怪力な聖女様は伝説の魔王に愛されている~追放と称してダンジョンで突き落とされた私、最下層に封印されていた美少女魔王を力技で救ったので一緒に旅をしようと思います~

早乙女らいか

第1章

第1話:最下層に落とされました

「ダンジョンが崩れるぞ!!」

「クソッ!! 派手にやりすぎたか!?」


 天井から岩が落ち、砂埃が舞う。

 少し先にある地面は既に崩れており、足場すらない状態だ。


「はぁはぁ……」


 揺れ動く空間の中で私はひたすら走る。

 聖女という前衛ではないポジションの為、どうしても行動がワンテンポ遅れてしまう。

 だから走る。逃げ遅れないようひたすら走る。


「お疲れさん。相変わらず田舎娘はトロいねぇ」


 私が出口に向かって走り続ける中、パーティリーダーである勇者リコットが目の前に現れた。

 

「ちょうどいい機会だと思ってたんだよ。メンバーの入れ替えのね」


 彼女は私の事が嫌い。だけど意味の分からない事を言うのは後にしてほしい。

 あなたも崩落に巻き込まれるぞ、と内心イライラしながらも彼女の元へ近づく。

 

 その時だった。

 リコットが右手に魔力を込め、私の方に腕を向けたかと思えば


「ショコラ、あんたはもう追放だよ」

「っ!?」


 右手から放たれた火炎弾が身体へモロに直撃し、地面のない場所まで吹き飛ばされた。


「きゃああああああああ!?」


~~~


 私、ショコラはトンパという小さな村で育った。

 ごく普通の村で、普通の暮らしをして、普通の少女として日々を過ごした。


「ふんっ!!」

「おおーショコラありがとうなぁ。こんなに重い物持ってくれて」

「いえいえ、お安い御用です!!」


 変わった事、と言えばこの怪力くらいかな?

 同年代の男女より力持ちだった私は、よく村の大人達に混ざって力仕事の手伝いをしていた。

 手伝った分だけ大人達は喜ぶし、何よりご褒美におやつが貰える。

 正直後者が圧倒的に行動する動機だったんだけど……まあいいでしょ。


 と、そんな毎日を過ごし13歳となった私に神託の時がやって来た。

 

「ショコラのギフトは……おおお!! 聖女だ!!」


 村にやってきた教会の人が、声を荒げる。


「ええ!? ショコラが!?」

「信じられない!!」

「嘘……?」


 神託により判明したギフトに村人は驚く。私も驚く。


 ギフトとは人々の中に眠る適正のような物だ。


 例えば剣士のギフトなら剣の技術が上がりやすいし、大工なら工具などの扱いが上手くなったり。

 この世界ではギフトによって人の進むべき未来が指示される。

 

 そんなギフトにも珍しいものがあり、聖女もその内の一つ。

 回復魔法が上達しやすいギフトだが、同じ系統の聖職者の上位互換であり勇者並に崇められる存在なのだ。


「やった!! トンパに聖女が現れたぞ!!」

「祭りだ祭りだ!!」

「ショコラが王都に行くのか……すごいな」


 え、ちょっと。勝手に盛り上がらないでよ。

 まあ聖女みたいな珍しいギフトは王都から直々に招待がやって来る。

 珍しいギフトを持つ者で国の中心を守り、また象徴的な存在として育て上げる為だ。

 

 だからこんな村にも教会の人がやってくる訳。

 

 と、完全に宴会のノリに突入した村人達に囲まれた当の私はというと。


(王都の生活……すっごく楽しみ!!)


 凄くワクワクしていた。

 だって王都には色んな本や世界が広がっているんでしょ!?

 この村にある数少ない本で勉強していた私は、未知の世界にとても憧れていた。


 色んな文化、色んな種族。

 ここには無いもので外は溢れている。


 どうせこの村で一生を終えるんだろうなーと半ば諦めていた私に訪れたチャンス。

 これはモノにするしかない!!

 固く決心をした私は、様々な準備を行い来るべき日に備えた。

 そして王都に行く事となった日。私は誓ったのだ。


 色んな世界を見て、色んな勉強をして、新鮮で楽しい毎日を送るんだ。


 そんな子供じみた希望を持って王都に訪れた私に待ち受けていたのは……絶望の連続だった。


「私がこんな田舎娘とパーティを? 最悪」


 開口一番これである。勇者のギフトを持つリコットと対面した際、いきなり悪口を言われた私はぽかんとした。

 彼女は侯爵家の娘らしく、このパーシバルという国の貴族だ。

 パーシバルの貴族は下の者をかなり見下す傾向にあるらしく、私もその対象だったらしい。

 

「一緒にいるな、近づくな。大体聖女の癖に回復しか使えないのはなんで? もっと特別なスキルや魔法を身に付けな!!」


 日々勉強し続ける私にリコットは厳しい言葉しか与えなかった。

 田舎娘と忌み嫌う聖女とパーティを組め、と国王から直々に言われたのも余計にイライラしていたのだろう。


「いたっ!?」

「ああ、障害物かと思ったら田舎娘だったのかい。ごめんねぇ?」

「ぐぬぬ……」


 ある時はわざとぶつかってきたり。


「明日の冒険の準備、適当に買ってきて」

「え?」

「いいから、役に立たない田舎娘に仕事を与えてるんだよ? 感謝しな」

「……」


 ある時は冒険の準備を私に全て押し付け、少しでも変なのを買ってきたら怒り出す。


「クソッ……こんな時に田舎娘の顔なんて見たくないのに!!」

「うわぁ……びしょ濡れになっちゃった」


 酷い時なんて目が合っただけでグラスの水をぶちまけられた。

 何これ? 理不尽すぎじゃない?


「お前なんかがリコット様と対等だと思うなよ」

「お前のギフトは間違いなんだよ。聖女を語る偽物め」

「田舎娘風情が偉そうにするな!!」


 周りのパーティメンバーも私を追い詰める。

 特別なギフトこそ持つが彼らはリコットに従う貴族、いわばイエスマン。私をかばおうなんて思いは少しも感じなかった。

 正直言ってすっごいムカつく。いつかぶっとばしてやろうと思ったくらい。


 だけど


(何も覚えられない私も悪いんだよね……)


 王都に来て五年。

 一応、基本の回復魔法や聖魔法は使えるようになった。

 しかし、どれも聖職者でも使えるものばかりで、聖女だけが使える魔法やスキルは一切覚えなかった。

 私も努力をしたしあれやこれやと試行錯誤もした。

 でもやっぱりダメ。全然ダメ。

 リコットは勇者特有のスキルや魔法を覚えているのに……なんでだろ。


「田舎娘!! 前に出て盾になりな!! 早くしろ!!」


 そんな私の唯一強みだったのが怪力。


 どうにかして生かせないかなぁと考えた結果、盾を持って相手の攻撃に耐える事。

 こんなの聖女の仕事ではないと思うのだが、案外うまくいってしまったのだ。

 自慢の怪力も五年で更に上がり、あのリコットでも私に力では叶わない程。

 その事実に本人は凄いブチギレてたけど。


 という訳で、前線でタンクみたいな仕事をするヒーラーが爆誕した。


「ぐっ……でもこれくらいならっ!!」

 

 そして、いつも通りダンジョンに潜っていた時だ。

 ボスモンスターと派手にやり合い、その影響でダンジョンが崩落。

 それを追放のチャンスとでも思ったのか、リコットは私を奈落に突き落とした。


