涙の行方
「なるほどな。つまり、エマと入れ替えられてしまったってことなんだな?」
私は思わず勇者様に事情を話してしまった。コクコク頷いた。涙が止まらなくて、勇者様はタオルを貸してくれた。
「グスッ……信じて……くれるの?」
「信じるしかないだろ。エマ=トレースが、こんな性格を演じることは無理だ。人の前で泣くことすらもあり得ない。万が一、そういうことがあれば、泣かした相手は確実に息の根を止められるな」
息の根を止める……って、どういうことなの!?
小説にエマ=トレースの詳細はまだ少なかった。私は彼女の情報をもう少し知りたかったなと今さら思うのだった。
さすが勇者様と言われるだけあり、優しく、親身になってくれていた。
「まあ、命は守らないとだめだ。エマを演じきることだな。オレも助けてやるから……もう泣くなよ!」
「あ、ありがとう……勇者……様……グスッ」
やれやれと言いながら彼は笑った。
「リュカって呼んでくれ。エマ=トレースにありがとうなんて言われるなんて……やっぱりあり得ないな」
「リュカ様に、信じてもらえて良かった……」
「リュカだ!エマ=トーレスは様づけなんてし無い」
ええええっ……私は恐る恐るもう一度名前を呼んでみる。
「リュ………リュリュリュ………カ」
赤面しながら名前を呼んだ私に勇者様……じゃなくて、リュカは苦い顔をした。
「それじゃ、駄目だな。あと、オーホホホッっていう高笑いが彼女を演じるためには、かーなり大事なポイントだぞ!」
練習だ!と、高笑いさせようとする。思わず涙が止まった。
「オーホホホッ?このくらい……?」
「弱いな……だめだ!脳髄に響くくらいの高笑いだ!」
脳髄!?ど、どんな笑い方なのよーーーーっ!?わからないわっ!
とりあえず、高笑いの特訓で喉が渇いたので、もらった水を飲んだ。そういえば昨日から一口も何も口にしていなかった。
その瞬間、エマが持っていた知識と記憶が私の中に流れ込んできた。今、飲んだ水のように染み込んでいく。もしかして、この世界の物を口にしたから!?
膨大な情報量に耐えれず、目眩と頭痛がしてきた。倒れかけた私をリュカが危ない!と抱きとめてくれた。なんて素敵なシチュエーション……と、目を開けていたら、思ったかもしれない。しかし意識は遠くなり、私は素敵なシチュエーションを味わうことはなかった。
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