第7話:その頃勇者達は

ショコラ達がデモニストに向かった頃、勇者達は大苦戦を強いられていた。


「ぐあぁ!!」

「こいつ……なんでこんなに強いんだ!?」


 ここはダンジョンの10階層。いつも通り勇者パーティが戦闘をしていたのだが……調子がよくない。

 それは勇者リコットも同じだった。 


「なんでよ……なんで倒せないの!?」


 自慢の剣がはじかれる。

 それどころか剣をかいくぐって反撃をされ、逆にダメージを喰らう始末。

 ヒーラーである役立たずの聖女はもういない。

 なのでアイテムボックスからポーションを飲み、急いで回復をしようとしたのだが


「キケェー!!」

「チッ!!」


 ポーションをはたかれ、回復の隙を与えない。

 攻撃は通らない、ダメージは喰らう、回復もできない。

 しかもここは10層。以前なら20層まで余裕だったのに。

 

 何もかも上手くいかない現状にイライラが貯まる一方だ。


「リ、リコット様!! ここは引きましょう!!」

「はぁ!? そんなことする訳ないだろう!? まだ10層なんだよ!!」

「で、ですが皆もう限界で……ぐわあああ!!」


 押し寄せるモンスターを相手に膝をつき始めるパーティメンバー達。


「うるさいね!! こんなやつ……ブレイブスラッシュ!!」 


 本当ならこんなヤツ勇者の魔法で一撃なのに。


「キケェ!!」

「……ぐっ!?」


 当たりもしない。また反撃されてしまう。

 蓄積されていくダメージにとうとうアタシまでもが膝をついた。


「……撤退するよ」


 悔しい思いを抱えながら、アタシは引くことを決意した。

 

~~~


「なんだこのザマは!! 貴様らは本当に勇者パーティか!?」

「申し訳……ありません」


 10層で逃げ帰ったという報告に、パーシバルの国王は激怒した。

 ダンジョンのモンスターを倒し続けなければ、国内にモンスターが溢れかえってしまう。怒るのも当然だろう。

 

「はぁ……聖女が事故で亡くなったからと言って調子を悪くする必要は無いだろう。公私混同はやめてもらいたい」

「アタシが……あんなやつを……?」


 ショコラの事は不慮の事故で亡くなったと伝えてある。消したのは勿論アタシ。これで日々のストレスからおさらばだと言うのに。

 国王は私があんなヤツが死んで悲しんでるとでも思ってるの?

 解消したはずのものが再度湧き上がるのを感じた。


「ふざけないでください!! アタシは……!!」 

「ほう? 反論は結果を示してからにして欲しいな」

「……」


 何も言い返せない。

 上層で逃げ帰り、醜態を晒しているのにも関わらず、反抗するアタシは負け犬の遠吠えでしかないだろう。

 歯をギリッと食いしばりながら、アタシは上げた頭を下げるしかなかった。


「さて……おい、兵士を集めろ。ダンジョン部隊を増やすぞ」

「え……」

「勇者パーティがしばらく使い物にならない以上、替わりのパーティでダンジョンを攻略するしかないだろう」

「へ……」


 ふざけるな。それじゃまるでアタシ達が用済みとでも言われてるようじゃないか。

 

「待ってください!! アタシは、アタシは!!」

「黙れ!! 貴様らはしばらくワシに顔を見せるな!!」

「っ!!」

「……さっさと下がれ」


 威圧に押され、国王の言葉に黙って従う。

 その足取りは重く、内心では今日の出来事でイライラが溜まる一方だった。

 

「や、やっぱりショコラがいないと……」

「あの田舎娘がいないと、だって?」

「ひぇ!! で、ですが回復も盾役もいつもあいつが……」

「あんな奴に頼らなくてもアタシ達はやれるんだよ!!」


 クソッ!! 

 城内の壁を思い切り蹴る。

 今回はヒーラーが居なかっただけだ。

 ここはパーシバル、優秀な人材ならいくらでもいる。

 勇者であるアタシが声をかければ聖職者の一人や二人来るに決まっている。


 回復なんてあの田舎娘でも出来るんだ。

 すぐ、取り返せるはずだ。


「次は必ず成功してやる……!!」


 焦りながらもアタシは次のダンジョン探索に向けて準備を始めた。


 だが勇者達は知らない。

 聖職者ごときが聖女の代わりを務めることは出来ない。

 それどころか、ショコラは自慢の怪力で戦闘も封印解除もこなす唯一無二の人物であると。


〜〜〜


「勇者、か……かなり焦っていますねぇ」 


 誰にも気づかれない場所に隠れ、ひっそりと動向を追う者が一人いた。


「負のエネルギーが溜まっている……反逆の時は近い」


 不敵な笑みを浮かべながら、その場から離れる。

 この世界の脅威はモンスターだけではないと、勇者も聖女も魔王もまだ知らない。

 本当の戦いは、まだ始まってすらいなかったのだ。

 

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