第3話:魔王との出会い

「え、というかさ。なんで500年も経ったなんて分かるの?」

「それは封印中でも意識は微かにあったからじゃ。しかし何かをする事は出来ないし、過ぎ行く年月を数えるくらいしかやる事がなかったのでな……」

「うわぁ……地味にしんどいヤツ」


 生き地獄とか言う奴かな?

 それでよく500年も正常にいられたね。


「まぁ自ら望んで封印されたからのう。ある程度覚悟はしておった」

「え? 自分から進んで?」

「うむ。500年前は人間と魔族の戦争が激しくてな……」


 それからムーナは500年前の戦争について、ゆっくり語り始めた。


「力を付けた人間は他種族からあらゆる物を奪い、魔族側は奪われたものを取り返し、人間側を滅ぼす為に戦った。誰かが殺され、新たな恨みを生み出し、また誰かが殺される」

「悲劇の繰り返しじゃん……それ」

「あぁ……わらわも好戦的な魔族達の思いを踏みにじる事は出来ず、皆の前で戦い続けた。じゃが魔族は……何の罪のない無抵抗な人間をも皆殺しにした」

「うわあ……」

「お互いの争いにわらわも頭を抱えたものじゃ……」


 お互い泥沼な状態じゃん。

 血みどろの戦争を語るムーナの瞳はどこか悲しげな雰囲気だった。


「だからわらわは戦争を終わらせるべく、人間の兵士を大量に虐殺した後、勇者に頼んで封印されたという訳じゃ。魔族はわらわの影響力が強かったからの」

「え? 虐殺したの?」

「あぁ。暴れに暴れたわ」

「んー?」


 何故封印される前に大量虐殺を?

 それだと恨みを買われてまた戦争になる気がするんだけど……あ


「まさか人間側に戦争をする体力を無くす為?」

「察しがいいのう。当時は人間側が少々力が強かったのでな。あの手この手で兵士を減らしやっとのことで他種族と同等の力にまで抑えることが出来た」

「で、戦争の中心にいた魔王様は封印されることで魔族は代表を失うワケか」

「その通りじゃ」


 そこまで至るまでに相当な苦労があっただろうに……それ程彼女は平和を求めたのだろう。


「のう、小娘」

「ん?」

「今は戦争など起きてはおらぬか?」

「えーと、ちょこちょこ争いは起きてたけど、500年前程大規模なものは起きてないよ。本で読んだだけだけど」

「そう……まあマシになったならよい、か」


 私の言葉を聞いたムーナはどこか嬉しそうだった。

 安心したかのような、自分がやったことは間違いじゃなかったと確信を持ったようなそんな感じ。

 少なくとも彼女が望んだ世界には近づいている、とは思う。

 

「ねぇ、魔王様はこれからどうするの?」

「ん? そうじゃのう……この世界を見ようか」

「世界を?」

「そうじゃ、500年経って変わった世界をこの目で見たい、知りたいのじゃ」

「……いいね、それ」

 

 500年後の世界なんて、ムーナからしたら新鮮なもので溢れているだろう。

 毎日が楽しくて、毎日が発見の連続で。

 きっと充実した夢のような素晴らしい日々を送れる筈だ 


 ……まるで昔の私を見ているみたい。

 

「私も昔は色んな世界が見たいと思ってたなぁ……懐かしいや」

「ん? 見ていないのか?」

「あはは……聖女として王都に来たら色々知れると思ったんだけどね……結果は勉強や探索の毎日でそれどころじゃなかったよ。それに私は頑張っても落ちこぼれだったし」

「ふむ……ん? 落ちこぼれ? 小娘がか?」

「え、うん」

「それは無いと思うがのう」

「?」

「お主、相当強いぞ」

「はい?」


 どういう事?

 私は特別な才能の無い、ただの聖女ですよ?

 強いて言えば他人より力が強い程度の。


「あの扉と結晶体を解呪できるだけでお主は相当なもの。あれは先代の勇者パーティ4人が力を合わせて作り上げた最高レベルの代物じゃからな」

「え!? あれそんなにヤバいやつだったの!?」

「気づかずにやっていたのか!? わらわそっちの方が驚きじゃぞ!?」 


 腕をぶんぶん振りながら声を荒げるムーナ。


「い、いやぁ……今まで解呪できないヤツは拳で大体何とかなってて……今回もそのたぐいかなぁと……あはは」

「はぁ……拳で解呪を行うヤツなど500年前にもおらんかったぞ……」

「え? そうなの?」

「おると思うか?」

「……確かに」

 

 まあ自分のやり方が特殊だなーとは少しだけ思ってたけどさ。

 私もパーティに貢献する為必死だったんだよ。


「お主は自分を下に見過ぎじゃと思うがのう……よほど環境が悪いと見える」

「ま、まぁ勇者パーティから褒められたことあんま無かったしねぇ」

「勇者が? そいつ本当に勇者か?」

「え、勇者だよ?」

「……こやつの才を見極められないとは。500年で勇者の質も随分と落ちたな……どうなっておる……」


 ぶつぶつと呟きながら周囲を徘徊するムーナ。

 何を考えているんだろう、よほど悩ましい事でもあったのかな?


「とりあえず!! お主はもっと自信を持て!!」

「え!? は、はぁ……」


 とか思っていたら。

 いきなりこちらへ向き直り、私にビシッと指を突きつけ大きく声を出す。


「先代勇者の結界解除。そして封印で弱体化したとはいえ、不意打ちでわらわを一撃で葬り去ったのじゃぞ?」

「あ、そっかぁ……でも」

「まさか魔王の言葉が信じられぬとでも? あぁ、そうか。わらわはもう魔王ではないしな……ふふふ」

「あーわかりました!! 信じます!! 私は強いです!!」

「よいよい。程よい自信は成長させる」


 なんかのせられた気がするけど……まあいいや。


「かつての魔王軍は才能があるのに臆病なヤツが多かったからのう。放っておけなかったのじゃ」

「なるほどね……ありがとうね魔王様」

「ムーナでよい。今更名前で呼んでも起こりはせんよ、小娘」

「わかった。あ、よければ私も小娘じゃなくてショコラと……」

「それがお主の名前か? ふふ、よかろう。では……これからもよろしくのう、ショコラ」

「うんっ!!」


 お互い笑顔で向き合う。

 こうしてムーナと仲良くなれるのは嬉しい。

 始めは500年前の魔王という事でビビっていたけど、話していく内に案外打ち解けた気がする。

 

(それに……私の事をいっぱい褒めてくれた)


 村から離れて以来、私は回りから悪口を言われてばかりだった。

 でも会ったばかりの彼女は、そんな私に真逆の評価を与えて……自信をくれて。


 あぁ、楽しみだ。

 もっと自信を持てたら、もっと色んな事が出来るかもしれない。

 己の可能性にワクワクし、胸の奥底がギューっと熱くなる私。

 ムーナもこれからよろしくって言ってたし……ん?


「ムーナ……これからってどういう事?」

「あぁ、言い忘れておったの」

「ん?」

「ショコラ、今からわらわと旅をしようか」

「っ!?」


 ムーナの急な提案には流石に動揺が隠せなかった。

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