~~~


「落ちるうううううう!?」


 周りの岩と共に底のない地面へと落ちていく。

 落下速度はグングン上がり、いくらダンジョンで鍛えている私でも即死は免れないだろう。

 あぁ……死んだ。

 覚悟を決め、私はゆっくりと目を閉じる。


「あだっ!! いだっ!? うわぁ!?」


 痛い痛い!! 死ぬときくらい大人しくさせてよ!!

 壁から突き出た岩にぶつかり続け、ゴムのように跳ね返る。


(あれ……なんか遅い……?)


 その影響か分からないが、落下速度が徐々に落ちていくのを感じた。

 

 もしかして助かるかも?

 僅かに希望を感じた私は魔力を集中し、身体全体を魔法で覆い始めた。


「オートヒール!!」


 温かな光が身体を包み、少しづつ傷を癒していく。

 オートヒールは一定時間、回復し続ける魔法。

 岩にぶつかり続ける今の状況にピッタリだと思ったんだけど……


「いだだだだだだだ!? ヒール!! ヒール!!」


 オートヒールじゃ耐えられない!! 無理!!

 休む間もなく襲いかかる激痛に対し、私は連続ヒールを重ねがけして対処を行う。

 痛いけどこれなら耐えられそう……危なかった。

 そして落ち続けて少しした後、下に地面が現れた。

 

「ぐほぉ!?」


 ドゴォン!! という轟音と共に地面に激突。

 凄まじい衝撃だったが意識はある。

 よかった、私は生きてるんだと安心したのも束の間。

 

「ハ、ハイヒール……」


 生きてはいるが無事とは言っていない。

 全身を絶え間なく続く痛みに支配され、傷という傷から血を流している。

 私は残された力を振り絞り、ヒールの上位互換であるハイヒールを唱えた。

 

「とりあえず助かった……」


 ハイヒールにより出血や痛みが引いた事を確認すると、私はその場で立ち上がった。

 しかし、ここはどこなんだろう。

 大分下に落とされたけど……まさか最下層とは言わないよね? 

 引きつった笑みを浮かべつつ、私は暗い下層の中で歩みを始めるのだった。

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