第2章

第8話:魔族の国に来ました!

「着いたぞ、ここがデモニストだ」

「「おおー!!」」


 馬車に揺られながら時間を過ごしていると、いつの間にか目的地についたらしい。

 荷台から顔を出すと、そこにはパーシバルとはまた違った街並みが広がっていた。


「懐かしいのう……魔族が多い」

「よかったね」


 すっごく嬉しそう。パーシバルに行かずにこっちへ来てよかった。

 デモニストにいる者は角が生えていたり、尻尾が生えていたり……それらが魔族である事を証明していた。

 と、エミルさんが荷台でガサゴソしているかと思ったら、果物の入った紙袋を持って来た。

 

「ほい、これお礼だ」

「ええええ!? こんなに貰えませんよ!?」

「いいっていいって!! モンスターから荷物を守ってくれたからな、これくらいはさせてくれ!!」

「で、では……ありがたくいただきますっ」

「ありがとうなのじゃ!!」


 リンゴになし、グレープフルーツまで。 色んな果物の入った詰め合わせだ。

 まさかここまで感謝されるなんて……

 

「またどこかで会ったときはよろしくな!!」

「はい!! 本当にありがとうございました!!」

「元気でな~」


 改めてお礼を言い終わった後、エミルさんは街中へと馬車を進めるのだった。


「いただきまーす……おいちい」

「んぅ……そのままでも結構いけるのう」


 ちなみに貰った果物はめっちゃ甘くて美味しかった。

 ただ食べすぎるとすぐに無くなってしまいそうだったので程々にしつつ、残りはアイテムボックスに放り込んだ。


「さて、魔族の国に来れたのは嬉しいのじゃが……」

「が?」

「……なんじゃ、これ」


 国の中をぶらついている最中、悩ましい表情と共にムーナが顔を動かす。


「ごめーん、かなり遅れちゃった~」

「いいっていいってー。俺も寝てたからさぁ」

「ふわぁ、、、仕事も終わったし寝るかぁ」

「ぐぅ……休みに青空の元でお昼寝は最高だなぁ……」

「……なんか、ぽわぽわしてるね」

「この覇気の無さは一体……かつての血気盛んな姿はどこにいった」


 魔族の住人の少し変わった姿。

 皆が穏やかというか寛容というか。マイペースなだけ?

 それにしても独特の雰囲気ではある。


「平和になったから? それとも魔王様の影響?」

「魔王? 今の時代にも魔王がおるのか?」

「うん。確か名前はステラとか……」

「……今何と?」

「え、だからステラって人が魔王を……」

「あやつかぁ!!」


 名前を呟いた途端、ムーナが声を荒げる。


「え? 知り合い?」

「知り合いも何も、あやつは500年前の魔王軍幹部じゃ!!」

「え、じゃあ戦争時代から生きてたの!?」

「あぁ、実力こそあるが普段は寝てばっか、めんどくさい作戦会議は配下に任せて自分は酒を飲んで遊んでいた問題児……!!」

「う、うわぁ……」

「実力主義が招いた惨事じゃ……ぐぬぬ」


 歯をギリギリさせて悔しそうな表情を浮かべるムーナ。

 少し聞いただけでやばいなぁと思ったけど当事者からすれば溜まった者じゃなかったのだろう。


「ちなみにあやつについて知っている事は?」

「えーと、パーシバルとの会談をすっぽかしたくらいかな……」

「……ゆくぞ」

「え? どこに」

「魔王城」

「ええええええ!? 今から!?」

「そうじゃ!!」


 やばい!! 直接説教するつもりだ!!


