第90話 『三つ葉』☘からの✿報告書
ものづくりにおける信頼とは、その「物」と、その「者」との信頼である。
『刀』誕生の瞬間を目の当たりにして、娘との『刀』の ”こけら落とし” を担って、アリアは、改めてそれを感じている。
なかなか預けれないであろう超レア素材を、娘はこの鍛冶師に預けたのだ。
それは、刀を思う鍛冶師の思いとプライドを、手に持った刀から『感じとれた』ことが発端だったという。
実は、これは特別な能力によるものではない。
鍛錬をしている剣士が、鍛錬をしている鍛冶師と出会い、その親和性が重なったときに、
とはいっても、そういう話が
― ☘
鍛冶師によっては、数人と出会うことはあるとも聞くが、間違いなくフリージアにとっては、今後、もう出会わないであろう生涯の鍛冶師のはずだ。
だからこそ、フリージアの能力を引き出した素晴らしい『刀』の一撃を、先程の手合わせで彼女は受けたと感じている。
素材は、所詮は低層階の素材であるが、貴重な素材がベースでもあるし、何よりも『
だが、それだけでは説明できない何かを感じる。
― ☘
得てして、その鍛冶師と使い手の『絆』のようなそれは、力以上の何かを生むものなのだ。
……自分がそうであったように。
◇
アリアはメイヤーに、
「可能であれば、今後も娘の専属として助けてやってくれ」と、頼む。
ふたつ返事で了承する彼女に、アリアはにっこりと笑顔で「ありがとう」とお礼を言って頭を下げると、道場で使う安物の剣数本と、同じく道場用の『刀』を数本発注をして、彼女は先に第1階層に帰っていった。
「良い師匠で良い義母だな……。」
メイヤーは店を出ていくアリアを見送りながら、フリージアに言う。
「うん。」
と、一言だけ言うフリージアにメイヤーは、
― ☘
「
チーム『
✿ ✿ ✿
「いたたた……。あ~、書類が~ふぇ~ん。」
忙しさが最高潮を迎えている『迷宮』ギルドの執務室は、相変わらずの
そんな散らかった部屋で、足を取られて書類を巻き散らす新人職員のライティアが、書類を拾いながら泣きべそをかく。
「あらら、大丈夫? ライティアちゃん。」
「ふえーん、すみませんサーシャさん。」
「いいのよ。でも、ちょっとこれは異常よ、セビオ!
あなた、今回の『責任者』になったのでしょ? もう少し何とかしなさい。」
巻き散った書類を拾いながら、サーシャはセビオに文句を言う。
― ☘
「ごめんなさいー。でも、こんな急に現場が変更になって、しかも運悪く責任者になった僕の身にもなってくださいよー。あー、君それ違う~、こっちこっち。」
忙しそうに現場を仕切るセビオを見ながら、同じく新人職員のローズヒップが書類を拾ってくれる。
「サーシャさん、この書類はこっちで良かったですかぁ?」
ローズヒップが、拾った書類を自分の持ってきた書類と差し替えて、サーシャに渡す。
― ☘
「ふぇーん。これ、サーシャさんの書類ですよね。混ざってました。」
ライティアが、幾つかの文字を赤く丸印を付けた紙をサーシャに差し出す。
― ☘
「ありがと~。今日明日は大変だけど、みんな頑張ろうね!」
サーシャは、その『2枚』の紙を持って自分の机に戻る。
◇
― ☘
机に戻り、『三つ葉』のふたりからの報告に目を通す。
(ライティアちゃんからの報告は、『セ、ビ、オ、わ、ざ、と、混、乱』……なるほど。この混乱はセビオがワザと仕組んでいるということか……。それと……。)
次の赤くマークされた文字をなぞる。
(『幻惑貝の魔香水』か……。やっぱり予定個所のモンスターの発生はそれを使っている確率が上がってるわね。えっと……『NEXT・ロー・ズ』? ローズちゃんのを読めということね。)
続けて、ローズヒップの用意した書類に目を通す。
― ☘
(はぁ? 『幻惑貝の魔香水』の原液の保管個数が誤魔化されているのは想定をしていたのだけれど……。『爆弾ワームの破裂殻』と『硬ゴムの実』、『ラミアの爪』をこんなに発注している? ん……あとこれは……?)
ローズヒップも良くここまで調べたなと感心するくらい、幾百とあるアイテムリストから、主だった怪しい素材の増減をまとめている。
― ☘
気になったのは、『水寄せの杖』だ。
水魔法を得意とする魔導士系の
◇
― ☘
今回の昇格試験の参加人数は、100人中38人。
参加人数が少ないと思われるのかもしれないが、D級への昇格試験では概ね半数が受験すれば多い方となり、38人はまぁまぁな参加率なのである。
それは、ランクを維持しながら、自分の実力と知名度を持たすために、例えばメイヤーのように鍛冶屋等の商業系の
また、仲の良い
― ☘
余談となってしまったが、『水寄せの杖』がその人数と近い45本の発注がある。
しかも、試験場所の変更となった日に緊急で取り寄せている。
確かに……場所が『砂漠』に変更となった為に、E
― ☘
ただ、この発注者が、彼女の上司シトラスであったことが彼女の考察を鈍らす。
サーシャは彼を尊敬をしており、セビオの……『ビー・ディ』の企みに加担するような人物ではなく、そこが解せない。
(ギルド職員が万が一気が付いたときに、簡単には考えがまとまらないよう、色々とノイズを紛れ込ませている?)
サーシャは、ギルド内の『こちら側』筆頭、ギルド長のリッチモンドにこのことを報告し助言を求めるかどうか、しばし沈黙をして熟考する―――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。