2号車『渡島トレイン』
列車はトンネルの暗闇へと進入していく。さすがに津軽海峡をくぐるトンネルだ。かなりの長大トンネルが為に、携帯の電波状況が気になる。
しかし、そこはさすが観光鉄道。トンネルの貫通後、鉄道の電線を引いていた時に、同時に携帯やインターネット用の対策も行っていた。そのかいもあって、約50kmにも及ぶトンネルだというのに、ほんの一瞬圏外になる程度で済んでいる。
さて、トンネルをくぐった先である道南の鉄道状況だが、函館本線の函館~小樽間は新幹線開業時に北海道旅客鉄道から経営分離され、現在は日本観光鉄道が運営をしている。
日本観光鉄道はそれ以外に、渡島半島の西側にかつての松前線、江差線の一部、瀬棚線を復活させ、それらをつなげて檜山新線として開業させた。
少々遠周りな点はあるものの、道南いさりび鉄道を含めて道南を周遊する鉄道網が完成した事で、少し活気を取り戻しているようだ。
さて、私の初日の旅程はこうだ。
まずは五稜郭で松前行の快速に乗り換える。その後、松前を散策して函館に戻る。夜には、新函館北斗発の夜行に乗って札幌へ向かうとなっている。
松前へは快速で約1時間かかるので、おおよその滞在時間は長くても3時間弱といったところだ。短いかもしれないが、自分で組んだ旅程なのだから仕方のない事だった。
しかし、この旅程を組んだのにも理由がある。それは北海道旅客鉄道が主体となり開催されている『北海道全駅スタンプラリー』である。北海道新幹線全線開業を記念して開催されているのだが、ただのスタンプラリーならまだ盛り上がりが弱い。
ところが、このスタンプラリーの恐ろしいところは、廃線などにより廃止されてしまった駅のスタンプまである事。一応サイト上には現在のスタンプの情報が載ってはいるものの、定期的に入れ替えらている上に運行中の列車内にあるなどコンプリートが難しいのだ。
また一定数のスタンプを集めていくと、好きな駅名の入った硬券や列車のブロマイドといった景品をもらう事ができるのだと言う。
今回乗る予定の快速『まつまえ』の中にもスタンプがあるらしく、私はひそかに楽しみにしているのだ。
さて、はつかりが五稜郭駅に到着する。ここで私は、道南いさりび鉄道に乗り換える。
ホームにはすでに列車が到着しており、大きな荷物を引きずりながら移動した。
列車は3両編成で、松前まで電化されているので分類は電車だ。
私は席に荷物を置くと、車内にあるスタンプを探しに行く。スタンプは3号車に置いてあり、早速スタンプラリーの台紙に押す。
スタンプに描かれた駅は『江差線・上ノ国(かみのくに)駅』らしい。
スタンプの内容を確認した私は、カバンから取り出していたクリアホルダーの中に台紙をしまい、席へと戻った。
まつまえは江差線を木古内へ向けて走る。比較的海の近場を走る線路からは、まだ肌寒い津軽海峡の海が見える。海底を走っていたため分からなかったが、意外と海は荒れ気味のようだった。
それでも太陽の光に照らされた海は、きらきらと輝いて見える。
木古内が近くなってきた頃、進行方向右手から北海道新幹線の線路が近づいてきた。そして。列車は木古内駅に到着する。ここで列車交換と新幹線との接続を図るために、数分間の停車が行われた。
函館行の列車の停車を確認してからしばらくして、まつまえはゆっくりと動き出した。ここからは旧松前線を辿るように進んでいく。
一旦新幹線から離れた線路だったが、かつて知内駅があったあたりで海峡線の線路をくぐり、松前駅へと向かうのだった。
列車は松前に着いた。
松前はその昔、蝦夷地(えぞち)の松前藩として栄えた町である。北海道唯一の天守閣の城下町であり、その天守閣である松前城がそびえ立っている。
私はそのお城の姿を見て感慨にふける。ただ、時期はまだ3月の頭。桜を見るにはまだ早すぎる時期だった。
しかしこの松前、北海道新幹線に加えて日本観光鉄道が復活させた旧松前線により、かなりアクセスが良くなった。そのかいあってか、桜の時期ともなればかなりの観光客でにぎわうようになったのだ。
また、松前から先は檜山新線として上ノ国、江差などを経由して国縫(くんぬい)駅までつながっており、遠回りではあるものの数少ない日本海を望める路線として利用する旅行者もいるようだ。
私もそんな旅行者の一人として、松前の町を散策する。松前城もそうだが、お寺などもあるので、私はそういったのんびりとした雰囲気を堪能している。
ただ、長く滞在できないのは残念な事で、お寺を参拝すると函館行の普通列車に乗り込むのだった。
1時間半ほど揺られ、私は五稜郭駅まで戻った。そこからは海峡東線へと乗り換えて、函館の観光名所の一つである五稜郭へと向かう。
函館本線の五稜郭駅からは少々離れており、海峡東線の東五稜郭駅の方が近い為である。
今の時間は夕方の4時を少し回ったところ。まだ間に合いそうだ。
五稜郭は函館市内にある五角形の城郭の一つであり、明治初期に起きた箱館戦争の中心地である。そんな激戦の跡地も今は公園として整備されており、その中には五稜郭を一望できる展望タワーが建てられている。
私は閉園までになんとか間に合ったのだが、タワーで売られているいかめしはすでに完売。数量限定である為、今回はあきらめてひと通り見学して回るのだった。
閉園時間となり、私は五稜郭から移動する。いかめしの事は心残りではあるが、市電に乗ってとある場所へと向かう。
この函館に来て向かう場所など限られる。しかもこの日暮れ時、向かう先など知れた事。
函館の夜と言ってこれを見ないわけにはいかない。そう、函館山から見る函館の夜景である。
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