6号車『自然とは美しく逞しい』
層雲峡温泉駅に到着すると、ホームには温泉街の人たちが立っていた。時間はちょうどチェックインの時間、宿泊客のお出迎えといったところだろう。
層雲峡という山間の場所柄、この時期は辺りに深い雪景色が広がっている。なので移動できる範囲は限られるものの、あえてその雪景色を楽しみに訪れる人もいるらしい。
私もそんな気持ちが理解できるあたり、物好きなのだろうなと思う。
さて、せっかく層雲峡に来たのだ。雪景色を撮りたくなった私は、ここで途中下車をする。ところがだ。手元の特急券を見てみると、初めから層雲峡で分割購入されており、立ち寄るのは元々の予定だったようだ。
駅前に出ると、3月という時期ながら、結構なにぎわいである。
冬のこの時期ともなれば、スキーやスノーボードの客も多くなる。そもそも首都圏からでさえ、新幹線と特急を乗り継げば6時間程度で来れるというほど近くなっている。これならば日帰りすら可能ではあるものの、思う存分楽しむのなら宿泊は必須。だが、訪れる人たちにとって、その程度の出費は些細な事だった。
次の旭川行の列車まで2時間ある。私は辺りの散策と温泉を楽しもうと、荷物をロッカーに預け、駅を出発した。
山の天気は変わりやすい。
ロープウェイに乗り、五合目あたりで写真を撮っていた頃はまだ天気も良く視界が良かった。ところがだ、温泉に入ろうと山を下っているあたりから空は一気に暗くなった。
その後、温泉に入ってゆったりしていると、ついにはちらほらと雪が降り始めた。雪見風呂としゃれこんでいたのだが、雪もその降る勢いを強め始めた。さすがに列車に間に合わなくなってはしゃれにならないと、支度をする為に湯から上がった。
突き刺すような寒さの中、脱衣所で時計を確認する。
時刻は16:52。次の列車は旭川行17:30発だ。
駅まで少し距離のある場所なので、私は慌ただしく着替えて駅へと向かった。
慌てたかいもあり、時間に余裕を持って駅に到着する。ロッカーから荷物を出した私は、列車を待ちながらカメラの写真を確認する。映し出された写真はどれも納得の
画面を実ながらにやけていると、旭川行の特急が入線してきた。実はこの列車は、旭川で東京行の最終列車と接続する。指定席を取った私には関係ない事なのだが、この関係で自由席の混雑具合が半端ないのだった。
どう見てみたところで、自由席はおしくらまんじゅう状態。これではとてもくつろげたものではなかった。一日の疲れもあり、指定席に座って私はホッと一息をついた。
17:30、層雲峡温泉駅を列車は定刻に発車した。そして、旭川へ向けて層雲峡の渓谷の中を駆け抜けていくのだった。
幸い吹雪くほどまで天気は悪くならず、列車も遅れる事はなく、定刻の18:22に旭川駅に着いた。
この旭川駅は、現在新幹線の最北端の終着駅となっていて、利用客に乗り換えに配慮されたホームが設置されている。そう、対面乗り換えである。
新幹線ホームは島式ホームの2面3線の配置となっていて、両端が標準軌の新幹線ホーム、二つのホームに挟まれた狭軌の1線が特急ホームとなっている。特急は駅に到着すると待機する新幹線の方のドアを開けて乗客を降ろし、車内点検後、到着する新幹線の乗客を反対側から乗せるのだ。
新幹線の延伸で、既存の特急のうちカムイは廃止。残るサロベツ、宗谷、オホーツクは旭川発着に変更した上で継続されている。
ちなみに、新幹線ホームから発車した列車は、まずはどんどんと下って新幹線の下をくぐる。その後、複線となっている宗谷本線から少し離れた位置を単線のまま北上し、新旭川駅手前に設けられた特急専用の信号所の先で分岐して、新旭川駅を過ぎた先でそれぞれに合流する形となっている。
さて、私の予定はというと、今日は旭川で宿泊する。なので、降りたホームで18:30発の新幹線を見送ってから改札へと向かった。
この日の旭川の気温は-5℃。風は無いのでまだ温かい。いや、氷点下なのに”暖かい”はちょっと語弊があるだろうか。しかし、1時間前まで層雲峡にいた事を考えれば十分暖かいだろう。
とりあえず、駅の近くで宿を取る。山では降っていた雪も、この旭川では降っていないようだ。宿も無事に取れた事だし、近くで食事をできる場所を探す。北海道の旭川と言って、これを食べない人はいるのだろうか?いや、きっといないだろう。
というわけで、北海道三大ラーメンのひとつ、旭川ラーメンを求めて検索をかける。
ほどなくして、いい感じの店がヒットしたので早速私はお店へと向かった。
たどり着いたお店はこじんまりとしているが、とても落ち着きのあるしゃれたお店だった。
これから食す旭川ラーメンと言えば、醤油のイメージが強かったのだが、今では味のバリエーションが豊富ですごい。私はその中から一つ、寒い時期に良さそうな辛味噌ラーメンを注文した。
辛味噌ラーメンが運ばれてくると、私はまず写真に収める。そして、まずは麺を口に入れてすする。絡みついたスープはそれだけでも分かるほど濃厚。さらに口に入ってから遅れてからピリッと感じられる辛さがまた何とも言えない。
レンゲにスープを取り味わう。味覚が人並み程度の私にはスープの成分が分かるわけもなく、その辛さゆえに次第に額から汗が吹き出してきた。しかし、そのおいしさゆえに流れる汗など気にせず完食するのだった。
最後にデザートを食べながら今日の旅を振り返った。最後の層雲峡のは環境や景観への配慮から大半がトンネルではあったものの、時々見えていた景色はまさに峡谷。大自然の荒々しさを存分に見せつけていた。
私は、そんな自然の生み出した景色に思いをはせながら、その日はホテルでぐっすりと眠るのだった。
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