第36話:潜入

「ここにいると民衆に襲われます。なるべく隠れながら城へ向かいましょう」

「ん、わかった」


 いくら私達が手練とはいえ数に襲われたら対処が難しい。隠れて来たのに目立てばアクト戦闘員に居場所がバレてしまう。

 私達はローブを被り、なるべく人気の少ない場所を通って城に向かった。


「お腹空いた……」

「返してよ!! それボクのだから!!」

「うるせぇ!! 弱い方が悪いんだよ!!」

「……」


 通りかかる度、目にする人々の様子。

 誰もが飢えに苦しみ、目の前の暴力に怯えている。


「酷いな……」

「うん……」


 負の感情で溢れた世界。

 少しの希望も感じない姿はまるでゾンビのようだ。

 見ているだけで気分が悪くなりそうで、私はやや顔をうつむかせながら先に進む。


「今のパーシバルはアクト戦闘員と野蛮な冒険者達に食料が集中しています」

「なので力のない人達があのような扱いを……」


 活気に溢れたデモニストも侵略を受ければ、このような惨状になるだろう。

 だからこそ


「早く城に行こう。それが一番手っ取り早い」

「せやな。いちいち助けてたらキリがないわ」


 一刻も早く終わらせなければ。

 こんな事は。


〜〜〜


「ここが城か……」

「さっきよりも戦闘員が多いな」


 敵の本拠地である城の近くまでやって来た。

 しかし、流石は国の中心。見渡す限りアクトの戦闘員で溢れかえっており、強固な守りを築いている事が分かる。

 

「秘密の抜け穴はこっちです。ただ」

「見張りが少ないだけで、いるんですよね……」


 少し遠くに移動すると先程より人気が随分と減った。

 だが、数人の見張りがいる。穏便に通してくれないか……


「大丈夫、ウチに任せな」


 どうしたものかと悩んでいると、私の肩をポンと叩いてエメラルが前に出る。


「やほ」

「は? ぐえっ」

「なん……ぐふっ」


 一瞬で見張りの背後に回ったかと思えば、手刀を首に当て二人を気絶させた。


「おおー……」

「流石です……」

「さ、はよ行こか」


 目にも止まらぬ速さであっさりと……

 エメラルの技術に見惚れながら、私達は秘密の抜け穴へと入り、城内へと潜入した。


「ここが城の中……随分変わったなあ」

「ショコラは入った事あるんか?」

「何回かね。ただここまで色々変わっていると流石に当てに出来ないかも」


 第一こんなにボロボロじゃなかったし。

 色んな部屋をアクト専用に作り替えているらしく、かつて城で生活していた私ですら困惑する程だった。


「あ、でもトイレは突き当たりを右だった筈」

「トイレの場所が変わってたらおかしいやろ」


 私が把握している場所なんて、日常生活で使う部屋の場所を把握している程度だ。

 ここは姉妹ちゃんに全部おまかせしてしまおう。


「ここまで変わっている理由ですが……色んな部屋で新兵器や新薬の開発をしているからだとか……」

「新薬って……暴走する例の?」

「はい……あれを量産化するのが今の目標だそうで」


 あんなものが量産されてしまえば世界は終わりだ。

 一人を相手にするのもかなり面倒。アクト戦闘員の全員が暴走すると考えたら……恐ろしい。


「っと、ここですね」

「誰もいない……?」

「休憩時間でしょうか?」

「こっそり入って色々調べようや」

「賛成です。何か役に立つ物があるかもしれませんし」


 物陰に隠れながら進み、薬開発を行っているらしき部屋の一つにたどり着いた。

 ただ中に誰も人はいないらしい。

 色々と物色させてもらおう。


「これが暴走する薬……って本当に色々あるなぁ」

「こっちが実験中、こっちが完成品のようやな」

「なるほど……」


 中には至る所に薬があり、触れるだけで危なそうなものまであった。

 

「筋力増強、脚力増強、魔力増強」

「鳥に変わる薬、スライムに擬態する薬……なんやこれ」

「変わった薬もあるね……」


 スライムと鳥はなんの役に経つんだろう……興味はあるけど、元に戻れなかったら嫌だしスルーしよ。


「とりあえずこれで全部かな」

「せやな……さ、次はステちゃん達の所へ」


 あらかた見終わり、次の所へ向かおうとしたその時だった。


「あっ」


 ビー!! ビー!!


