14話 雑貨屋にて

 顔を赤くしてうつむいている彼女を見て心配になる。

先程から一人称の変化といい何かがおかしい……、一体何があったのだろうか。

朝まではあんなに元気だったのにどうしたんだろう。


「ちょっと先生、何か言う事あるんじゃないの?」

「いう事ですか?」

「んもうっ!服装を褒めるとかあるじゃない!」


 服装を褒める?褒めると言われても、ダートさんは見た目が良いから何を着ても似合うと思うし、それに褒めてあの性格なら怒るだろう。

そんな見える地雷を踏み抜く気はぼくには無いわけで……、でもおばさんはぼくに彼女を褒めてあげてというけれどどうしたらいいのか。

考えても特に思い浮かばないからここはおばさんの言うように褒めた方がいいのかもしれない・


「良く似あってると思います。」

「……っ!」

「ダートちゃん良かったじゃない!褒めて貰えたわよっ!」


 褒めた瞬間に彼女の肩がびくんと跳ねる。

本当にどうしたんだろうか、おばさんも何だか嬉しそうだし一体何があったのか?

…………考えてもわからないから予定通り雑貨屋に行こう。



「ではおばさん、お会計の方お願いします。」

「あら?いらないわよ?」」


 ……なんで?このおばさんはお金に厳しい事で有名なのにかいらないという、既に彼女が既にお金を払ったんだろうか。

もしそうなら遠慮しないでいいのになぁ……、ただそういう事ならそのまま雑貨屋に行かせて貰おう。


「今日はありがとうございました。」

「こちらこそ良い物を見せて貰ったわぁ、ダートちゃんまたよろしくねぇ。……先生も今度は服を買いに来てねぇ」

「えぇ、その時は是非」


 さっきから黙ったままの彼女を連れて服屋を出る。

雑貨屋にもうすぐ付くのに未だに会話がない、これは結構気まずいかもしれない。

やはりなんか怒らせてしまったのだろうか?そう思い悩んでいると、一瞬何かが光った気がした。

何事かと思い振り返るとそこには強気な瞳をした彼女がぼくを睨んでいる。


「てめぇ……なぁにさっきからそわそわしてんだよ」


 先程のしおらしさとは一転して、口調に威圧感があり下手な事を言うと今にも機嫌を損ねそうだ。


「いや、ダートさんが静かだったから心配してたんですよ?」

「……余計なお世話だっ!次変な気を回したらキレっからな?」


 もう既に怒っているのでは?と思うけどそうこうしているうちに雑貨屋に着いた。

ここの店主は変わった人だけど基本的に良い人だから大丈夫だろう。

そう思いながら雑貨屋の中に入り商品に目を通していく。


「おんや?レース先生じゃないか、今回は何がご入用で?」

「あぁ、どうも店主さん」

「なんや他人行儀に、うちとあんたの仲なんやからさぁ。それにいい加減名前で呼んでくれてもええんよ?」


 ぼくに気付いた店主が近づいて声をかけてくる。

相変わらずこの人は距離が近い気がするけどお客さん全員にこれで、村人からの印象が良く大変人当たりが良い。


「今回はですね。本日から助手が新たに配属されまして、助手が使う日用品を買いに来たんですよ」

「ほぉ、助手はんが来たんかぁ……ってそれはあそこのべっぴんさんで?」

「えぇまぁ」


 べっぴんさん…?確か美人って意味だっけかな。

そういえば雑貨屋に入ったのはぼくだけで彼女は何故か入って来なかったっけか、彼女の日用品を探しに来たのに何をしているのだろうか?


「おーい、そこのねぇちゃん!何が欲しいのか入って来て話してくれーっ!」

「……えぇっ、わかりました」


 丁寧に返事をして彼女が入って来る。

物珍しそうに店内を見ながら歩いて来るが、特に店内には興味が無さそうな雰囲気を出していた。


「特にこれと言って店内に欲しい物はないのですが……、もしベッドとかあったら購入させて頂く事って出来ますか?」

「ベッドかぁ……、そういやぁデカくてかさばるから店内に置いとらんのやけど倉庫に丁度良いのがあんなぁ……ちょっと待っててな?」


 そういうと店主が奥に入って行く。


「ダートさん、急にそんな丁寧な口調になってどうしたんですか?」

「おめぇ馬鹿か?この服装で口調が荒かったらやべぇだろうが」

「あぁ……確かに」

「……おめぇ服屋のおばさんが言ってたようにもっと村に出た方が良いと思うぜ?圧倒的に対人経験がなさすぎんだろ」


 なんと失礼な診療所を経営している手前定期的に人と話すし交流もある。

対人経験はそれだけでも充分ある筈なのにそこまで言われるのは納得が行かない。


「待たせてごめんなー、持ってきたでぇっとっ!」

「ありがとうございます。店主さん」


 店主がベッドを持ってきて店内に置くと笑顔で彼女に話しかける。

いつ見ても人に好かれる笑顔をする人だ。


「店主さん何て他人行儀な、コルクさんって呼んでええよー」

「ふふ、ありがとうございますコルクさん」

「ほんまええ子やなぁ、うっし気に入った!そこの先生に酷い事されたらうちにいいなっ!力になるかんね!」


 ……いったいぼくが彼女……ダートさんに何をするというのだろうか


「ありがとうございます。その時は頼らせて貰いますね」

「任せとき―、でベッドはこれでええのん?」

「えぇ、それでお願いします」

「お買い上げありがとうございまぁす!」


 ダートさんが突然の大声にびくっとする。

これが無ければ良い店主なのに、誰かが商品を買うと大声で叫び出すのが難点だ。


「ベッドはばらして持って行くんか?女の子とそこの先生だけじゃ運ぶの大変やろ?」

「そのままで大丈夫ですよ」


 そういうと指先に光を灯し空間に線を引いてベッドの大きさに開くとベッドを中にしまう。


「ほぉう、空間収納使えるんかぁあんた良い魔術師なんやねぇ……ところでお金はどっちが払うんで?」

「それならぼくが払います。」

「おぉ、先生にしては器量を見せるやんいいねぇ」


 器量を見せる?一体何を言っているのかわからないけれど店主が提示した金額を渡して会計を終えた。

後はこのまま今日は帰って、明日に備えなければ……昨日今日と二日も診療所を閉じている。

これ以上閉じているわけにはいかないだろう。


「ではぼくたちはこれで帰りますね」

「もう帰るんか……?先生も何か買うたらええんに……」

「今度来た時に買いますよ」


 そう言って雑貨屋を出て帰路に向かう。

後はもうやる事がないからさっさと帰ってゆっくりしたい。


「そういうなら絶対買うて貰うかんなーっ!ではご利用ありがとうございましたぁっ!お嬢ちゃんもまた来てなぁッ!」


 元気な声が背後から聞こえるて思わず笑みがこぼれる。

友人が元気なのを見ると嬉しくなるのはしょうがないと思う。


……そんな感じで村での時間が過ぎてゆっくりと家に帰ると誰かが玄関の前にいる。

今日は誰かが来るとは聞いてはいない。

もしかして急患だろうか?そんな嫌な予感が脳裏を過ぎった。

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