単語を聞いた時から寂しそうな顔になってしまう。


「デタオは前俺に勧めてくれた本、命より大事だって言った本破れてたぞ」

こんな時だからこそデタオは戸惑いを見せずにずっと真顔を装うが冷や汗で濡らす。


「カツキだって」


「それ言うならお前こそ、オオトリに目つけられて、怪我ばっかじゃん、その傷も今日つけられたんだろ。」


カツキが頬につけられた傷を、指を刺して来たが、その伸ばした腕のはだけた袖から見える傷。


俺を守ろうとしてくれている綺麗な嘘が

全て空回りして自分をより責める事になる。


「....傷...見えてるぞ」


カツキは失敗した様にスッと隠すと、

不甲斐なさそう俯き唇を噛む。


そして辛さや優しさ、

対極の感情がごっちゃごっちゃしていっぱいになったコウキが、全部を声に変えて上げる。

「傷が!お前ら全員、いじめが伝わって来てるんだろ、俺から!!」


「お前が気に止む必要はないんだって、」


カツキが優しく言うが、

コウキの次の言葉は皆んなの想像とは大きく違う辛辣でヘビィな怒りの言葉だった。

「気に止む?そんなわけねえだろ!」


コウキの言葉に驚き「えぇ」と言う情けない声、そんな声は無視して叫ぶ。


「弱いやつはいらないんだよ!」


そうじゃ無いでも、


心の中の葛藤があったが

コウキは葛藤の気配も見せずに、

叫び続ける。


「お前ら俺はこんなに傷ついてんのに

変に味方ズラすんな」

コウキの獅子の歯噛みに

誰も何も言えなく、

人一番優しいマドナは泣き出す。


お前らだけは

「守れない奴らが

近くにいるのが不愉快なんだよ!」


強く当たるコウキのあまりの変貌に、皆んな本心じゃないと信じつつも顔が引き攣り、

コウキの真剣な眼差しに、

皆んなは弱々しくなって。


「コウキ、ごめ」

「もう良いよお前らは何もしなくていい

...使えないお前らなんてもう要らない。」


カツキが謝ることしか出来ないと

思った瞬間、

コウキは何も言わせなかった。


この会話の中で一度も皆んなの方を向けなか

ったコウキはカツキマドナデタオを残して、一人歩き出した。



暗くなった教室

一人の少年が......机を触る、

そして憎悪に塗れた嫌な声で叫ぶ。

「へぇコレがコウキの隠してた物かー。

アハハハハハ、よーし揃ったよありがとうね、

やっぱ俺はついてるなぁ。」


その顔は愉悦に浸る様な邪悪な笑顔。

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