妄想鉄道旅行(北海道編)
未羊
1号車『下北青函トンネル』
私は朝、東北新幹線『七戸十和田駅』に降り立った。
私は、都内の旅雑誌の出版社に勤めている。今回、長年勤めて溜まりに溜まった有給休暇を使い、二週間ほどの北海道旅行に向かう為である。
北海道へ行くには、旭川まで開業済みの北海道新幹線が早いのだが、今回はまずはじめに三年前に開業した『海峡東線』に乗車しようと、この七戸十和田駅をスタートに選んだのだ。
この『海峡東線』は、本来指し示すのは下北駅~五稜郭駅の部分であるが、この七戸十和田~野辺地、そしてその先の大湊線も含めて呼ぶ事がほとんどなのだ。
この路線の建設に至った原因は新幹線である。貨物列車はその積み荷ゆえに速度が上げられず、しかも新幹線とのすれ違いで荷崩れを起こしかねない。その為に、新幹線のスピードアップの為の路線を設定するにあたって、過去に計画された東側の路線が注目されたのだ。
しかし、過去の計画段階で地盤も問題もあった為に、色々と難色を示す者もいた。ところが、そこは技術の進歩なのか、15年という長い工期となったものの、三年前に無事に開業させるに至ったのだ。
この開業に先駆け、地上部分の鉄路も建設と改修が行われた。唯一の既存路線だった大湊線も大量の貨物輸送に対応すべく全線で複線高架化工事が行われ、悩みどころだった風の問題にも対応した。
こうした努力のかいもあり、開業以来の成績は実に好調なのだ。
一方で北海道新幹線はと言うと、車体の改良や貨物を分離させたおかげでかなりのスピードアップとなった。
開業当初は4時間2分という東京~新函館北斗も、今や3時間の前半となった。終点の旭川まで乗ったとしても5時間を切る。
ところが、観光資源も多い北海道ながら、その利用は伸び悩んでいて、やはりそこには地方の抱える過疎と利便性の問題が大きく影を落としているようだ。
さて、話を旅に戻そう。
私は初日、道南の函館と松前を見て回るつもりでいる。なのに新幹線を使わなかったのは前述のとおりである。
七戸十和田で新幹線を降りた私がコンコースを移動していると、アナウンスが聞こえてくる。
『ただいま、2番線に停車中の列車は、9時46分発、特急はつかり9号新函館北斗行です』
アナウンスされた列車こそ、私が乗り込む列車だ。
この列車は海峡東線開業時に設定された列車の一つ。だが、その時に列車名でひと悶着が起きたらしい。最終的には八戸発と七戸十和田発の2種類が設定され、前者を『白鳥』、後者を『はつかり』とする事となり、新函館北斗の発着時間に合わせて番号を割り振る事となった。
『はつかり9号の停車駅は、野辺地、陸奥横浜、下北、大畑、下風呂温泉、湯の川、五稜郭、終点の新函館北斗です。札幌方面へお急ぎの方は、東北・北海道新幹線をご利用下さい』
このようなアナウンスが流れるのも仕方はない。同じ七戸十和田~新函館北斗でも、距離は海峡東線経由の方が短いのだが、時間にすると実に倍近い差ができてしまうからだ。
これから私が乗り込む鉄道路線は『日本観光鉄道』という私鉄路線だ。実はこの海峡東線を建設したのは通称『観鉄』と言われるこの会社で、大湊線の管理運営も東日本より移管された。
それ以外にも日本各地で鉄道路線の買収や建設を行い、北海道単独のクルーズトレインを北海道旅客鉄道や北海道庁との共同運行で行うなど、かなり大胆な会社である。
まぁなんでも噂によれば、社長はかなりの鉄オタとの事らしい。
さて、発車まではまだ10分ほどあるので、売店で駅弁を購入する。購入したのは店員お勧めのちょっと古風な感じのするお弁当だ。
購入を終えた私は、列車に乗り込む。長大トンネルをくぐり、なおかつ気候の厳しい北国向けの列車。昔よりは大きくなったらしいけれど、それでも窓は小さく感じる。けれども景色を楽しみたい私は、窓側の席を確保しておいた。
そして、席に着いた私がこれからの旅程を書いたメモを確認していると、発車のベルが鳴り響いた。
これから約2時間の乗車になる。この分なら昼前には函館に着く。
七戸十和田駅を発車したはつかりは、かつての南部線をなぞるようにスピードを上げて走る。野辺地までは田園風景の広がる内陸を進む。
出発から15分ほどで、最初の停車駅である
およそ2分ほどの停車で、列車は大湊線へと入っていく。しばらく進んでいると、進行方向左側に陸奥湾が見えてきた。列車はこのまま陸奥湾に沿って北上する。
大湊線は元々は下北半島に向かう為のローカル線。大湊線の走る下北半島の付け根の陸地は東西に細く、強風に悩まされ続けてきた。しかし、この海峡東線としての位置づけにあたり、強風対策を含め大掛かりな工事が行われた。
その結果、今では最高時速160km/hで走行する事もでき、野辺地~大湊は35分程度で到達する事が可能となった。
ところが、私が乗車する『はつかり』は大湊まで向かう事なく、一つ手前の下北でスイッチバックして大間方面へと向かう。その関係で、下北~大湊のひと駅間だけ単線になっているのだ。
さて列車は下北半島の南側から北側へと、かつての大畑線に沿って内陸を抜けていく。大畑駅に到着した列車は、未成線だった大間方面へと進んでいく。
ここからの景色は山と海に挟まれたものへと、どんどんその姿を変えていく。私はその景色の変化を楽しんでいた。進行方向が変わったあたりから食べていた駅弁も、また一層おいしく感じる。
さあ、はつかりもいよいよ本州最後の停車駅である『下風呂温泉駅』に着いた。この駅を出るといよいよ本州ともお別れとなる。
下風呂温泉を出たはつかりは、右側に大間支線の線路を見ながら段々と地中へと潜っていく。そう、これから下北青函トンネルに突入するのだ。
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