06
購入したコートを羽織ったジレとソリアと共に、リーズロッテは
〈ユクシアの森〉は、
やがてリーズロッテ、ジレ、ソリアの三人は、〈ユクシアの森〉の入り口に到着する。
幾つもの樹々が組み合わさって
「……これが〈ユクシアの森〉かあ」
瞬きを繰り返しながら呟くジレを、ソリアはちらりと見た。
「授業に出てきた教科書に、散々絵が載っていただろ。今更そんな感動することがあるか?」
「だって実物を見たのは初めてじゃん! ソリアはびっくりしないの?」
「僕は兄さんと違って大人なんだ」
「まだ君十五歳じゃん……」
ジレは呆れたように笑いながら、ふと何も話さないでいるリーズロッテの姿を見る。そうして彼は、目を見開いた。
リーズロッテは藍色の
その瞳には
「リーズロッテさん?」
ジレの言葉に、リーズロッテははっとしたような表情になって、彼の方を向いて微笑んだ。
「どうかしましたか、ジレさん?」
「いや。リーズロッテさんが、その……すごく、わくわくしているように見えたから」
リーズロッテは目を丸くする。それから、ふふっと笑った。
「ばれてしまいましたか。実はわたし、ここ一ヶ月ほどは〈メルコローテの湖〉――いわゆる第三迷宮の探索同行をしていて、〈ユクシアの森〉に来たのは若干久しぶりなんです。だからジレさんの言う通り、わくわくしてしまいました」
ジレは頷いてから、口を開く。
「リーズロッテさんは本当に、迷宮探索が好きなんだね」
その言葉に、リーズロッテは柔らかく微笑んだ。その微笑みはどことなく寂しそうで、理由がわからずジレは不思議に思う。リーズロッテはその疑問に答えることはせずに、目の前の兄弟に向けてそっと手を差し出した。
「改めて、これからよろしくお願いしますね。ジレさん、ソリアさん」
「うん、こちらこそ!」
ジレは彼女の右手を取って、握手を交わした。少し経って二人の手が離れる。
ソリアは手を出すことはせずに、そのやり取りを見ていた。
リーズロッテは、そんな彼に向けて笑顔を浮かべる。
「わたし、ソリアさんとも握手したいです」
「……僕は別に、お前と握手したくない」
「ええっ、そんなことおっしゃらないでください。握手してくださったら、今日の帰りにケーキをご
「いや、僕甘いもの苦手なんだが」
「…………? そんな人、この世界に存在しませんよ?」
「いや怖いんだが! 普通にいるだろ、そういう奴だって……」
「えいっ」
リーズロッテは、ソリアの左手を両手で掴む。ソリアは驚いたように瞬きを繰り返した。彼女は
「人は驚くことを言われると、判断能力が
ソリアは何も言わずに聞いていたが、少ししてリーズロッテの手を払い除ける。
「言っておくが、僕はお前と仲良くする気なんてないからな」
「そうなんですか?」
寂しそうな表情を見せたリーズロッテから、ソリアは目を逸らした。
一部始終を見守っていたジレが、口を開く。
「ソリア。そういうことを言ったら、リーズロッテさんが悲しむと思うな」
「…………」
ソリアはいつものように言い返すこともせず、地面と目を合わせている。
「大丈夫ですよ。心配してくださってありがとうございますね、ジレさん」
リーズロッテはジレに向けてそう言うと、ソリアの方を見た。
「ソリアさん。
ソリアは顔を上げて、ちらりとリーズロッテのことを見る。
彼の金色の瞳には、どこか怯えのような感情が含まれているように見えた。
リーズロッテはそれに気付いたものの、特に追及することはしなかった。
「それではいきましょうか、〈ユクシアの森〉へ。お二人ともついてきてくださいね」
彼女はそう口にすると、フーデッドコートをさらりと揺らしながら、淡い緑色の膜へと足を踏み入れた。
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