第2話:封印を解除したら魔王だった件
「フラッシュ!!」
明かりを灯し、魔素がただよう下層を探索する。
ここがダンジョンなら、どこか上に通じる転送ポータルがあるはず。
問題は転送ポータルを見つける前にモンスターと遭遇してしまわないか、という点だけど……恐れていたって仕方ない。ここでビクビク動かなかったとしても私は死ぬんだ。
「うーん、しっかし魔素が濃いねぇ……聖女じゃなかったら死んでたよ」
魔素は濃ければ濃いほどモンスターを強化し、耐性のない人間を苦しめる。
私は聖女固有のスキルで無効化出来るから大丈夫だけど……空気が悪いっていうのは感じる。
早くここから出たいな〜なんて考えていた時。
「ん?」
近くに大きな扉を発見した。
「何これ? 呪いや封印の術式が貼られてるみたいだけど……」
かなり年季が経っており、ほこりや土汚れがついた扉。
何かを閉じ込めているのだろうか?
封印も何重に掛けられていて、普通の解呪魔法じゃ効かなさそうだし。
「でも何かありそう。もしかしたらダンジョン攻略を有利にするアイテムがあるかも」
封印されているという事は相当な何かが眠っているハズ。
そう思った私は魔力を込め、扉に向かって解呪魔法を行う。
「ディスペル!!」
……ダメだね。
一つを解呪してもまた別の呪いが補って修復されちゃう。
うーん。これじゃ解呪する前に私の魔力が切れるなあ。
よし、こうなったら。
「殴るか」
私の個性でもあり悪いところ。
それは、困ったらとりあえず殴ることだ。
今まで聖魔法が通じない相手に自慢の怪力でぶん殴った所、結構な問題を解決できてしまった。
脳筋すぎじゃないって? うるさい。
「オラオラオラオラオラ!!」
ディスペルを両方の拳に込め、出来る限りの連打を行うとバキバキバキッ!! と割れたような音を鳴らす。
おー今回も上手くいっちゃう?
下層でも脳筋解呪は通じるんだねぇ。
パキィ!!
ゴゴゴゴ……
「あ、空いた」
呪いが解呪され、扉が勝手に外側へと開いていく。
私は導かれるように中へと入っていき、部屋内をフラッシュで照らし始めた。
「んー?」
中は何もない大きな空間だった。
しかし、奥の方から強い魔力を感じる。
私は奥の方をフラッシュで照らし、その正体をこの目で確かめる。
「……魔族の美少女?」
魔族の美少女が大きな結晶体に閉じ込められている。
長い黒髪に大きな角を生やし、肌は褐色だ。抜群のスタイルで服はノースリーブな上に大きく膨らんだ胸の上部が露出されている。加えて下はフリルのミニスカートでガーターベルトとニーハイときた。
すっごいセクシーな子だ……!! 男ならその場でグヘグヘと興奮するかもしれない。
「おーい? 生きてる? 返事してー?」
コンコン、と結晶体を叩く。
大声で語り掛けてもうんともすんとも言わない。
意識が丸ごと封印されちゃってる感じかな?
よし!! だったらやる事は一つ!!
「殴るかぁ!!」
先ほどと同じように結晶体に向かって聖魔法を込めた拳でひたすら殴り続ける。
「オラオラオラオラオラァ!!」
結晶体は意外と固く、私の拳に赤くにじんだ血を流させた。
でも大丈夫。
「ヒール!! ヒール!!」
このように傷ついた拳もすぐ回復。
「はぁ……はぁ……」
だけど疲れは溜まっていく。
先程までダンジョン攻略を行っていた他、突き落とされたり解呪したりで体力の消耗が激しかった。
なので殴る気力が徐々になくなっていくが……
「リチャージ!! よーし気力も回復っと!!」
このように魔力が無くならない限り、私は永遠に殴り続けられる。
半永久機関ってヤツだね。
ドカドカドカ!! と響く轟音と共に、私は結晶体の解呪に全力を注いだ。
ピキッ……
「お?」
ピキピキッ
「ひび入った!! よーし!! 思いっきりやるぞー!!」
高純度の聖魔法を込め、大きく振りかぶった拳でひびの入った部分を殴りつけようとする。
一気に解呪を終わらせる為だ。
「おらああああああああああ!!」
気合の入った拳が結晶体へと近づき、今にも当たりそうなその時だった。
パキン!!
「え?」
私が拳を当てる直前、結晶体が完全に崩れ去ってしまった。
つまりどうなるかと言うと……
「ふぅ、やっとわらわがブホォ!?」
「あ」
本来結晶体へと向けられた拳が、魔族の美少女の腹にクリーンヒットした。
「ぐばっ!! げべっ!! どほぉ!!」
「……」
……やばい、殺したかもしんない。
三バウンドした後、ガッシャーン!! という大きな物音と共に魔族の美少女は奥の壁へと吸い込まれる。
助けるつもりがまさかの殺人未遂に。
完全に終わった……と思ったが瓦礫の山がある位置がピクピクと動いており、彼女がまだ無事である事を教えてくれた。
「ハ、ハイヒール……」
すこーし遠くの位置で魔力を込め、魔族の美少女がいる付近に上位の回復魔法を唱える。
癒しの波動が瓦礫の周囲に漂い、やがてドカン!! と吹っ飛ばして起き上がった。
「ぷはっ!! ああ……生き返ったわ……」
「よ、よかった……」
「……さて」
びくっ
怒りに満ちた赤い瞳が私を捉え、体中が阿寒と震えに包まれる。
「お主……そんなにわらわを殺したかったのか? あ?」
「そ、そそそそそんなことないです!! あなた様を助けたかっただけです!!」
「んなわけあるか!! あんなの他の魔族ならあの世逝きじゃぞ!?」
やばい、超怒ってる……!!
そりゃあそうですよね!!
復活した瞬間腹パンされたら誰だってこうなる!!
「逃げるな」
「ぎくっ」
後ずさりしながら扉を出ようとする私を、魔族は睨み付け静止させる。
あ、だめだ。完全に殺される。
お父さんお母さんごめんなさい。私はここまでです。
覚悟を決めて私は目をつぶりながら祈った。
「まぁよい。助けてくれたのは事実じゃ。手段は少々荒っぽいがの」
「え?」
あれ? もしかして許された?
「傷も治ったしもうよい。あれしきでブチギレる程、わらわは短気ではない」
「いや、あれはブチぎれてもねぇ……」
「ほう……今から怒り狂いながら魔法でもぶっ放してやろうか?」
「……」
冗談に聞こえないよ!!
笑ってるのに笑ってないように見えるし!!
そんな体中を震わせる私を、彼女は楽しそうに見ていた。
「おっと、自己紹介がまだじゃったの」
魔族の美少女はこちらに歩み寄り、歩幅一歩分の距離が空いた所で再び口を開く。
「わらわの名はムーナ。500年程前に魔王をやっておった魔族じゃ」
「ま、魔王……!?」
衝撃の事実。
名乗りと同時に露にする誇らしげな態度とオーラに尻もちをついてしまい、彼女を二、三回見てしまう。
この子が元・魔王? しかも500年前の!?
確か500年前って人間と魔族が本気で戦争していた時代だったような……
「ふふふ、驚いて声も出ないようじゃのう」
あれ、もしかして私……とんでもない子を解放しちゃった?
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