4話 話したい事

「ダート……話たい事があるんだけどいいかな?」


 勇気を出して声をかけたはいいけど……どうやって伝えたら良いのだろう。

そんな事を思いつつもダートなら応えてくれるだろうという思いがある。

流石に他人に期待しすぎなのは自分でも分かっているけれどこれで問題無い筈だ。


「ん?なんだよ?」

「もう一人連れて行っていいって事だから……、コルクに同行をお願いしようと思うんだけどどうかな」


 コルクの名前を出した瞬間にダートが驚いた顔をする。

そういえば彼女が元冒険者だと知っている人はこの村だとぼく位だっけ……知らないとそういう反応するのはしょうがないと思う。


「どうっておめぇ……、あいつは免除組だろ」

「コルクは元冒険者だから大丈夫ですよ」


 元冒険者という言葉を出した瞬間に険しい顔になる。

もしかしたらぼくが何かしてしまったのだろうかと不安になるけれど何もおかしい事はしていない筈だ。


「俺はコーちゃいや、コルクが元冒険者という事を知らねぇ……、あいつが周りに言ってねぇって事は秘密にしたいって事だろ?それを不用意に喋るんじゃねぇよ」

「別に不用意って訳じゃ……」

「なら最初に口止めしとけよ……言い方次第で伝わり方が違うんだから」


 そう言うとぼくのおでこを軽く小突いてくる。

ここ一か月同じ事を言われているけど未だに失敗してばかりだ。

言い方次第で伝わり方が変わるのは理解出来たけど……それならどうすれば正しく伝える事が出来るのだろうかと悩んでしまう。


「取り合えずおめぇの言いたい事はわかったけど、今から行くと夜遅くなるし明日行こうぜ?」

「確かにその方が良いかもしれないね」


 あの二人と話している間にそれなりに時間がかかっているのは確かだ。

それに男性が夜遅くに行くのは良くないだろうし気を使った方が良いだろう。


「って事で今日はどっちが飯作る?」

「それなら昨日はぼくが作ったからお願い出来る?」

「にししっ直ぐ作るから待ってろ!」


 そういうと笑顔でキッチンに入って行く。

ダートがご飯を作る時は手間がかからない簡単な料理が直ぐに出てくるのは嬉しい。

ぼくも最近は彼女に習って簡単な料理を作る事が増えた。

一人でご飯を作っていた時は美味しい物を食べる為に幾らでも時間をかけていたけれど人に出すとなると待たせるよりも早い方が良いと思う。

ダートの場合は特にそう感じる。


「この匂いは……あれかな?」


 たまに作ってくれる料理なのだけれど、お肉と野菜と細かく刻んだパンを塩胡椒で焼き上げてシンプルな物と生卵を塩と砂糖に特性ダレとミルクを混ぜて焼き上げた卵焼きで簡単に作れて美味しいのは凄いと思う。

ダートが言うには古郷の家庭料理の一つだというけれど……元の世界の料理だろうか。

そんな事を考えていると満面の笑みを浮かべた彼女が二人分の料理を持って出て来た。


「にししっ、今日のは特別うまそうだぞぉ……さっすが俺っ!」

「では……いただきます」


 最初はご飯を食べる前に祈っていたけれどそうすると彼女が終わるのを待っていて申し訳ない為、ダートの古郷の習慣に合わせる事にした。

最初は俺に合わせないで良いと怒って来たけれどその割には嬉しそうな顔をしていて彼女の気持ちが分からなくなる時がある。

そんな顔をしているのに言葉では怒っているというのは理不尽ではなかろうか。


「おぅっ!召し上がれ!」


口に入れた瞬間に広がる食べ応えのある食感に卵焼きの優しい舌触りが食欲を満たしてくれる。

彼女が言うには安い食材はそのままでは今一だが手間を加える事で高級食材に負けない美味しさになると言っていたけれどこの短時間がどうすればそんな手間をかけられるのか、今度教えて貰うのもありかもしれない。

考えながら食べていると何時の間にか全部食べてしまったようで目の前の料理が無くなっていた。


「んな残念そうな顔してんじゃねぇよ……俺の少し分けてやっからそれで我慢しろ」

「いや……いえ、ありがとう」

「しかしほんとお前それ好きだよなぁ……落ち込んた顔した時にこれ出すとお前直ぐ機嫌良くなるからわかりやすいわ」


 少しだけ分けてくれるのは嬉しいけれどダートは良いのだろうか……。

心配にはなるけれど彼女にそう言われると何も言えなくなってしまう。


「ごちそうさま……、それなら明日はぼくが美味しいご飯を作らないとね」

「おぅっ期待してるぜ」


 そういう彼女を見て嬉しい気持ちになりつつ食器を纏めてキッチンに持って行き綺麗に洗い清潔な布で良く拭いて水分を取って行く。

料理をして貰ったら洗うのは出して貰った側だ。

一緒に暮らしている以上は家の事は分担した方が良いと思うからこれで良いと思う。


「俺は自室でゆっくりさせてもらうから何かあったら呼べよ?」


 そういうとリビングから離れて行く気配がした。

彼女は夕飯を食べ終えるといつも自分の時間が欲しいと言って部屋に篭ってしまうけど、いったい何をしていのだろうか。

以前聞いた時は一緒に暮らす以上はプライバシーを守れと怒られてしまったけれど、気になる物は気になってしまう。

とは言え何度も聞いて又怒らせてしまうよりはいつか教えてくれる時を待てばいいか。


「それにしても今日は疲れた……」


 急に護衛隊の人が来たと思ったら、栄花の二人が来てこれだ。

流石に疲れてしまったけど……明日は早めにコルクの所に行きたいから朝ご飯を今のうちに作っておいた方がいいだろう。

取り合えずマローネさんに教わったサンドイッチを二人分作って行く。

手軽に食べれるし作るのにもそこまで時間がかからないのが本当にありがたい。

それにこれなら朝移動しながら食べても問題無いと思う。


「……そろそろお風呂入って寝ようかな」


……朝食を作り終え眠くなってきた眼を軽く押さえながらお風呂に向かう。

明日に備えて直ぐに出て寝ようと思ったけれど風呂場には入浴中の札が下がっていて直ぐに入れない。

一緒に暮らすと入りたい時に入れないからこういう時不便だ。

それにダートが入ると兎に角長いから今日は諦めて治癒術で体を綺麗にして寝ればいいかと思いそのまま自室のベッドで横になるのだった。

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