第3話 仮のパーティー
魔術師アイと黒兎2人の月日は流れ始めた。新しい……仮の望鏡パーティーとして。魔術師アイの個人の望鏡ランクと以前のパーティーの望鏡ランク、追放されたからにはそれまでの実績は無に等しい。この世界で絶対的な権力を持つミラー機関に信用されるためにも2人は次のクエストをこなしていくのであった。
鏡のセカイは美しい景色ばかりではない、暗雲と赤い草原に黒い森。森に棲む獰猛な獣の群れはその一角から望鏡者たちの存在を感知し気付いた。
戦いは既に魔術師アイの得意とする古杖のアレンジ魔術をぶっ放し開戦しており。ガミの群れに2人だけで立ち向かうのは確かな勝算と成功体験があるからだ。
背に背負う銀のブーメが今のところ黒兎のメインウェポンである。
小さな体躯から投げ放たれた銀の三日月は、魔術師アイに襲いかかって来たユニコーンのガミの首を斬り刻み寄せ付けない。
黒兎の役割は前衛で戦うことではなく魔術師アイの撃ち漏らした近場の敵の殲滅、質の良いイメージ構築をするための護衛であった。
「よしよし成したぞ! 来い黒兎」
「うぃ」
黒兎は魔術師アイの懐へと入った。同じ前を向き立ち、アイの両腕にギュッと拘束されている。
イメージ構築したモノを黒兎と共有していき、更に練り上げていく。
「前と同じく捉えてろ、今度はちゃんとしたイメージアレンジユニーク」
「イメージわかった魔術師アイ」
「なら合体魔法、だ!!」
アレンジイメージユニーク構築は完了、魔力と気力を出力。
地に突き刺した古杖から前方、地の様相が白く変わっていく。急速に広がっていった白は氷の一面を成し獰猛なユニコーンの
黒兎が捉えた無防備なユニコーンの伏した横腹に突き刺さる氷の一角。一角には一角を機動性を欠いたユニコーンの群れを次々と選別感知し貫き。
合体魔法は大地を制す。
生き残ったユニコーンの第2陣は蹄底の形をスパイク状に変えて魔術師アイの思惑に対応した。
「魔術師はアレンジ爆発、氷の剣士アイズ出ろ!」
用済みになった氷面の魔力と気力を消費し美しく精巧、目の前に出た氷の彫刻は立ち上がり刃をつくりその手にする。
この環境に対応したモノには氷の袈裟斬り。鋭い一角で突貫し跳ね襲いかかったユニコーンは宙で真っ二つ。
魔力と気力の備わった氷の剣士は一味違う。内に宿るエネルギーを惜しみなく消費稼働しながら迫り来る敵を討つ。
「黒兎、アイズ、殲滅だ!」
返事をしないアイズは前衛として、軽く頷いた黒兎は銀のブーメを投げ放つ中衛に、後衛の魔術師アイは得意の炎魔法、狙い澄ました手銃の熱線の連射でシンプルに敵を殲滅していった。
張り切り無茶をしたアイズの身は複数の穴ぼこでぼろぼろと崩壊し役目を果たした。おつかれと、魔術師アイの発した別れの言葉には答えない。
「命名、感知串刺しアイズフィールドってな」
「ださい」
「……後で一緒に考えようぜ」
「で、2回目は倒れないぜ魔術師アイ! 今度は芸術的に練り上げて冷やしてみたからな」
「うぃ」
「にしても黒兎お前さ兎族ってすごいんだな」
「なんで?」
「感覚だよ超感覚! お前を通してのイメージ構築だ。それに黒兎の気力と俺の魔力の循環、いやー生まれ変わった気分? まさに合体魔法2人分もしかして黒兎、俺と同じで感受性豊か繊細なんだな!」
「……うざ」
「なんでだ!」
▼▼▼
▽▽▽
鏡ではない、現世に存在するクエストセンターの受付で今回の達成報告をしに来た。今度は、2人で。
何故鏡のセカイにクエストセンターを置いていないのかというと、おそらく疲れた望鏡者を労うためだろうな。鏡のセカイと現実では全く環境が変わる、知らず環境に対応しだす賢い身体には負荷がかかっていると言われている。ま、俺はまったく気にしないけど。むしろ鏡のセカイの方がテンション上がるし戦いって感じで調子良いぜ。
ミラー機関が運営するクエストセンター。聳え立つミラータワー、望鏡都市ラミラの白い象徴の中にあるその空間。
正しくはA~Eランクの下っ端望鏡者のミラータワー低層にあるクエストセンター。
中央、円形の木の受付カウンターは望鏡者を捌くための工夫であり、受付職員はカウンター内側の鏡の欠片で移動し鑑定や上への確認、その他雑務をこなしていく。
空いていた受付に突如、備え付けの大きな鏡の欠片から現れた銀髪の女性。
「望鏡者様……方。お疲れ様です、達成したクエストの事でしょうか?」
そう、方。黒兎はつい先日望鏡者に認められた。魔術師ランク、マイ五の魔術師アイ様とハク十の魔術師の師匠をもってすれば余裕の推薦である。ふふ。
「あぁ、黒兎」
黒パーカーにショートデニム、魔術師アイ特製の全身黒のボディスーツの上からはいくらお洒落しようが問題ない。
黒兎は、パーカーの前ポケットから取り出した鏡の欠片をカウンターの上へと置いた。
「本当におふたりでクリアしているのですね」
「あぁ、魔術師の俺はそっちの方が集中出来てやりやすいしな。それに兎族ってすごいんだぜ」
「いえ、疑ったわけではありません申し訳ありません魔術師アイ様、黒兎様。兎族にムササビ族、豹族にサイ族人族、この世界は他にも多種多様な種族が暮らしていますので望鏡」
「はは、長いって。人族の俺だって交流してきてんだから分かってるって魔術学校にもいるし昔は神と交流する大鏡があったかどうとかの御伽噺? で習ってるから大丈夫だ」
金髪のアイにさえぎられ唖然としていた銀髪職員のサティは彼の微笑みに対し微笑みで返し。
「ふふ、そうですね失礼しました。ではいただいたCランククエストの鏡の鑑定を」
「それなんだけど仮のパーティーでこなしたって事にしてくれない」
金髪は杖をイメージ構築した魔術で立て置き自立させ、空いた両手を合わせてしずかにお願いするかのように。肘と身をカウンターの上に乗りあげ。
「ええ、この前のFランク相当の」
(こちらのミスですね)
察したサティは顔を近づけ小声で彼に囁いた。
「ん? まぁ望鏡者としてはよくあることだし別にぃ? マイ五の魔術師アイなら全く問題無かったな、むしろ足りない?」
「……分かりました善処します。では、望鏡パーティーの名を伺っても。仮の」
すっとクールにゆっくりと、姿勢を正したサティはアイに問うた。
「そうだな……」
退屈そうに黒髪をかいていたひだり隣のガーネットの瞳を覗き込み。魔術師アイはイメージを構築していく。
「…………見すぎ」
垂れていた黒耳はぴょこんと立ち、苦い顔で顎に手をあてた金髪の男を警戒をしている。
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