第14話 掲示板の速報

 透が劇的な探索者デビューを飾ったその日の夜。


 ネットの掲示板や一部のダンジョン配信者が、最強の日本人テイマー現る!? という話をそこかしこで呟いた。




『東京にある探索者協会で日本人初めてのテイマー現る』


『は? デマだろ』


『マジマジ。実際に俺はその場にいた』


『私も見たよー。可愛い子犬を連れてた。たぶん学生じゃないかな?』


『マジ? ほんとにテイマー? ただのペットじゃなくて?』


『ダンジョンあるのにペットなんて連れてくるわけねぇだろww』


『いやいや、たまにいるじゃん。セレブ気取った女とか』


『あれは彼氏とか旦那の連れだろ。そのテイマーはひとりだったしまだ子供だぞ』


『でも可能性がゼロとは……』


『残念でしたー! 登録した時に、鑑定の水晶にテイムスキルが表示されたってさ。受付の職員が騒いでたから確定』


『きた————! マジでテイマー現るっ!』


『でもテイマーって実際のところどうなん? あんまり強いって噂は聞かなくね? ただレアってだけだろ?』


『それもあるけどテイマーで強い奴はいるじゃん。お前もしかしてレイナアンチか?』


『レイナは世界でもトップクラスの探索者だしなあ。あの若さであの強さってもう最強だろ』


『しかもクソ可愛いしな』


『それな』


『はあ……レイナみたいな美人と付き合いてぇ……』


『お前ら本題からずれてんぞ。噂のテイマーくんの話に戻れや』


『それな』


『つっても今のところ、レアスキル持ちで若くて子犬を連れてるってだけじゃん。しかも子犬ってことならあんまり強くない系』


『で、でたー! 大きさでしか物事を判断できないやつ~!』


『は?』


『はいはい喧嘩すんな喧嘩すんな。ここはそういう所じゃねぇから』




 にわかに盛り上がりを見せた掲示板の一角に、突如、爆弾が落とされる。




『お前らきけ。さっき、例の新人テイマーくんがダンジョンから戻ってきた。なんと初日でいきなり第一層のボスを倒してきたらしい』


『は?』


『なに言ってんだコイツ?』


『とうとう頭が壊れたか。病院いってこい』


『駆け出しの探索者が勝てるような相手じゃねぇだろ。俺の友人だってパーティー組んで一ヶ月はかかったぞ』


『マジマジ。おおまじ。他の掲示板でも言ってる奴はいるだろうから見てこいよ。あと、ダンジョン配信者とかも配信で話してる』


『はぁああああ!? 嘘だろ!? 初日でボス討伐とかバケモノじゃねぇか!!』


『期待の新星きたこれ』


『誰だよ子犬だから弱そうって言った奴。これ見て反省な』


『そこまでは言ってなくて草』




 リアルタイムで透が探索者協会から消えたあと、本人の知らない所で噂などが拡散されていった。


 ——最強日本人テイマー!


 ——子犬を連れた期待の新人!


 ——爆速で一層攻略!? 天才探索者現る!


 などなど、ものの数時間で透のことを書き記した掲示板がわんさかネットには投稿された。


 あまり人気ではない配信者も揃って話題にするものだから、たった一日で透の情報は世界中に流れていった。
















 そして、東京の一角。新築のタワーマンションに住むひとりの少女が、携帯の液晶画面に表示された文字を見てにやりと笑みを浮かべた。


「ふうん……。登録初日でいきなりボスモンスターの討伐、ね。それも超が付くほどレアなテイムスキルの持ち主……か」


 画面をスクロールして、他の探索者たちが集めた情報を次々に確認していく。見れば見るほど彼女の好奇心は謎の新人テイマーに向けられた。


「いいねぇ……いいじゃねぇか、新人テイマーくん。こりゃあ話題にこと欠かなそうな人材だぜ! 配信のいいネタになりそうだ」


 ひとしきり透の情報を調べた彼女は、おもむろに携帯の電源を落として座っていた席から立ち上がる。


 可愛らしい桃色の髪がわずかに揺れ、スマホを片手に隣の部屋へ向かった。


 ノックもせずに扉を開くと、そこには三人の女性がテーブルを囲んで食事を摂っていた。入室した女性を一瞥すると、その中でもっとも背の高い女性が首を傾げて彼女に尋ねる。


「あれぇ? どうしたの、美羽ちゃん。なんだか今日の美羽ちゃんはすごく楽しそう」


「ふふん! まあね。これを見なさいこれを。みんなもう知ってる? いま話題の新人テイマーを」


 そう言って彼女は、三人の女性にスマホの画面を見せた。


 表示された液晶の文字を見て……全員が目を見開く。

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