3話 ケイとアキ

 二人を待たせ過ぎるのは悪いと思い急いでお茶を淹れて戻ってみるとそこには険悪な雰囲気が流れていた。

原因はダートが不機嫌な顔をして二人を睨みつけているからというのもあるけど、それに気付かないかのように嬉しそうに座っている大剣使いの男性と小さな本を取り出して読書を始めている弓使いの女性の態度も原因だろうか。


「アキ先輩、お茶って何が出るんすかねぇ!俺楽しみっすよ!」

「……あなたは落ち着いて待つことも出来ないのですか?」


やっとこの日常に慣れて来たと思ったのに直ぐこうやって変化するのは正直いい加減にして欲しい……。

とは言えぼくまで不機嫌になっては話が進まなくなってしまうから止めた方がいいだろう。


「お待たせしました。熱いと思うのでゆっくり飲んでくださいね」

「あざっす!……ほんとだ熱いっすね!」


 出した瞬間に一気に飲み干す姿を見て思わず言葉を失ってしまう。

淹れたてだと説明したのだからそれ位分かるものだろうと思うけど……、ぼくの考え方が間違えていたのだろうか。

咄嗟に隣に座っている女性の顔を見てしまうが彼女もぼくと同じ考えなのか眉間を押さえて苦い顔をしている。


「私の後輩がバカな事をしてしまってすいません……」

「いえいえ……」

「先輩っ!バカってなんす……ゴボゴボ」


 これでは話が進まない……どうしたものかと悩んでいると彼の口周りを水で覆い喋れなくしてくれた。

何というべきかダメな後輩の世話を焼く先輩みたいな感じがするけど今はとりあえず置いといた方が良いだろう。


「やっと静かになったのかよ……で?アキだっけ?同行して欲しいって事だけど理由聞かせてくれよ」

「ご迷惑おかけして申し訳ありません……、理由ですか?この村に居る治癒術師がレースさんしか居ないからですね」


 確かにこの村にはぼくしか治癒術師はいない。

それに確か護衛隊の彼が開拓の為に深くまで入るから付いて来て欲しいという風に言っていた気がする。

今迄とは違う場所に行く以上危険も増えるけど本当にぼくが行く必要があるんだろうかと思う。

何かあれば直ぐに診療所に来れば良いのに……


「確かにこの村にいる治癒術師はレースしか居ねぇけどよ……それなら他所から連れてくるとかすりゃいいんじゃねぇの?治療術が使える冒険者もいるっちゃいんだろ?」

「都市ならそれでそれで良いのですが、こういう小さな村の場合知らない人間が入り過ぎるのは良くないという我々の考えの下レースさんに声をかけた方が良いと思った次第ですね」


 それを理由に出されたら断ろうにも断れなくなってしまう。

確かにこの村にはぼくしか居ないのは事実だし、他の治癒術師達からしたら大きな争いが無いから怪我人が少ない分この村に居てもお金にならない。

何故かというと治癒術師は基本的に教会と言われる団体に所属している者が多く治癒術を使う度に一定の寄付額を納める事になるのだけれど、それが個人で活動している治癒術師とは違いどうしても割高になる。

それがあるからこの村の人達ではその金額を出す事は出来ないし何よりも金銭事情を理解している教会が力を貸してくれる事も無いだろう。


「それならしょうがねぇかもしれねぇけどよ……肝心のこいつが良いって言うかわかんねぇぞ?」

「ぼくはそうですね……、ダートが一緒に来てくれるならいいですよ?」

「らしいですよ?ダートさん?」


 事情が理解出来た以上行かないという選択はこの村に居る以上は出来ないと思う……とは言え開拓に同行してもし戦う事になる事になったら戦闘が苦手なぼくは足手まといになる。

そんなぼくが一人で行くよりも護衛の彼女が居てくれるというだけで安心出来るし何より冒険者ギルドで高名な魔術師だ……正直見ず知らずの彼女達に付いていくのは信用できない。

それに行くなら付いて来てくれると言ってくれた彼女を信じるのも必要だと思う。


「ったく……そう言われたら嫌だって言えねぇじゃねぇかよ」

「来てくれるみたいで良かったっすね先輩!」

「はい、揉める事無く順調に進められて良かったです……」


 そう言うと二人は荷物を纏めて立ち上がり帰り支度を始めた。

いったい何処に行くのだろうと思ったけど、最近村に簡易的な宿が出来た事を思い出す。

そこに帰るのだろうかと思うけど何時頃開拓に同行すればいいのだろうか、そこら辺を聞いていない以上聞いた方が良いと思うけど……。


「おめぇよぉ……そんな顔すんなら自分から聞けってぇの……わりぃ確かケイとアキだったか?」

「はいっす!なんすか?」

「行くのは分かったんだけどよ、何時頃行くんだ?」

「それは大体一週間後と聞いてます」


 一週間結構待つみたいだ。

その間に準備出来そうな物があったら色々と用意しようか。


「あの……他に聞きたい事とかは無いですか?」

「えぇ、もう大丈夫です」

「……あっ!一応っすけど他に呼びたい人がいるなら後一人くらいなら呼んでいいっすよ!って事で当日合流よろしくっす!」


……そういうと彼等は挨拶をして家を出て行く。

それなら出来れば顔見知りをもう一人連れて行きたい。

コルクなら誘えば来てくれるだろうか……彼女は元冒険者だ。

ぼくと同じ免除組だから普段は雑貨屋にいる事が多いから今も戦えるのか分からないけど声をかけてみようか……。

でも来てくれなかったらどうしようかという不安が募るがこういう時はダートに相談するべきだろう。

暫く一緒に居て分かったけれど彼女なら自分の考えを伝えても聞いてくれると感じる。

ぼくは勇気を出して椅子に座ってつまらなそうな顔をしているダートに向かって声をかける事にした

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