第37話:黒幕、現れる
「二人ともちょっと揺れるけど我慢してね」
「おお……」
「ありがとうございますぅ……」
私とエメラルで二人を抱える。
それにしても酷い。
鉄格子と壁に囲われた、薄暗くて冷たい場所だ。置いてある物も大きめの布が一枚のみ。
「しっかし何があったんや。こんなにやつれて……」
「魔力を……吸い取られた」
「魔力を?」
「何かの研究で使うらしくて……それでギリギリまで魔力を……」
おまけに実験道具にまでされたのか。
前に倒れた時よりマシとはいえ、かなりの衰弱具合だ。
「許せない……」
二人を罪人のように扱ったアクトに、私は怒りを抑えきれない。
「とりあえず地上に戻って休もう。アクトへの対策はそこから……」
「逃がしませんよ?」
「っ!!」
地上へと向かおうとした時だった。
突如背後から殺気を感じ、振り返ると黒ずくめの女性が立っていたのだ。
こいつだ……こいつがムーナを……!!
「お前がこんな事を……」
「ええ、契約ですから……」
「契約だからってムーナを弱らせていいの?一方的に侵略をチラつかせて、代わりに魔王を人質に取ったと思えば実験道具にして……横暴にも程があるでしょ!!」
感情的になり声を荒らげて怒りをぶつける。そんな私を見て、こいつはニタニタと笑う。
気味が悪い。
「ふふっ……仕方の無い事ですよ」
「?」
「個人を輝かせる為には、どうしても犠牲が必要なのです。心苦しいですよ、私だって」
「嘘つけやぁ!!」
明らかに感情の篭っていない返答にエメラルも激怒し、勢いに任せて剣を振るう。
「おっと」
「チッ!!」
しかし、太刀筋を見切っていたのか紙一重でかわされてしまった。
「あんたがステちゃんをこんな目に合わせたんやろ!? 今すぐここでぶっ殺してやるわぁ!!」
「エメラル」
「なんやショコラ!? 止めても無駄……」
「ここは私にやらせて」
「はぁ!? ショコラ一人に任せられる訳……」
「いいから。エメラルは二人を守って欲しい」
「……」
怒りでいっぱいのエメラルを落ち着かせ、私に譲るようお願いをする。
エメラルの気持ちも分かるし、こいつを一緒にぶっ飛ばしたい。
だけど私達には姉妹ちゃんと弱りきった二人の魔王がいる。守りながら戦えば確実にやられるだろうし、第一ここに居座らせるより四人を逃がしたい。
逃げ足の早いエメラルに離脱を任せ、私は戦いに集中する。
危険も多いが最善の選択だと思う。
「わかったわ!! けど、ショコラも無理せんといてや!!」
「大丈夫、こいつをボコッたらエメラルの所に持っていくから」
「へぇ……それは楽しみにしとくわぁ」
勿論、エメラルへの手土産は忘れない。
こいつを倒した後は三人の所まで引きずり出し、思う存分ボコボコにしてもらおう。
「それじゃ、こっちは任せや!!」
「うんっ!! お願い!!」
エメラル達が引くのを確認し、私は再び黒ずくめの女に向き直った。
「ほぉ、これはこれでちょうどいい。聖女ショコラのサンプルも欲しかったんですよ」
「悪いけどタダでは渡さないから」
「勿論、取引の基本は痛み分け……貴方の力を手に入れる為に……」
黒ずくめの女がパチンと指を鳴らす。
すると、
「手荒な真似を使いましょうか」
アクト戦闘員が私の周りを囲い、武器を首元に突きつけていた。
「個人に栄光ある世界を。貴方はその為の道具となるのです」
首筋に刃が触れ血が流れる。
黒ずくめの女は相変わらず不敵な笑みを浮かべ、周りにいる戦闘員は数という力に慢心し、少しばかり油断を感じた。
「……」
誰がどう見てもわたしが不利だ。逃げ場所はどこにもないし、少しでも動けば四方八方から刃の雨が襲いかかるだろう。
「悪いけど……」
「ん?」
それでも、私のやる事は変わらない。
「殺す気でやるから」
ムーナを苦しめたこいつらを、全力で痛めつけるだけだ。
「ゴッ……ガホァ……」
「なっ……!?」
「あ、頭がトマトみたいに潰れて……!?」
目の前にいた戦闘員の頭を思いっきり掴み、グシャッと潰した。
血肉と共に頭だったものが弾け飛び、戦闘員だったものが無惨な姿へと変化した。
「やれ!! やらないと死ぬぞ!!」
「「「「おおおおおおおおっ!!」」」」
突然の出来事に戦闘員達は明らかに混乱していたが、自らを無理やり鼓舞して私に襲いかかる。
だが、
「がっ……!?」
「ぶぼぉ……」
「うぐ……っ」
グシャッ!!
