第6話:外の世界です!!

「やっと地上だー!! 助かったー!!」

「これが外の世界か……懐かしいのう」


 ダンジョンの外へと転送された私達。

 うーん、空気が美味しい。

 一時はやばいと思ったけど、生きててよかったぁ!!

 呼吸する度に生を実感する。


「どう? 外の世界は?」

「どうと言われても……草木しかないから何とも言えん」

「あはは、だよね」

「じゃが……空気はいい」


 目を閉じ、流れる空気を肌で感じるムーナ。

 久しぶりの外の世界に感動したのかムーナの瞳が雫でキラリと光っていた。


「さて、王国にでも行こうかの。パーシバルじゃったか?」

「え、あー……止めた方がいいと思う」

「なんでじゃ?」

「元パーティメンバーもいるし、パーシバルは貴族の差別が激しいから……」

「なんと、まだそんな事をしておったのか」

「この国で勇者が魔王を封印した、やっぱり人間は最強だーって貴族が自慢のように広めたみたいでさ……長い歴史で色々曲解された結果みたいだけど」

「なるほど……」


 パーシバルという国は貴族の影響が強く、非常に凝り固まった考えの人間が多い。

 かつての勇者の出身であり、魔王を封印した場所として調子に乗り続けた結果らしいのだが……


「はん、何が貴族主義じゃ。お主らが崇めている先代勇者だってわらわと一緒に人間を虐殺していたぞ」

「はい!?」

「わらわ一人では限界があるしな。考えに賛同した上で姿を偽り、人間と戦っておったのじゃ」

「へ、へぇ……」


 衝撃の事実。

 なんと勇者が魔族側で戦っていた。

 あの魔王と勇者が手を組むなんて地獄絵図すぎる……考えたくもない。


「戦争終盤なんて、「人間を殺す感覚がクセになってきた」とか言い出したしな」

「ただの殺人鬼じゃん」

「ほんとにそのままじゃよ。わらわもこやつを味方にして大丈夫だったか不安になったわ……」


 こんなやべーやつを人間は崇めていたのか……まあリコットも頭おかしいし勇者特有の個性なのかもしれない。


「あ、そうだ。魔族のいるデモニストって国なら少し遠くにあるよ」

「デモニストか……!! というか今でも存在しておるのか……よかった」

「ふふっ」


 やっぱりデモニストは知っていた。

 ムーナにとっても、懐かしの故郷だったんだね。


「今は平和になって魔族も温厚な種族だって言われてるし」

「温厚!? 魔族が!?」

「う、うん……前に魔族の人と会った時ものほほんとして穏やかな印象だったし……」

「あの血気盛んな魔族が温厚とは……ははは」


 自分のいた時代とのギャップに思わず引き笑いを浮かべるムーナ。

 なんかふわふわしてたんだよね。

 穏やかというか……マイペース?


「と、とりあえず!! デモニストに行こうよ!! ムーナの知り合いも生き残ってるかもしれないし!!」

「魔族は長生きじゃからな……よし、ショコラ。わらわに捕まれ」

「ん? こう?」

「そうそう、それでよい」

「? わ、わわ……!!」


 抱き着くように捕まると、ムーナは背中から二枚の翼を出現させゆっくりと上昇した。


「すごーい!! 飛んでる!!」

「魔王じゃからな、これくらい容易い」

「わーダンジョンが凄く小さい……」


 近隣の街まで広く見える。

 青い空に囲まれ、地上とはまた違った空気の味に私は胸が高ぶった。

 

「さて、そろそろいく……まて」

「?」


 身体をひねらせ前に進もうとした瞬間、ムーナは突然静止した。


「国の場所がわからん……」

「あっ」


 そういえばそうだ。

 500年も経てば地形等も大きく変化しているわけで、正確な方向が分からなければ飛びようがない。

 勿論、私もわかんない。


「あ、でも近くに馬車があるよ」


 ちょうど西側へガタガタと向かう馬車が見える。

 馬車の業者さんは色んな国で商売をしている。もしかしたらデモニストの場所を知ってるかもしれない。


「……取り敢えず馬車の所にいこっか」

「……そうじゃな」


 ゆっくりと地面に降り、私達は馬車の方へと向かった。


〜〜〜


「デモニスト? 今そこに向かってるんだけど一緒に行く?」

「「やたー!!」」


 道を聞くだけのつもりが、なんと目的地が同じという奇跡。

 タダで護衛する代わりに、という事で一緒に同行することが出来た。


「へぇ、魔族と聖職者のパーティかい。俺はエミルだ、よろしく」

「ショコラです。よろしくお願いしますー」

「よろしくなのじゃ」


 初老の男と握手をかわす。

 荷台には食料品や衣類など幅広い物が積まれており、その隙間に私達は乗る形となった。

 

