✿序章:迷宮探索家✿

第1話 世界樹の迷宮の国

― ☘ 

 エトルリーニア大陸のほぼ中央にある国フィデニア王国。

 大陸内での争いは終結し、世界樹によりもたらされた平和が訪れて、200年あまり――。

 

 フィディニアを勝利に導いた英雄、第4代フェディニア国王女帝エミリア=ロマーニエとの盟約により、世界樹は迷宮となり、試練となり、その強大な力は、天高く浮遊する巨大な球体(ジオデシック構造)の『架空都市グランドセブン』となる。



 世界樹の迷宮は、その迷宮から産出される豊富な資源を人々にもたらし、大戦により壊滅した王都アウロの復興の礎となり、「巨大迷宮都市王都アウロ」として、王国は復建される。


 王都アウロは、由来となる「知性の光、創造性の光が到来する曙の神アウローラ」の名に恥じない街として栄え、その栄華を支える迷宮資源を採取する者達のことを、人々は、浮遊都市(フローティングシティ)を目指す者『迷宮探索家フローター』と呼び、街の誇りとしていた。



 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿


「エヴァちゃん。これ、今月分のお給金!」


 娼館の女将ルイゼは、秋の夕日に染まる小麦の様に美しい髪、大きく澄んだ瞳をした小柄な少女、娘のように可愛がっている住み込みの従者で義理の娘と思っている『エヴァ』を部屋に呼び、給金を渡し労う。


「女将さん。ありがとうございます! わぁ!? こんなに?」


 少女は支給された給金と女将からの心付けを見て、欣喜雀躍きんきじゃくやくし声を上げる。


「今回だけさ。これで溜まるんだろ? 迷宮探索家フローターになる資金。」

「女将さ~ん!? 大好き~!!!」


 少女は、女将であり「義理の母」でもある、ブロンドヘアにスッと尖った耳が美しいエルフのルイゼに抱き着き、少し甘えながらそう言う。


「私としては、大きな痛手なんだけどねぇ。こんな色町の娼館兼酒場で、我儘な娼婦と客の痒いところに手が届く大事な逸材を失うんだよ?」


 抱きついた娘の頭を優しく撫でながら、ルイゼは少し寂しそうな顔を見せる。


「でも、お前は……かわいい私の娘さ。夢に向かって頑張った娘を応援するのも親の役目さねぇ。あ、でも。試験までの間は、しっかり働くんだよ! その分の給金も含まれてるのだからね!?」


「ふぇええん。女将さん~ありがとう。」


 少女は、そのルイゼ義理の母の優しさが嬉しくて抱き着いた柔らかな胸に涙を流す。




―――そう、遂に溜まったのだ。

 念願の迷宮探索家フローターになる為に必要な登録試験の資金が!


 これで、お父さんと同じように、世界樹の迷宮を冒険することが出来る!

 その為に頑張ってきたんだ。


 それを、ずっとずっと、近くで見続け、支えてくれた女将さんに……

 私は、心からの感謝を込めて、再びギュッと抱き付く。

 

― ☘

 私の名前は、『エヴァ・グリーンウェル』。

 唯一無二のレア魔法、『花』魔法を操り、何時か父親が目指した『架空都市グランドセブン』に辿り着くことを夢見る15歳の女の子。

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