利用できるものはする

 黄色い卵料理を口にしたら、この世界のこの体の主の記憶が、知識が入ってきた。膨大な量だが、脳内でさばけないことはない。


「なるほどねぇ……ディランめ!魂をもてあそぶなんて、次、会ったら八つ裂きに!いや……生ぬるいわ。魔族の巣に落として地獄をみせてやるわっ!」


 記憶と情報からいくと、日本という国であたしは『梶美心かじみこ』という人物らしい。長い黒髪と黒い目。背はそれほど高くない。


 パソコンの画面に目をやると、このミコが見ていたはずの小説が消えていた。……もしや、ここの世界にあたしが来たことが影響してるのか?冷静に分析を始めた瞬間、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。


「おーい!ミコー!母さんがおまえの大好物のプリン作ったから持っていけって……仁王立ちでなにしてるんだ?」


 怪しいやつ!と構えたが、記憶を探ると、どうやらコイツは隣の家の幼馴染で同じ学校、同じクラスという『萱野奏多かやのそうた』という人物。


 ……使えそうな奴ではないか?ニヤッとあたしは笑った。


「な、なんだよ!?その怖い笑い方!?」


「たった今から、おまえを最強で天才なあたしの下僕にしてあげるわ」


「げっ、げぼくーーーーー!?」


 背は高いが、筋肉の付き方は普通。特別な訓練を受けてるわけではなさそうだ。優しそうな男。上から下までチェックした。よし!こいつを利用しない手はない。


「光栄でしょ。ありがたく思いなさいよ」


 ミコが変だ!と動揺する相手を無視する。ミコの記憶によると、毎日、学校という場所へ行かねばならないらしい。魔道士育成所とさほど変わらないと思われた。


 この世界は平和なのだが、この体の主は学校へ行くことをやけに怖がっていたようだ。


「下僕!明日の朝は迎えにきなさいよ!わかったわね!?」


 とりあえず、まだ不慣れな世界だし、こいつは案内役にしよう。便利そうな男だし、使えるだけ使ってやろう。


「迎えに?良いけどさ、ほんとにどうしたんだよ!?家が隣だけど、学校でオレが近寄ること許してなかっただろ?急に……」


 ふぁ~とあたしは欠伸をし、さっさと帰って!もう用はないわよ!と追い払った。


 とりあえずプリンという物は、なかなか美味な食べ物であった。

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