第4話:聖女専用の武器

「旅!? 私と!? なんで!?」


 当然の疑問だ。

 会って間もない私といきなり旅に出ようだなんて。

 いくら何でも信用しすぎではないのだろうか?


「そんなの決まっておろう。お主が面白いと思ったからじゃ」

「軽……そんなんでいいの」

「いいんじゃよ。 それに何かされたとてわらわなら……」


 ムーナがスッと手を上げると闇の魔力が掌に集まる。

 やがて魔力は小さな黒い塊となり、周囲には炎のような波動がゆらめきを見せている。

 そして……


「よっ」


 ドガアアアアアアアアン!!


「……」

「な?」


 小さな黒い塊が放たれ目の前の壁が粉々に砕け散った。

 爆発の瞬間とてつもない魔力と風圧を感じ、身体が吹き飛ばされるかと思った。


「これでも封印でかなり弱体化はしておるがのう。まぁ遠距離魔法でこれくらい使えるなら十分じゃろ」

「ムーナさん、やっぱり世界滅ぼしませんか?」

「発言が物騒すぎるぞ……すぐ慣れるわい」


 やっぱり魔王だったんだなぁこの人……やばいね。

 これで弱体化後なんだから全盛期はどれほどだったのか、考えただけで恐ろしい。


「で、どうするんじゃ?」

「あ、行きます」

「何度も言うが脅しじゃないからな? わらわも楽しくやりたいだけじゃし」

「まあ、ムーナといるなら飽きなさそうな気はするよ。少なくとも前のパーティよりは絶対いい」

「そうか……なら精一杯楽しめるようにしないとな」


 でもまぁ、悪い選択じゃないと思う。

 ずっと働いて勉強し続けて罵詈雑言が溢れる王都に戻るより、ヤバそうな力を秘めてる魔王と世界を旅する方が楽しそう。 


「これからよろしくね、ムーナ」

「こちらこそじゃよ、ショコラ」


 ……よく考えなくてもそうだね。

 決めた。ムーナと一緒に旅へ出よう。 

 その方が楽しいし昔の夢も叶えられるから。

 

「ふふっ」

「おお、いい顔をするではないか」


 お互い向き合って笑い合う、その時だった。


「ギャオオオオオオン!!」

「っ!?」

「ほぉ……下層のモンスターか」


 扉を突き破って、巨大な熊のようなモンスターが現れる。

 確かあいつはオーガグリズリー。

 本で見た事があるモンスターで、下層にしか現れないという凶暴なヤツ……


「なんでモンスターが……あ、私が封印解除したからか!!」

「そういう事じゃ」

「うわあああああ!! どうしよどうしよ!!」

「ここはわらわが行ってもいいが……ショコラ」

「はい?」

「お主一人でやってみい」

「あ、死ねと言うことですね」

「そうじゃない」


 いくら何でも私に期待しすぎじゃない? 評価しすぎじゃない!?

 下層のモンスターを一人でなんて無茶ぶりですよ。

 それに私、殴り以外は平均的なんだからね?

 

「なぁに勝算なら十分ある。ショコラ、これを使え」

「? 杖?」


 アイテムボックスから取り出された謎の杖を投げ渡される。


「それはチェーンロッド。何でも聖女専用の攻撃武器らしいが……残されたわらわの宝具コレクションに何故かあった」

「チェーンロッド? ふぅん……」


 見た目は普通の杖。

 だけど先端部分に謎の切り込みがあり、取り外せるようになっている。

 どういう武器なんだろうこれ?

 疑問を持ちつつ、私は鑑定魔法でチェーンロッドを調べた。


【チェーンロッド】

 魔力を込めることで、杖先がチェーンに繋がれる形で伸びる。

 杖先は剣やハンマー、かぎ爪等様々な武器に変化する。

 条件を満たすとスキルが開放される。

 聖女専用。

 

