13話 村娘ワンピース ダート視点

 

 レースさんが強引に店から追い出されていく、私は服を適当に選んで買って雑貨屋によって必要な物を揃えて帰るだけだった筈なのに……


「さぁて女心が分からない男は出て行ったしダートちゃん!あなたが好きな服とかってあるかしら?」

「好きな服……ですか?」


 余りの驚きに自身にかけていた暗示の魔術が解けてしまい口調を荒くする事ができなくなる。

この世界に来てから口調や態度が悪くなったのは事実だけれど生まれた環境で育んだ口調等は抜けない。

冒険者をしている以上、丁寧な口調だと舐められるだけその為に自信に暗示をかけてあの性格を上書きしていたのもあるけれどふとした時にこうやって解けてしまうのが難点だ。

それに好きな服って言われてもこの世界に来てからはそんな余裕無かったし、何より無一文の状態で投げ出されて放心してる所をカルディアさんに拾われて助けられてからも自分の力で稼ぐしかなかったから今迄そんな事考える時間もなかった。

そんな私に好きな服を選べと言われても分からなくなる。


「黙ったままでどうしたの?ダートちゃん大丈夫?」

「えぇ、大丈夫です……ただ服を選ぶのって初めてでどうすればいいのかわからなくて」

「そうなの?こんなにかわいいのに勿体ないわねぇ」


 この村に来てレースさんに会ってから引っ掻き回されてばかりで、お洋服を買いに来ただけなのにこうやって驚かされてしまう。

いつもなら直ぐに魔術をかけなおすのだけれどこの現状を考えるとそんな時間すらないと思う。


「ただ……、水色のお洋服があるのでしたら来てみたいです。」

「水色でいいの?」

「はい、その色私のお母様が好きな色だったので着てみたくて」

「お母様が好きだった?……成程ねぇ」


 おばさまが何か納得したような顔をすると服を選び始めた。

お母様は良く水色を主にしたドレスを良く来ていてそれがとても似合っていたのを今でも思い出す事が出来る。

私が居なくなってしまって心配していないだろうか、必死になって今も私を探しているんだろうか。

そう思うと心が苦しくなるけれど、もう戻れない日常に思いを馳せてもどうしようもない。


「ダートちゃん、これなんてどうかしら?」


 おばさまがお洋服を持って歩いてきた。

村娘ワンピースを綺麗な水色に染め上げ、白い花柄の刺繍が映えて綺麗に彩られている。

都に居た時は見た事が無い綺麗な染め色に思わず目が奪われてしまう。

どうしたらこのような綺麗な水色が出来るのだろうか、透き通るように綺麗な水色に所々白い花を刺繍しているのはそれだけでも作り手の手間が見て取れるようで美しい。


「これは、凄い綺麗ですね」

「でしょお?お母様が好きだったってダートちゃんが言ってたから、うちで一番の洋服を選んだのぉ」

「ふふっ、ありがとうございます。」


 素直に好意が嬉しい。

自然と笑みがこぼれてしまう、この人にお洋服を選んで頂いて良かったと感じる。


「でも、ダートちゃんの今の服ってローブの下おへそ出てるし短いズボン履いてるじゃない?それと比べたら動きづらくなっちゃうと思うけど大丈夫かしら?」

「大丈夫です。それにこれからこの村でお世話になるんですもの……服装を合わせないと」

「ほぉんといい子ねぇ、先生の所に良い子が来てくれて嬉しいわぁ……これから毎日通っちゃおうかしら」


 おばさまが笑顔で言ってくれる。

会いに来てくれる人がいるのは凄い嬉しい、今迄そんな余裕無かったから友達もいなかったし仲が良い人もいなかったから……この村で歳の離れた友達が出来るのかもしれい。

でも暫くしたらレースさんを連れてカルディアさんの所に帰らなければいけない……友達が出来たら帰りたくないな。


「おばさま、私このお洋服買います。それに他にもおばさまに選んで貰っていいですか?」

「あら?これくらいただでダートちゃんにあげるわ?この村に来てくれたお祝いに何着かプレゼントするわね?」


 このお洋服もかかっている手間を考えれば原価もそれなりにする筈なのに貰っていいのだろうか。

気が引けるしやっぱりちゃんとお金を払わないと……


「そんな……、それだとおばさまの元にお金が……」

「若い子がそんな事考えなくていいの、年長者の好意に甘えなさいっ!」


 そういうとおばさまは私に合うお洋服を合わせて一週間分見繕って袋に入れて渡してくれる。


「あ、ありがとうございます。」

「良いのよー。変わりにこれからは定期的に買いに来てね?おばさんとの約束よーっ!」

「ふふ、はいっ!約束です!」


 おばさんと二人で声を上げて笑う。

これはおばさんの投資なのだろう、こうやって私に合うお洋服を見繕いプレゼントすることで定期的に買いに来てくれる顧客を獲得する。

人がいいけれど、抜け目がないおばさまで気持ちの良い人だ。


「そうだ、最初におばさんが選んだ服ここで着て行きなさい」

「そんな良いんですか?」

「いいのよぉ、先生を驚かせちゃいなさい」

「レースさんとはそんなんじゃ……」


 レースさんを驚かせるか……、そんな関係ではないしまだ出会って一日しか立ってない人を驚かせてどうすればいいのだろう。

こういう時お母様なら何らかの答えを持っているのだろうか。

そう思いつつ村娘ワンピースに着替えて行く、着心地が良くて袖に腕を通すだけでも気持ちが良い。

辺境の村にあって良いような服ではないと思う。

それに髪型もロングポニーよりも、ほどいて降ろした方がこの服装なら似合いそうだ。

そして髪を降ろして着替えが終わった時だった……。


「先生もういいわよーっ!入ってきてー!」


……おばさまがレースさんを呼ぶ。

嘘…こんなタイミングでまだ暗示をかけなおしてないのに、見られたらどんな顔をすればいいのだろう。

まだ心の準備が出来ていないのに、焦っているとレースさんが入って来る。

産まれてこの方着飾った姿を男性に見せた事が私は恥ずかしさから顔をうつむかせてしまった。

どんな顔でレースさんを見ればいいのか私にはわからない。

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