砂糖菓子と灰色の月
汐海有真(白木犀)
第一迷宮〈ユクシアの森〉編
01
それは、彼女が時折見る夢だった。
子どもの頃、輝かしい未来を想像して胸を高鳴らせた日のこと。
窓の外には、深い夜空が広がっている。
年端もいかない少女は、テーブルの向かい側に座っている両親の話を聞きながら、楽しげに
「それにしても、今日現れた
「本当にそうね! あのときは魔術で対抗してくれてありがとう、リズル」
「気にするなよ、シャルロッテ。君こそ、負った
「ふふ、お気になさらず」
少女の手が、テーブルに置かれているクッキーに伸びる。
「そういえば迷宮の地下七階に、とても綺麗な宝石が取れる場所があるらしいぞ」
「それ、私も聞いたわ! 気になるわよね……加工してアクセサリーにして貰おうかしら」
「いいんじゃないか? きっと君に似合うよ」
少女は口元にクッキーの
「ねえねえ、おかあさん、おとうさん!」
「ん、どうしたんだ?」
父親の藍色の
「わたしもいつか、ふたりみたいな『めいきゅうたんさくしゃ』に、なれるかなあ?」
そう尋ねられて、母親は少し驚いたように目を見張った。一つに
父親は微笑んで、
「ああ、なれるさ。君は
「私もそう思うわ。もし迷宮探索者になれたら、三人で探索に行きましょうね!」
「うん、わたし、すっごくいきたい!」
窓の向こうでは、星々の光を身に
◇
綺麗な音楽が、
少女――リーズロッテ=グレイムーンは、ベッドの上でそっと目を開いた。
歳の頃は十九歳くらいに見える。肩の辺りまで伸ばされた空色の髪と、
彼女は枕元に置かれた時計に手を伸ばし、流れている音楽を止める。目を擦りながら上体を起こすと、大きく伸びをした。
リーズロッテはベッドを降りて、大きな窓の方へ歩いてゆく。分厚いカーテンを開くと、透明なレースカーテンの向こうに、
居間で朝ご飯のケーキを食べながら、リーズロッテは配達された新聞を読んでいる。
『特級迷宮探索者・シスレア=トレティードの
『第四迷宮で四人の迷宮探索者が行方不明に』
『第七迷宮にて新種の魔獣が発見される』
「……行方不明か。無事見つかるといいですけれど」
彼女はそんな独り言を
ふわふわのスポンジと
畳んだ新聞をケースに収納してから、リーズロッテは本棚に近付いた。魔術や迷宮に関する本や、砂糖菓子に関する雑誌が並ぶ中で、一冊のファイルに手を伸ばす。それは、彼女の仕事に関する情報を纏めてあるものだった。
「さて、本日の依頼人は、と」
ひとりごちながら、雪のような肌をした手でページを
目的のページに
ジレ=サンスヴェレ 男性 十七歳
ソリア=サンスヴェレ 男性 十五歳
「……十五歳、か」
リーズロッテは微かに目を細めながら、書かれている文言を繰り返した。
「何度見ても若いですね、飛び級かな……というか
そう呟きながら、彼女はぱたんとファイルを閉じ、本棚の元あった場所に
「まあ、行ってみればわかるでしょう」
リーズロッテはそう言って、着替えるために自室へと向かった。
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