15号車『眠れる湖(うみ)の底』
現在地・増毛町
トラックは増毛駅に着いた。私はお礼を言うと、忘れてたとばかりに名刺を差し出す。
「一晩お世話になった上にお弁当までいただいて、本当にありがとうございました。実は私、こういう者でございまして、よろしかったらお店の事を紹介させていただいて構いませんでしょうか?」
「ほほぉ、旅雑誌の記者ねぇ。別に構わないが、ぜひとも増毛の宣伝をよろしく頼むぜ」
快く承諾を得た私は、最後にご主人の写真を撮って増毛を後にする。
増毛駅に入った私は真っ先に窓口に向かい、増毛駅の入場券を購入する。今日はこれから留萌本線に乗って、一路帯広を目指す。
この先の留萌本線は、留萌駅で系統が分かれている。というのも復活区間である留萌~増毛間は道鉄両用線で建設され、深川~留萌間は鉄道をそのまま譲り受けた為に、運用の形態が異なっているからだ。
まず乗車する留萌~増毛間。鉄道は行き違いができないが、小回りの利くバスは行き違いができるようになっていて、時間によっては同一ホームに気動車とバスが同時に停車するという光景を見る事ができる。同区間は単線区間という事もあり正面衝突の懸念があるのだが、気動車やバスの位置はGPSなどを使い管理されていて、いまだ一度の事故も起きていない。
私のこの日の旅は、バスでスタートする。復活とは言えども新規路線扱いであるため、バスは高架橋を移動する。留萌までの間は比較的海に近い場所である為に、景色がよく見える。途中にある
待つこと数分、増毛行のバスが入線してきた。入れ替わりで発車する為に、私は慌ててバスに戻り、再び留萌駅を目指す。朝の疲れもあってかボーっと景色を眺めているうちに、バスは終点の留萌駅に到着するのだった。
留萌駅から深川行の普通列車に乗り換える。ここからは内陸を進む為に先程までとはかなり景色が違う。留萌本線は閑散とした路線ではあるものの、冬のこの時期はそこそこの乗客がいるようだ。
そういえばこの留萌本線は、時々ではあるものの『SLるもい号』と呼ばれる蒸気機関車が走っている。『るもい』と名が付いているが、留萌本線全線、つまり深川~増毛間で運行されている。全区間において客車をけん引するSLを見てもらおうと、増毛駅の近くには留萌本線と石狩線を渡す連絡線が設置されており、増毛駅からしばらくバックして連絡線を通って深川駅に戻るようになっているのだった。
私はお弁当を食べつつ留萌本線を移動する。そして深川駅に着くと、今度は函館本線を滝川駅まで移動する。この滝川駅には北海道新幹線の駅が設置されている。新十津川駅からこの滝川駅に路線が延長されたのも、実はこの新幹線駅の設置の影響だ。止まるのは各駅停車型だけではあるものの、その恩恵は計り知れなかった。
私がここから乗車するのは反対方向の根室本線。そのうちの滝川~新得間は全国の幹線の中でもトップクラスの閑散路線で、南の石勝線だけではなく、新しくできた士幌線の影響でますます厳しくなっている。しかし、これだけ雪深い北海道ゆえに、バイパス線としてなんとか維持されているのが現状であった。
滝川駅に降り立った私の目に、珍しい物が飛び込んできた。
「う、うそっ?!あれは北海道周遊列車の『エルム』だわ!」
そう、日本観光鉄道が道と北海道旅客鉄道を説得して実現した周遊列車だ。『エルム』とは
道内の駅事情から8両編成で運行されており、4泊5日の道北・道東コース、道南コース、9泊10日の北海道全域コースの3つのプランがあり、最低でも4~50万かかるらしい。
どうやら『エルム』は運転停車(行き違い、追い越しなどで行われる乗客の乗降を伴わない停車)のようなので、私はカメラを取り出して写真を撮る。しばらくすると函館行の特急『函館エクスプレス』が入線してきて、その発車の後、『エルム』はゆっくり動き出した。写真を撮り終えて満足した私は、発車の迫る新得行の普通列車に乗る為に根室本線のホームへと向かうのだった。
根室本線を富良野方面へと進んでいく。石狩川両岸の開けた場所から、再び景色は山間の様相を呈する。3月の今ともなれば、見える景色は閑散とした家屋に生い茂る草木と真っ白な雪化粧。飽きはしないが、どこか物悲しい。
住宅が増えてきたところで富良野駅に到着。ここでは富良野線からの接続と根室本線の列車交換に伴い、7分ほど停車する。私は途中下車印を押してもらうと、駅舎や駅前の風景を撮ってすぐさま列車に戻った。
根室本線はさらに山に入り、単線の線路を進んでいく。薄暗い中ではあるが、進行方向左手に大きな湖が見える。『かなやま湖』というダム湖だ。周辺はキャンプが行えるなどレジャー施設として整備されていて、冬の時期ともなればワカサギ釣りでにぎわう場所なのだ。
しかし、この場所はかなやまダムの建設により、集落や根室本線旧線が湖底に沈んだ場所なのだ。そんな湖を見ながら、いろいろな思いが浮かんでは消えていく。
1両編成の列車は、今日も山の中を走り続けるのだった。
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