5号車『雄大な景色を』

 夕張で一泊した私は、今日は石勝線から士幌線を乗り継ぎ、一路旭川を目指す。

 士幌線は日本観光鉄道が復活させた路線で、根室本線の帯広駅から石北本線の上川駅までを結ぶ。

 かつて存在し廃線となった路線とは違い、山を越えて上川までつなげた事で、道北と道東の短絡線ができたのだ。


 ところが、この士幌線の建設は一筋縄ではいかず、建設許可が下りるまではかなりの時間を要した。それもそのはず。予定線は景勝地である『層雲峡』などを有する大雪山国立公園内を抜ける。その上、地形的な条件や国道がすでに通っている事などを理由に、国交省との交渉は難航した。

 難交渉だったが、色々と環境や景観に配慮した処置を施す事を約束し、ようやく許可が下りた。切り立った崖があるなど工事は困難を極めたが、安全対策に力を入れていた為か死者を出す事なく、海峡東線と同じ三年前に開業させる事ができたのだった。


 この区間は山の中を走り、先述の通り国立公園を横断する為、かなりの閑散地である。その為に駅の設置場所の選定は苦心した。結局は帯広側からは上士幌町内までは地元から聞き取りを行い決定。糠平から先は幌加、層雲峡温泉、層雲峡口、石狩菊川と駅を設定し、後は列車交換用の信号所を数か所設けたのだった。

 さて、今回の乗車区間にはちょっとした特例が設定されている。その特例とは、『新夕張から新得間、糠平から上川間相互内発着に限り、特急券は不要』というものである。実は先述の区間には特急列車しか運行されていない為、こういった特例が設定されているのだ。


 今日はその特例区間を二か所とも通り抜ける計画だ。なんと言っても景色がいいので、私はカメラを手に出発前から息巻いている。


 宿を発った私は、まずは夕張駅から普通列車で新夕張へと移動する。新夕張からは特急スーパーとかちに乗り換え、帯広へと向かう。

 列車は雪深い山の中を進んでいく。一面の銀世界は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。


 占冠しむかっぷ、トマムと停車し、上落合信号所にさしかかる。ここではトンネル内が一度広くなり、根室本線と合流する。トンネル内とあって、線路が近づく様子を見る事は出来なかった。

 さあ、ここからはこの路線最大の眺望が開ける。線路は大きなS字を描きながら斜面を下っていく。そう、ここは狩勝峠かりかちとうげだ。とは言ってもオリジナルの狩勝峠は1966年の線路の付け替えで無くなってしまっている。だが、こちらの眺望だって負けていない。十勝平野を一望できるその景色は、私たちを『なるほど』と言わしめんばかりの絶景である事には変わりないのだから。


 列車は速度を落とし、山を下っていく。それからほどなくして新得駅に到着する。

 ここでは列車の行き違いの為にしばらく停車するようなので、私は先程撮った写真を確認する。……うん、きれいに撮れているようで私は非常に満足だ。


 上り列車が到着し、乗客を乗降させている。その様子を見ながら、私たちの乗るスーパーとかちは帯広に向けて出発した。

 今までの起伏に富んだ山の景色とは違い、見渡す限りの平原が広がっている。ここが有数の農産地の十勝平野だ。私はその景色に見とれている。

 しばらくして列車は、終点の帯広に到着する。次の列車までは少し時間がある。

 ちょうどお昼時だったので、私は名物の豚丼を食する事にした。


 腹ごしらえを終えた私は、旭川へ向かう為に再びホームに立つ。これから乗る列車は士幌線を経由する特急『大雪』。帯広と旭川を結ぶ特急で、名前は大雪山に由来する。時刻表を確認すると、途中の停車駅は『音更おとふけ、士幌、上士幌、糠平、層雲峡温泉、石狩菊川、上川、旭川』のようだ。


 13:18、特急に乗り帯広駅を出発する。駅を出た列車は、さっきスーパーとかちでやって来た線路を渡り、根室本線を左に見ながら大きく右にカーブする。

 高速規格で作られた路線は、かつての士幌線よりも西に離れて北上する。帯広の北、士幌町は北海道の中では比較的人口が安定しており、帯広~士幌間は意外と利用者が多い。その為、郊外路線にしては珍しく複線化されていて、運行本数も多くなっていた。

 日本観光鉄道は帯広駅から先、十勝空港までの路線を整備しようと考えているのだが、どういうわけか実現には至っていなかった。


 さあ、列車はどんどんと北上していく。

 上士幌を出たあたりから標高が徐々に高くなり始める。景色も木々が増え、石勝線の時のような感じになってきた。そして、旧士幌線末期の終着駅の糠平に到着した。駅舎はダム湖の近くに建っており、その姿かたちはかつての糠平駅を模したものだという。私はわずかな停車時間を使って、その姿を写真に収めた。

 さて、糠平駅を出発する。ここから先はさらにこう配がきつくなる。かつては25‰という急こう配もあった区間だが、この辺りの地形ゆえなのか、現在の技術をもってしても20‰までにしか緩和する事ができなかったらしい。とはいえ、これでもかなりの緩和と思われる。

 列車は行き違いに伴い、かつての終着駅のあった十勝三俣信号所でいったん停車する。辺りは非常に閑散としており、目の前の道路にはポツンとバス停が設置されていた。

 停車してから10分くらい経っただろうか、帯広行の上り列車とすれ違う。そのすれ違いが完了すると、列車は再び旭川へ向けて動き出した。


 列車はさらに山間へと入っていき、風景も様変わりをし始める。川幅はせまくなり、山肌も少しずつ迫ってくる。そして、高速規格で作られた路線は、その中をトンネルで突き進み、思ったより景色を見る事は出来なかった。

 この辺りの線路は、国道とほぼ平行に敷設されているが、一部区間は真っ直ぐに高架橋とトンネルで短絡的に進む。そして、眼前にひと際大きな山肌が迫ってくる。三国峠にさしかかったのだ。

 ここにあるトンネルは、士幌線中最大級の長さを誇る三国トンネルだ。このトンネルを抜けた時、それはすなわち十勝から石狩へと抜けた瞬間なのである。


 石狩側に入ってしばらくすると、眼前に湖が見えてきた。大雪湖だ。

 ここでは列車は国道から離れ、湖の東側をトンネルに入って進む。景色は見えないのだが、三国峠にさしかかったあたりからは、車内に層雲峡の見どころを伝える放送が流れている。その放送と車窓の景色を元に、私は層雲峡の景色を思い浮かべていると、列車はあっという間に層雲峡温泉駅に到着するのだった。

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