バシャッ!!
ゴシャア!!
鈍い音と共に攻撃が戦闘員達に命中し、激しく流れる血と共に吹き飛ばされる。
攻撃方法は多彩だが、いずれにせよ喰らった者の命は既に無い。
「ひぃっ……ひいいいい!!」
「ば、バケモノだあああああ!!」
たった一撃で絶命していく戦闘員達に生き残った者達は怯え、自らの命の危機に思わず逃げ惑う。
そんな彼らの様子を気にせず、私は一人ずつ確実に殺していく。
「……」
何人殺したのだろうか。
攻撃を繰り返す度に、聞こえていた悲鳴の数が徐々に減っていく。
「これで最後……か」
やがて悲鳴が聞こえなくなった頃、周囲を見渡すと、既に血と肉の固まりと化した戦闘員達で部屋を埋め尽くしていた。
「ほぉ……これは素晴らしい力だ。やはり戦闘員では抑えきれ……」
「はぁ!!」
「おっとぉ!!」
会話を遮る形で黒ずくめの女に拳を振るう。
だが、エメラルの時と同じようにあっさりとかわされた。
「いいですねぇ……その速さ、威力、どれも一級品だ」
「黙れ。さっさとお前をぶっ飛ばす……死ぬ一歩手前まで」
「そうですかそうですか……」
何回か攻撃すれば一回くらい当たるだろう。
単純な憶測を抱きながら、私は再び近づいて攻撃の準備をする。
「では私も本気を出しましょう」
「っ!?」
だが、近づいて来た私を黒ずくめの女は魔法で吹き飛ばした。
「がっ……!!」
「素晴らしいでしょう? 魔力のエネルギー波によって身体が押さえつけられ、身動きの一つすら取れなくなる」
「くっ……」
謎の力に圧をかけられ、上手く動く事が出来ない。それどころか私の身が押し付けられた壁にどんどんめり込んでいく。
「この力で私、エージェントは幹部まで登りつめた。貴方だって、その力を使えば私と同じような幸福が得られますよ」
「何を……!!」
「あぁ何故戦わないと行けないのですか……同じ選ばれた力を持つ者同士、アクトの理念に相応しい人間なのに……!!」
狂気を含んだ声で私に語りかける。
確かにここまでの力は上に立つには相応しいのかもしれない。
個人の力が必要とされる組織の体制。
少し前までの私だったら、リコットと同じようにアクトへ身を委ねていただろう。
だけど
「そんなもの……私にはいらない!!」
「なっ!?」
今の私には仲間が、ムーナがいる。
魔力による圧力を力技で突破し、エージェントに急接近する。
「が……はっ……」
そして拳を握りしめ、勢いのある一撃を彼女の顔面に向けて放った。
「どう? かなり効いたと思うけど」
「あぁっ……いいですねぇ。この力、組織に生かせないのが残念です……」
鼻血を垂らしながらも平静を保つエージェント。
まずは一発。攻撃はかわされるが当てさえすればダメージは入る。何発か当てれば確実に倒せるハズ。
『お主は自信を持て……大丈夫じゃ』
圧倒的に不利という訳では無いが、有利でもない。ムーナの言葉を思い出し、冷静に相手の動きを見る。
自信さえあれば、私一人でもやれる。
そう実感していた。
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