第34話:その頃二人は

「やだやだやだ!! 帰りたい帰りたい!!」

「なーに駄々こねておるんじゃ!! 魔王としての仕事を果たせ!!」

「こんな扱いされるくらいなら辞めてやりますよー!! 助けてエメさーん!!」


 ショコラ達が馬車に乗り込んだ頃、遥か先では二人の魔王が騒いでいた。

 

「……まさかお主、手紙に余計な事を書いておらんよな?」

「……」

「無言じゃと!? なーにを書いたか白状せい!!」

「やだああああああああ!!」

「全く……国の為に頑張ると言ったお主はどこへいった」

「ば、馬車に乗った瞬間消し飛びました……」


 勇ましい姿を見て関心していたのに。

 それが駄々をこねるわ、手紙で馬鹿正直に事実を書いたり(多分確定だろう)

 相変わらずの情けなさにため息が出てしまう。


「はぁ……お主もお主じゃが、ショコラもショコラじゃ。わらわを差し置いてエメラルと二人仲良く寝おって……」

「あぁ、あれはエメさんの入れ知恵ですよ……たまーにああいう匂わせやるんですよね」

「なんて面倒くさいヤツじゃ……」


 あの場面を見た瞬間、怒りで怒鳴り散らかそうかと思った。だけど事態が事態だったので、ぐっと抑えて手紙を書いたのだ。

 それでもまた会える日が来るのなら、問い詰めてやろうと考えている。


「しかし……どうなるんですかね」

「わらわにもわからんよ」

 

 ショコラが寝込んだ後、わらわ達の元に謎の女性が現れた。

 確か……エージェントと名乗っていた。

 明らかにヤバそうな雰囲気を出していて、見ているだけで背筋が凍りそうだった。


『侵略を諦める代わりに二人の魔王が欲しいです。よろしいですか?』


 エージェントはこのデモニストを攻め落とそうとしていた。

 隣国であるパーシバルを落としたというウワサは国民にも知れ渡っており、不安で包まれている中でだ。

 

(最悪なタイミングで来おったのう……)


 ショコラは寝込み中。

 兵士達の過半数はアクト戦闘員との交戦で傷ついており、まともにやり合えばこちらが確実に負ける。

 つまり、わらわ達に選択肢は無かった。


「何やら騒がしいですね? お二人とも元気そうで何よりです」

「エージェント……」


 奥の方からぬるりと顔を出す黒ずくめの女性。

 異様な雰囲気に身体が強ばり、警戒心を解くことを許さない。


「デモニストを諦めてまでわらわ達にこだわる理由はなんじゃ?」

「た、確かに……」 

「取引の基本は痛み分け。お互い得をし損をする……これがベストな関係です」

「なるほど?」

「私は貴方たちが欲しい、貴方たちは国を守りたい。お互いの要望が叶えられた良い取引だと思うんですよね……」

「ふん……」


 誤魔化しおって。

 国以上にわらわ達の力に価値があるのだろう。何かしらの研究材料に使われるのは目に見えている。

 ただ、それを防ぐ手段もわらわ達にはないが。


「……ショコラ」


 ふと口にする、心の中で強い存在感を放つ大事な人。

 気まずい関係で終わらせたくなかった。少し落ち着いたら、またいつも通りに戻ると思っていたのに。


(もう少しだけ……話したかったのう)


 彼女のいない空間が、今は寂しく感じてしまう。

 ステラがいるのに……それが何故かは、わらわにもわからなかった。


〜〜〜


「……ムーナ」


 か細く呟いた想い人の名前。

 まだ離れて一日しか経っていないのに、こんなにも胸が締め付けられるのは何故だろうか。


「大丈夫やて、あの魔王様がすぐくたばるとは思えへんよ」

「うん……だよね」

「……ま、ウチもステちゃんがいなくて不安やけど」


 そう語るエメラルの表情はどこか寂しげだった。少しでも気を抜けば泣いてしまいそうで。

 身体を震わせる彼女の姿を私は見ていられない。


「……ギュってする?」

「……しよか」


 想い人と離れ離れになった者同士で抱きしめ合う。

 お互いの体温は温かく、寂しさを感じていた心が少しだけ落ち着いてくる。

 だけど、


「足りないね……」

「ああ……」


 何かが不足している。


「大丈夫ですよ!!」

「私達は色んな情報を知っているので!! すぐ助け出せます!!」


 でも大丈夫、私一人じゃない。

 姉妹ちゃんもエメラルもいる。

 絶対、絶対助け出す。

 そしてまた……いつも通りの毎日を。


「ありがとう……情報って具体的にどんな?」

「えーと、城の内部構造や研究施設の場所、後は隠し通路や罠の設置箇所とか……」

「ほとんど筒抜けやん!?」

「なんかゴタゴタしてて……」

「ガバガバだったんですよね……」

「えぇ……」


 ここまでバレバレなら二人を人質に差し出さなくてもよかったのでは……

 情報が少なかったから仕方ないけど。


「今のパーシバルは結構危ないですが、安全なルートを知っているので!!」

「ご安心ください!!」

「危ない? アクトがいるから?」

「いえ、そうじゃなくて……」

「「?」」


 深刻そうな顔で話を続ける姉妹ちゃん。

 その様子に疑問を覚えつつも、何やらただならぬ雰囲気を感じた。


「民衆同士で……」

「物の奪い合いをしてるんですよ……」

「え?」


 物の奪い合い?

 どういうこと、状況が全く分からない。

 

「ど、どういう事?」

「アクトがあらゆるお金と物資の半分を奪い去って」

「それで力のある者に食べ物等が集中しちゃったんですよ」

「……つまり貨幣での取引が無くなった?」

「はい……」


 なるほど、それで限られた物資を奪い合っている訳か。アクト側は国を収める必要なんてないし、国民がどうなろうと知った事では無い。

 自らの利益を優先させた結果か。


 ……地獄だね。


「パーシバルから脱出は出来へんの?」

「アクト戦闘員が周囲を監視している以上難しくて」

「冒険者の一部は脱出できたんですよ。ただ皆が皆強い訳ではないので……」


 力無き者が苦しむ世界を作り出して何がしたいのか。

 ムーナ達だけでなく、関係のない人々まで辛い目に合わせるだなんて


「許せない……」

「せやな……はよぶっ飛ばそう」


 拳を握り締め、アクトに対する怒りを強くさせた。

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