「あやつは500年経っても何も変わっておらん!! メリハリにも限度がある事を直接教えてやるわあああああ!!!」

「だからって荒事はやばいって!! また封印されるよ!?」

「ええい離せぇ!!」


 ただでさえデリケートな立場(元凶は私だけど)なのにもめ事はマズい。

 私はムーナを抑え込もうと自慢の怪力で抑え込んだが……


「うわわ!? 飛ぶのはずるいって!!」

「ゆくぞおおおおおおおお!!」

「うわあああああああああ!?」

 

 先ほどの翼で空を飛び、そのまま城がある方へと加速してしまった。

 

~~~


「ついたぞ」

「はぁ……で? 入れるの?」

「当然、わらわは先代の魔王じゃぞ?」


 魔王城の門前。見張りが二人構えており普通に入るのは不可能だ。

 なのに自信満々に門へと向かうムーナ。 本当に大丈夫なんだろうか。


「おい、魔王ムーナの帰還じゃぞ。とっとと開けんか」

「あ? なんだこのガキ?」

「あれだあれだ、思春期特有のヤツ」

「あー!! 闇魔法の恐ろしさを知れ!!とか言うあれか!! クッソ痛い奴!!」

「そうそう!! お嬢ちゃん可愛いねぇ凄いねぇ……」

「……」


 あ、やっばい。あの門番達殺される。


「ヘルフ……」

「ストップ!! とぁ!!」

「げふっ!?」

「すみません友人が、それじゃ~」

「「……?」」


 痛々しいクソガキ扱いされ、完全に殺る気だったムーナを腹パンで気絶させてその場から退散。

 危な!! もう少しで門前で一騒動が起きる所だった!!


「ヒール……ムーナはとりあえず落ち着いて?」

「あやつら……絶対許さん」

「まあまあ」


 門番も言い過ぎではあるが気持ちは分かる。いきなり魔王ムーナだ!! って言われても訳わかんないだろうし。

 ……とりあえず別の作戦に移るか。


「ムーナ、こっそり潜入するのはどう?」

「ん? 別に構わんが入れるのか?」

「ほら、私って力強いから。穴を開けるくらい簡単だよ。封印があっても解けるし」

「確かに……それでいくか」


 とりあえず作戦を実行することに。

 先程いた門前とは真後ろの場所に移動する。


「確か魔王の作業室は塔の真ん中辺りじゃったかな?」

「あ、じゃあ空を飛んで行こうよ。私が適当に穴開けるからさ」

「よし来た」


 ムーナが私を抱えあげ空を飛ぶ。

 そして作業室がある位置まで上昇した所で、私は拳を打つ構えに入った。


「軽くでいいからな?」

「分かってるって……てやぁ!!」


 ガァン!!という音と共に砂埃が舞う。

 そして拳は見事、人が通れる程の穴を作り出した。


「やった!!」

「ナイスじゃ!! このまま中に入るぞ!!」

「うんっ!!」


 ちょっと悪いことしてるけど、これくらいならバレない筈。

 さっさと魔王ステラに会ってさっさと抜け出そう。

 

「ん?」


 そう思った時だった。

 塔が妙に揺れているのに気づいたのは。


「……おい、なんじゃこれは」

「い、いやぁ……?」

 

 グラグラと塔が揺れる。

 気づけば穴を開けた所からひびが広がっていき、やがて塔全体を包み込んだ。

 そして


 ガッシャーン!!


「「……」」


 塔の上部が崩れ落ちた。


「なんの音だ!?」

「あっ、あそこに怪しいヤツが飛んでるぞ!!」

「逃がすな!! 捕まえろ!!」


 見張りの兵がどんどん集まってくる。


 軽くやったつもりだったのに。

 ただ穴を開けるだけだったのに。


 目の前に広がっていたのは瓦礫と化した塔だったもの。

 ……どうやら私の力は想像以上だったようですね。


「……てへっ☆」

「てへっ☆じゃないわ!! 大事を避けてたのはお主じゃぞ!! 一番酷いでは無いか!!」

「知らないよ!! ああああなんでこうなるの!!」


 そんなつもり無かったのに!!

 私が一番揉め事起こしてるじゃん!!

 

「……こうなったら一つしかない」

「……何?」

「ゴリ押し強行突破じゃあああ!! ゆくぞおおおお!!」

「そーれしかないよねえ!!」


 ここまで来て「はい帰ります」では済まない。私達は城の中へと入り、蔓延る兵士達と戦うことを決意した。

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