「……エメラル?」

「……やってもうた」


 明らかにヤバそうなスイッチを、エメラルが押してしまったのだ。


「なんだなんだ!!」

「侵入者! 侵入者!」


 まさか警報だった!?

 本来は見つけた研究者が押すための物だけど、侵入者が押すとは設置した人も想像がつかなかっただろう。


「うーわ……どーしよ」

「やばいですよぉ……」

「私達、真正面から戦うのあんまり……」


 ぞろぞろと押し寄せる戦闘員達。

 エメラルは自らの失敗に頭を抱えているし、姉妹ちゃん達は戦えないから目の前の脅威に怯えている。


「アイちゃんマイちゃん、二人が閉じ込められていそうな場所ってわかる?」

「「え?」」


 なので……私が対策を考えた。


「えと……多分」

「ここの地下だと思います……」

「地下か……よし」


 地下にあるならこの先進むのは簡単。

 いくら囲まれていても、道というのは穴があれば進める。

 つまり、穴を作ってしまえばいい。


「二人とも私達に捕まって!! エメラルは動く準備を!!」

「なんやなんや!? 何をする気や!?」

「説明は後!! いっくよー!!」


 私は拳を強く握り締め、勢いよく地面に向けて振り下ろした。


「「「うわああああああ!?」」」


 地面が崩れ落ち、私達の身体が悲鳴と共に宙を落下する。


「こっからどうするんや!?」

「多分痛いと思うから我慢して!! 私が回復するから!!」

「ええええ!? そ、そんな無茶ある!?」

「大丈夫!! 案外何とかなるから!!」


 ダンジョンに突き落とされた時もこんな感じだった。あの時も死ぬ程痛かったけど何とか耐える事が出来たし大丈夫!!

 死ぬ程痛かったけど!!


「「ぐえっ!!」」


 程なくして地面に激突し、私とエメラルは全身を強く痛めた。(姉妹ちゃん達は私の上に乗っていたので無事)

 全身に痛みが回り、動くのですらやっとの状況。というかぶつけた所から出血してるし。

 

「「お、お姉様!? 大丈夫ですか!?」」

「大丈夫……ハ、ハイヒール……」


 あの時と同じようにハイヒールをかける。癒しの光が傷と痛みを消し去り、いつも通りの健康な肉体へと戻した。


「ね、大丈夫だったでしょ……」

「死ぬかと思ったわ……けどありがとうな」

「「さ、流石ですお姉様……」」


 無茶苦茶なやり方なのは自覚してるけどね。ただおかげでアクト戦闘員達も伸びているし結果オーライだ。


「うぅ……なんなのじゃ」

「騒がしいですね……」

「え?」


 奥の方から聞こえる、知っている声。

 私達はその方向へとゆっくり歩みを進めた。


「ムーナ!? ステラ!?」

「ん? おぉ……ショコラか……」


 なんとムーナとステラが腕輪で拘束されていたのだ。地下にいるとは知っていたが、まさかドンピシャで出会えるとは。

 私達ラッキーすぎじゃない?


「わー……ステさんの幻覚だー……」

「本物やて!! てか、かなり弱ってるやん!?」


 ただ二人とも衰弱してるみたいで、声に覇気を感じない。

 恐らく、魔力欠乏に近い状態だ……


「と、とりあえず腕輪を壊して……」

「それあっさり壊せるものやっけ……」


 あまり良くない魔力を出す腕輪をディスペルと力技で破壊する。

 とりあえず当初の目的は達成できた。

 後は……無事に帰って二人を元気にするだけかな?

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