「色んな物がありますねー」

「ん? あぁ、デモニストはパーシバルと文化が全然違うからな。向こうじゃ取れない物とかが結構売れたりするのよ」

「へぇー」

「デモニストは魔素が多いからのう……今はどうなのか知らんが」

「魔素が濃いのは森やダンジョンの周りくらいだな。今は街にも色んな人がやって来て賑わっているよ」

「ほぉ……」


 昔は魔素が多いという理由で魔族以外住めない土地と言われていた。

 だが新しい魔王が政策として魔素の浄化を始め、城下町では他種族が住める程度に魔素を薄める事に成功している。

 と、本で読んだ。


「さて、お前さん達は何故デモニストに?」

「ムーナの故郷に帰る為です。で、私はそれに付き合わされた感じ……なのかな?」

「まぁ間違ってはおらぬが……別に強制はしておらんぞ?」

「どうかなぁ~?」

「ははっ、仲がいい事は何よりだ」


 会って間もないけどね?

 まだまだお互いを知ろうとしてる段階だ。

 

「まあ私もムーナの事をもっと……モンスター?」

「え?」

「……結構近いのう」

「そうだね」


 話してる途中、スキルの気配察知が反応し、モンスターの殺気を感じ取った。

 

「馬車は一旦止めて下さい。私達が周りでお守りするので」

「ああ、頼む……モンスターが出ないルートを選んだ筈なんだがなぁ」

「ヤツらも生き物じゃからな。絶対というのはない」

「そうか……ん? 聖職者の嬢ちゃんも戦うのか!?」

「え、はい?」

「そ、そうか……無理はするなよ」


 荷台から降り立ち武器を構える。

 前に三体、後ろに二体。

 この速さと群れのような習性から狼型のモンスターだと察した。


 とりあえず後ろはムーナに任せて、前は私がやろう。

 

 私はあえて魔力を出し、モンスターに感知させる事でおびき出す。

 そして少しした後、草むらの影からモンスターが出現した。


「ガゥル!!」

「はぁ!!」

「キャウ!?」


 勢いよく飛び出した狼型モンスターに盾をぶち当て、跳ね飛ばす。

 フォレストウルフか……長引かせると仲間を呼び出されるしさっさと終わらせよう。


「……そこっ!!」


 再び草むらから殺気。

 私は草むらに向かってチェーンロッドを伸ばし、薙ぎ払いを行う。

 薙ぎ払いに反応しフォレストウルフが二体飛び出し私の方へ襲いかかるも……


「おらおらぁ!!」

「「ギャウ!?」」


 拳の二連撃で一気に撃破。

 よし、殺気も消えたな。


「じょ、嬢ちゃん本当に聖職者か……?」

「いえ、聖女です」

「聖女か……いや、聖女でもおかしいか……凄いな」

「あはは……」


 下層でモンスターと戦わされたからか、恐れずにしっかり戦えるようになった気がする。

 ただ聖女のやる事ではない。絶対に。


「こっちも終わったぞー」

「おー、ムーナちゃんお疲れ様ぁ」

「ほう、三体を一人で……なかなかやるではないか」

「いやぁ、それほどでも」

「お主に聖女のギフトが宿った事が勿体ないと思うくらいじゃ」

「それはそう思う」


 せめて格闘家とかのギフトを与えられたらもう少し周りから評価された気がする。

 まあ無い物ねだりをしたってしょうがないけど。


 ゴゴゴゴゴ……


「ん?」


 突如、揺れが始まったと思いきや、近くの地面が割れた。


「グモオオオオオ!!」

「な!? モグラが何故ここに!?」


 ドガアアアアン!! と勢いよく現れたのはデッドリーモグラという地面に生息するモンスター。

 地面を掘り進め、気配を感じた獲物を地面から襲いかかる習性でよく商人とかが被害に遭いやすい。

 しかし、


「モグラはさっさと……」


 出てきた瞬間、飛び上がってそのモグラの頭を掴むと


「地面に戻れ!!」

「グモっ!?」


 ダンッ!! という音と共に再び地面へと押し戻した。

 

「よし、これで大丈夫」

「えぇ……」

「随分頼もしくなったのう」

「ん?」

 

 やや引き気味な二人に私は疑問を持つ。

 何その反応? まるでありえないといった感じの雰囲気だ。

 ただ気にしてもしょうがないので、私達は周りの安全を確保し、デモニストへ再び出発したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る