第86話 こちら✿も『動き出す』時期さね
「ならよぉ、母さん。……ひとつ考えがあるんだが、『あいつ』をこちら側に巻き込まないか?」
カイトから提案のあった、適任な男に心当たり。
「『ザコイチ』かい……? 丁度お前にお熱だっけねぇ?」
「あぁ。」
― ☘
「あらぁ、ザコイっちゃんは優秀な『情報屋』だったわよー?」
アリアがにこにこしながら、ザコイチのことを『情報屋』という。
「あれ、『アリアウルフの糸』だったのかい?」
「関節的にね~。ほら、あの事件があった子から。」
― ☘
「確かに……適任か゚もしれませんね。キャッチ&ポッピーへのけん制になりますし。特にポッピーは『テンプレ被害』で苦手意識を持っているはずです。」
ザコイチの過去、彼の『迷宮』ギルドでの「テンプレ」をよく知っているサーシャも彼を推す。
よし、それで行こう。参加者全員で意見が一致し、サーシャかカイトのどちらかが先にザコイチを見かけたら声を掛けて、ルイゼを訪ねるように伝えることにする。
「こちらも動き出す時期さね―――。アリア! エヴァちゃん達の保護者の立場を上手く隠れ蓑にしたい。定期的にここ使わせてもらうよ?」
「構わないわよぉー。あ、ならなら! 『ホワイトキング』を巻き込んで、こういうのはどう?」
「……。」
「はぁ? お前は天才かい!? いいね早速誘ってみるよ!」
「「グフフフフフ……。」」
シリアスな展開になっても、ふたりはふたりで、一歩話の外に出れば永遠の悪戯っ子であり、また、仕掛ける先のマーガレットの母『ホワイトキング』スパティも同じであって、このアリアの思い付きは、直ぐに現実のものとなる。
✿ ✿ ✿
「エヴァちゃん、気分はどう?」
打ち合わせの後で、サーシャがフリージアの家に寄りエヴァに声を掛ける。
「昨日ははじゅかしいところを、お見せいたしましゅた……。」
顔を真っ赤にして、上唇を尖らして下目使いで謝るエヴァにサーシャは笑いながら言う。
「ギルドロビーでは、フラフラしてただけだから大丈夫よ~!」
「そっかーよかったー。ギルドでも「下着姿でお花の服」を魔法で作ってたら……もう恥ずかしくて行けないもんー。」
「ふぇ? 下着で……何それ?」
「な、何でもない……。でしゅ……。」
再びエヴァが顔を真っ赤にしていると、マーガレットとリンデン、そして、カイトとフィオレが玄関から顔を出す。
「お? エヴァ、もう酔いは冷めちまったのかよー。つまんねぇな。」
カイトがちゃちゃを入れる。
「安心して、あなたが覚えてないだけで『私達は慣れてる』からね! ふふ……。」
フィオレも笑いながらエヴァに言う。
「ふぇーん、そうだったんだ。私、もうお酒飲まないー。そして恥ずか死ぬー。」
エヴァがクッションで頭を隠していると、フリージアの弟セナとテオが、マーガレットとリンデンに耳打ちして「ごにょごにょ」言っている。
「まぁ! それは見たかったですわ!」
「ぱ……ぱん……ひぇえ。ぴ……ぴ……ぴんくぅぅ……。」
目を輝かせるマーガレットに、手を目に当てながら、指と指の間からエヴァのスカートを見てしまうリンデン。
「ふぇ? こ……こらああー! このわんぱく坊主うう!」
セナとテオを追い回すエヴァを見て、大笑いの一同。
とう! と、エヴァにえっちな眼差しを送っているリンデンにチョップでお仕置きをするフリージア。
― ☘
そんな和やかな雰囲気の中、フィオレとカイトが4人に向かって『ランカー』について話し出す。
✿
「えっと、全員揃ているよねぇ。」
フィオレが、全員を見渡しながら言う。
「フィオレ姉ぇ。一応これが、こいつらの最新ランクだ。」
カイトが左手に自分の妖精をしまい、ディスプレイのようなものを出して、フィオレに見せる。
▶ ▽E
[シドニー・スカルゴン]UP
等級:E級 等級ランキング: 1 位
・
・
[エヴァ・グリーンウェル]NEW
等級:E級 等級ランキング: 77 位
・
[フリージア]NEW
等級:E級 等級ランキング: 81 位
[マーガレット・パリス・ディジー]NEW
等級:E級 等級ランキング: 82 位
・
[リンデン・ビバーナム]NEW
等級:E級 等級ランキング: 90 位 ◀
「へぇー、エヴァが一番上か。流石に、『クイーン』へのラストアタックは、大きかったみたいねぇ。」
「んでなぁ。ランカーになるとさぁ、中には妬み嫉みを持つ奴が出てくるんだよ。」
ランクがエヴァより下で、ぷくぅ~と脹れているマーガレットとフリージアを横目に、ディスプレイを消しながらカイトが言う。
― ☘
「そうね。『昇格試験』は、定期的にギルドが用意するのだけど、それまではランキングの昇降は続くから、当確線上の子や蹴落とされ子が仕掛けてくる――なんてことはざらにあるのよね。」
「お前らは目立つからな~。だから、酒を2杯奢らせて、味方を作ったのは正解なんだが……。」
「E級は数が多いのよねぇ。誰が何時、何かを仕掛けってきてもおかしくないのよね。ま、大したことはないけれど。」
「盗賊まがいなのもいるしな。ま、大したことはないけど。」
「ま、要は気をつけなさいということよ。」
― ☘
フィオレは、マーガレットに目を向ける。
それが何を意味したのか悟ったマーガレットは、スカートを軽く摘みながら軽く会釈する。
「でな、上に行く程、顕著になってくんだよな……ランカーへの嫌がらせ。」
「『登録名公表』だからね……見苦しいものよ? ランカーへの嫉妬って。だから、E級のうちに慣れておけ、ということね。」
― ☘
「特に、エヴァは
◇
「でね、そうゆうのに長けている人がいるのね。『その人をチームに入れない?』と提案をしたくて実は来たのよ。」
「これは、さっき、母さん達と話し合った「結果」だと思ってくれ。」
フィオレとカイトは、「わかるよな?」と、エヴァの顔をじっとみる。
「うーん。私は好きだからいいけど……みんな大丈夫かな? 『ザコイチ先輩』だよね? その人って。」
「流石~エヴァ♪ 普段抜けてるのに、こうゆうときは鋭い。」
ザコイチと言い当てたエヴァに、カイトは指をパチンと鳴らす。
「はぁ?」 「うっ……。」
明らかに嫌そうな顔をするフリージアとマーガレット。
― ☘
でも、そのふたりの顔をチラリと見ながら、(申し訳そうにだが)リンデンはこっそりと嬉しそうな顔をする。
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