第35話:いざパーシバルへ
「暗いのでそろそろ休みましょう」
「お馬さんも疲れているので」
暗い森の中。私達は馬車を降り、寝床を作っていた。
パーシバルまでの距離がどれくらいかは分からないが、かなり進んだ気がする。
遅くても明後日には向こうに着いているはずだ。
「それではおやす……ぐぅ」
「すぴー……」
「早っ!?」
「寝付き良すぎやろ!?」
姉妹ちゃんが寝袋に入った瞬間、一瞬で眠ってしまった。
「まあ二人とも情報収集で疲れてたんだよね。ゆっくり休ませてあげよう」
「そうやな。見張りはウチら二人で交代しながらやる事にしよか」
思えばそうだ。
パーシバルという危険な場所での情報収集、そこから馬を確保しここまで急いでやって来た。
疲労は相当なものだろう。本当にお疲れ様。
「そういえばさー」
「ん?」
「エメラルってステラのどういうとこが好きなの?」
「っ!? き、急にどうしたんや!?」
唐突な恋愛話にエメラルが顔を赤らめて驚く。
「だって恋バナしてた時、私の話しかしてないからさ。エメラルの話が聞きたいなーって」
「そ、そうか……なんや恥ずかしくなってきたな……」
「それと同じ思いを私はしてましたけどー?」
「せ、せやけどなぁ……分かったわ」
髪を掻きむしりつつも、観念した表情を見せるエメラル。
散々私をからかっておいて、自分だけ何も語らないのは不平等だ。いい機会だしいっぱい聞いちゃお。
「ステちゃんの好きな所はいっぱいあるけど……強いて言うなら」
「言うなら?」
「……普段は甘えん坊やけど、ベッドの上やと途端に攻め攻めになるんや……そのギャップが……」
「お、おぉ……」
「ガチで照れんなぁ!! こっちまで変な感じになるやろぉ!!」
予想以上に甘々だった。
確かにステラってたまーに大胆な時あるよね。酒場でいきなりキスし始めたり、私達の隣の部屋で色々おっぱじめたり……
「そういえばあの時もステラが……」
「ちょ、まだ覚えてたんか!?」
「当たり前だよ。あんな刺激的な場面、忘れる訳ないでしょ」
「つーことはウチが攻められてる所も……」
「バッチリ聞いてました」
「あああああ……」
それはもう濃密なものでしたよ。
あまりにも刺激が強すぎて、寝るのに一悶着あったくらいには。
「でも、素敵だと思う」
「そうかぁ? ならええけど……」
「だってお互いラブラブちゅちゅな関係だなんて羨ましいよ」
「その言い方だとウチらがバカップルみたいやん」
「実際そうだよ」
「……そうか」
あれだけイチャついてバカップル以外の何だと言うのか。
でもイチャイチャしている二人の姿はとても幸せそうで、ムーナへの恋心が芽生えた今では余計に憧れてしまう。
「心配せんでも、お二人さんもお似合いやしすぐそーいう関係になれるって」
「ムーナと? いちゃラブちゅっちゅ?」
「既にちゅっちゅはしとるやろ」
「あ、あれは魔力供給だから……」
「その魔力供給で発情したのは誰やろなー」
「うっ……」
そ、そりゃ二回やって二回ともラインを超えちゃったけど。
でも舌を入れただけだし!! 入れただけだし!!
……よく考えなくても仲間同士ではアウトですね。
「ま、その辺ハッキリさせる為にも早くムーナとステちゃんを取り戻そうなー」
「うんっ!!」
「とりあえず先に寝てええよ。ウチが見張っておくから」
「ありがとう〜また時間経ったら起こしてね」
「ほいほい」
エメラルに見張りを任せ、私も寝袋に入る。ハッキリというかちゃんと話し合いたいだけなんですけどね。
後……誠意のこもった謝罪。
「ムーナ……」
早く会いたいな……
愛しの人を頭に思い浮かべながら、その日は眠りについた。
〜〜〜
「馬車はここで捨てましょう」
「え? 捨てちゃうの?」
「アクトの戦闘員や民衆に見つかると追い剥ぎに遭う可能性があるので……」
「あー……」
「ちゃんと引き取ってくれる場所も見つけてあるので、安心してください」
日が頂点まで登った頃。
私達は外れにある民家に馬を預け、歩きでパーシバルまで向かった。
「ここがパーシバル……」
「なんやピリピリしとるな……」
懐かしのパーシバルは……酷い惨状だった。
壁はボロボロ、あちこちで黒い煙が巻き上がり、遠目で見ても瓦礫と化した家が散乱している。
そしてパーシバルで一番目立っていた城は……無惨にも崩れ去っていた。
「ここから入りましょう。私達が作った抜け穴です」
「用意周到やな……」
「お姉様の為ですから、当然ですっ」
「さ、流石姉妹ちゃん……」
ここまでやってよくバレなかったね。
とりあえず私達は姉妹ちゃんの作った穴に入り、奥へ奥へと進んで行った。
土壁で囲まれた暗い穴だったが、進んでいくと少し広い場所に出た。
「抜け穴……というか下水道までの道やん」
「まあここなら監視の目は薄いか……って臭」
どうやらあの穴は下水道までの道だったらしい。なので臭いが……凄まじい。
あちこちで腐った臭いが充満しており、軽く嗅いだだけで鼻が折れそうだと錯覚する程だ。
「一番安全なのはここですが……」
「この臭いだけは慣れません……オェ……」
このままでは辿り着くまでに気絶してしまいそう。なので
「任せて、リフレッシュ!!」
リフレッシュで辺りを浄化し、腐ったものや臭いを完全に消し去った。
「うわぁ!! あの異臭が空気の澄んだ山の中みたいにスッキリしました!!」
「凄いですお姉様!!」
「この広範囲をリフレッシュしたんか……えぐいなぁ」
「えへへ、こーいうのは得意なんだよねー」
なんて言ったって聖女ですから。
消臭なら朝飯前、なんなら呪いだって拳込みで何でも解呪出来ますし!!
「着きました!! ここが入口です!!」
「行きますよー!!」
スッキリした気持ちで私達はパーシバルへの入口を開けた。
「えと……これは」
「なんて有様や……」
そこに広がっていたのは絶望した顔で周囲を徘徊する民衆の数々。
誰もがやつれており、肉もあまり付いていないようだ。
「これがアクトのやった事……」
「助けるついでに美味しいご飯も取り戻そうか」
「そうだね」
これ以上苦しむ顔を見たくない。
私達は打倒アクトへ向けて、再び歩みを進めるのだ
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