「……聖女の役割と合ってなくない?」

「その通りじゃ。だから当時の聖女も意味がわからんとその場で捨ておったし」

「だろうね……」


 サポートが主な役割の聖女に前線を貼らせるような武器だ。 

 見た感じ回復や聖魔法に関する補正も一切ないし。

 作った人は何を思っていたのだろうか。

 この武器を使える聖女なんている訳……あ


「まさか私なら使えると?」

「そういう事。じゃ、頑張って行ってこい!!」

「はいっ!?」


 返事と同時に風魔法で軽く吹き飛ばされ、オーガグリズリーの目の前に落とされる。


「グルル……」

「ひえっ」


 グルル…という唸り声と殺気が間近で繰り広げられ、私は全身を硬直させてしまう。


「鬼畜!! 鬼!! 魔王!!」

「最後は事実じゃな……油断するなよー。でないと殺されるぞー」

「わかってるよ!! ああもうやってやる!!」


 ヤケクソ気味に覚悟を決める。

 私はチェーンロッドに魔力を込め、相手に向けて勢いよく振り回した。


「ええええい!!」


 魔力を注ぎ込まれた事でチェーンが伸び、杖先がオーガグリズリーの元へ一直線に飛ぶ。そして


 カンッ


「……」

「……」


 しょぼい音と共に杖先がオーガグリズリーの身体に直撃した。


「グルオオオオオ!!」

「わああああああ!?」


 恐らく、というか絶対効いてない!!

 オーガグリズリーが突撃を開始し、大きな爪を私に向けて振り下ろす。

 それを寸前の所でかわし、転がりながら距離をとる。

 あぶな!? 少しでも遅れてたら八つ裂きにされるところだった!!


「なーに遊んでおるのじゃ」

「遊んでない!! 真面目です……ってうわやばい盾!! 盾!!」


 やっぱりネタ武器じゃんこれ!!

 鞭みたいに攻撃するのかなーと思ったら全然ダメージ入らないし!!

 オーガグリズリーの猛攻をアイテムボックスから取り出した大盾で防ぎながら、次の手を考える私。 


 これ本当に宝具なの?

 私の使い方がおかしいのかなぁ……


「ん?」


 そういえばチェーンロッドの説明にこんな一文があった。


 ”杖先を剣やハンマー、かぎ爪に変化させられる”って


 もしかして……


「まずは杖先をかぎ爪に変化」

「ふむ……」

「そしてもう一回……!!」


 杖先がかぎ爪となったチェーンが再びオーガグリズリーの元に勢いよく向かう。


「ほぉ……なるほどのう」


 チェーンはオーガグリズリーに直撃……せずに身体を囲うようにぐるぐると回り始めた。


「捕まえたぁ!!」

「グァ!? グゥウウウウ……!!」


 チェーンがオーガグリズリーをガッチリとホールドし、身動きを取れなくさせる。

 勿論オーガグリズリーも拘束から解放される為、じたばたともがくが……


「悪いけど力には自信があるんだよね……そーれっ!!」


 丈夫なチェーンと私の力に完全に抑えられ、拘束を解くことが出来ない。

 私はそのままチェーンを引っ張りあげ、オーガグリズリーを宙へと浮かせた。


 ドガアアアアアアン!!


「グルアァ!!」


 土埃と共に地面にぶつかる音が響き渡る。

 へへーん。これはかなり効いたでしょ?


「どう!?」

「見事じゃ。自慢の怪力を生かした戦い方か……これはショコラに渡して正解じゃったのう」

「えへへ。じゃあもう一回!!」


 再びチェーンでオーガグリズリーを拘束し持ち上げる。

 後はこれを繰り返せばいいだけ。

 始めは無茶苦茶だなぁなんてムーナに思っていたけど、私を信じての事だったんだろうね。


「グゥウウウウ……!!」

「おーさっきより手順がスムーズじゃのう」


 武器も渡してくれたし、なんだかんだ優しい……


「あっ、すっぽ抜けた」

「え」


 余計な事を考えたからか、チェーンの締め付けが甘かったからか。チェーンの輪っかからオーガグリズリーが抜け落ちた。


 それもムーナが見守っている場所で。


「グオオオオオオオ!?」

「はああああ!? なんでわらわの方に来るんじゃああああああ!?」


 再び大きな音と共にオーガグリズリーが地面に激突する……ムーナと共に。

 やっばいやばい。今度こそ殺しちゃったかな。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 だが流石は魔王。間一髪の所で避けたようだ。 


「……ごめん」

「バ、バカ者ォ!! 油断はするなと言ったじゃろぉ!!」

「ムーナの言った通り殺される所だったねー……ははは」

「お主に殺されかけるとは思わんかったわ!! ええいっ!!」

「グォ!?」


 ムーナがキレ気味に手を向けると風魔法でオーガグリズリーを吹き飛ばし、ちょうど私のいる前に着地した。


「仕切り直しじゃ!! 今度は周りに気を付けて戦うように!!」

「うわっ!? そんなあっさりと……」

「クゥーン……」


 一応下層のモンスターなんだけどな……おもちゃみたいに扱われているよ。

 オーガグリズリーもなんか気迫が無くなってるし。

 ともあれムーナ先生によるモンスター退治の授業は、もう少しだけ続くこととなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る