02
海の上に浮かぶ島国、メルティア。
この国の最大の特徴は、「迷宮」と呼ばれる十個の地下世界が存在することだ。
迷宮には
魔術を行使し迷宮を巡る者たちのことを、人々は「迷宮探索者」と呼んだ。
◇
白色のワンピースに丈の長いフーデッドコートを羽織りながら、リーズロッテは空色の髪を揺らして歩いている。
商店街は、沢山の迷宮探索者によって
「いらっしゃい! 初心者はここで買っておけば間違いなし、様々な防具を取り揃えているよ!」
「喉の
「可愛いと人気のレア魔獣スイーティスライムを
その言葉にリーズロッテはぴたっと立ち止まると、ケーキ屋に向かって歩き出す。
「お一つください」
桜色の長髪を三つ編みにした少女に向けて、リーズロッテは微笑みかけた。
「わあ、こんにちは! いつもご
「いえいえ、こちらこそお世話になっています。お幾らですか?」
「三十ラハですが、新作なので三割引なんです!」
「了解です、二十一ラハですね」
リーズロッテは財布を取り出して、小銭を少女に渡す。少女はそれを確認すると、「ちょうどいただきましたっ!」と頷きながら、小さな箱に入ったカップケーキを袋詰めにして渡した。
「どうもです」
「こちらこそ、ありがとうございました! またのご来店をお待ちしておりますっ!」
ぺこっと頭を下げた少女に手を振りながら、リーズロッテは店を後にする。
「わたし、スイーティスライムのファンか甘党か、どっちだと思われているんでしょうね……正解は後者なんですが」
そう呟きながら、活気のある商店街をさらに進んでゆく。
「あの」
背後から声を掛けられて、リーズロッテは立ち止まると振り返った。
そこには灰色の髪の青年が立っている。彼は困ったような表情を浮かべて、口を開いた。
「お聞きしたいことがあるのですが……貴女は迷宮探索者ですか?」
「はい、そうですよ」
「それはよかったです。実は、迷宮探索に必要なアイテムを取り扱っている店を探していて。でも、店が多くてどこがいいのかわからないんです」
「なるほど。迷宮探索は初めてですか?」
リーズロッテの質問に、青年は「はい、そうです」と頷いた。彼女は少し考える
「初心者の方におすすめなのは、カエデ商店ですね。扱っているアイテムの数が多く、値段も割安、不良品も殆どありません。
店員さんも親切なので、尋ねれば探索に必要なものを過不足なく教えてくれるはずです。地下五階辺りまでは、カエデ商店を頼れば間違いないと思います」
その説明に、青年は「へえ……」と言いながら顎に手を当てた。
「そうしたら、そこに行ってみます。ありがとうございます」
「どういたしまして。この通りを真っ直ぐ行って、四分ほどで右手に見えてくると思います。ああ、それと……どなたかとパーティーを組んでいますか?」
「いや、僕は一人です。特に仲間とかはいなくて」
青年の返答に、リーズロッテは少しばかり目を細める。
「一人での探索には、リスクが付き物です。例えば、魔獣の使う魔法によって
「確かに……でも僕、知り合いとかいないんですよね。一人でこの町まで来たんです」
青年はどこか寂しそうに笑った。リーズロッテは再び、提案を口にする。
「ギルドには行きましたか? あの場所には多くの迷宮探索者がいますし、掲示板にはパーティー募集の貼り紙がよく出ています。積極的に話し掛ければ、様々な情報が手に入るでしょうし、素敵な友人もできると思いますよ」
「へえ……いいですね、それ」
「でしょう? ちなみに、他にもこういう選択肢があります」
リーズロッテはコートの内ポケットに手を入れると、小さなケースを取り出した。そこから一枚の名刺を手に取ると、青年に向けて差し出す。
登録同行魔術師 リーズロッテ=グレイムーン
「……同行魔術師?」
青年の言葉を、リーズロッテは
「入門迷宮探索者は、同行魔術師とパーティーを組むことを推奨されているんです。同行魔術師は中級以上の迷宮探索者しかなれないので、そこそこ実力が保証されているんですよ?」
そこまで言って、リーズロッテは可愛らしくウインクした。
「うちは他の紹介所と比べて料金も安めなので、よければご
「はい……ありがとうございます!」
青年に微笑み返して、彼女は再び商店街を歩き出した。
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