勇者を説得する仕事

「エマ様、勇者様の説得はうまくいきましたか!?」


 『研究中』という札をかけて、布団に潜り込み、どうしよう!どうしよーっ!と、自宅に引きこもっていると、王宮から使いが来た。居留守を使おうとしたが、怪しまれても困ると思い、そーっと扉を開けた。魔道士用の長いローブを着ている人が立っていた。


 そういえば勇者様は『静かに目立たず地味に生きたい』人で、このエマも「さっさと魔王退治に行きなさいよ!このヘボ勇者っ!」なんて説得する気があるのかないのか、わからない説得を試みていた気がする。


 『マギ』の仕事の一つなら、しなくちゃきけないのよね?


「いっ、今から行くところです………じゃない!ええっと……コホン……このあたしを誰だと思ってるの!?今から行くところよっ!誰の指図も受けないわよ!」


 それは失礼しましたっ!ヒィィィと悲鳴をあげて帰ろうとする人を私は慌てて止めた!大変!肝心の……。


「あのぅ。勇者様の家ってどこだったかしら?」


「新しい冗談か、ゲームでも始めましたか?」


「い、いいからっ!案内しなさいよっ!」


「ハイイイイイイッ!!」


 私の言葉にいちいち悲鳴のような声が上がる。そんなにヤバい存在なのかしら。小説ではサブキャラだった。でも読者からは、その強い性格と力で人気を得ていた。物語は序盤だったから、そんなにまだ語られてはいなかったが……。


 王都から少し外れた場所に勇者様の住まいがあった。森の中を通り、少し開けた場所は美しい小さな湖と、畑がある。ヤギが一匹、メェ~と鳴いた。


「のどかな場所ね」


「あの一軒屋が勇者様の家です!」


「ご苦労だったわね。帰ってよし……ですよ!」


 ハイッと言い、ペコペコとお辞儀を何回もして去っていく。


 これは仕事なのよ!勇者様を説得するわよ!気合いを入れて、家に近づいていく。


 ドキドキと鼓動が早くなる。私にそんなことできるの?そしてお気に入りの勇者様にとうとう会えるのね……。

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