1. 私は子供部屋おばさん

 「子供部屋おばさん」


 その言葉をネット上で目にしたときに、あまりにも悪意のこもった――でも的確すぎるその表現に私は息を詰まらせた。


 この言葉を「上手いこというねぇ」なんて、げらげらと笑える立場でいたかったけれど、残念ながら、そうではない。


 だって、私自身が子供部屋おばさん、そのものだから。


 収入は障害年金と、サイト保守(しかもたった二つ)の仕事だけ。

(前は複数あったけれど、いろいろあって二つしか残らなかった)

 カクヨムで広告収入を月数千円もらっていた時期はとうに過ぎた。


 本当はもっとやりたいことがある。


 Kindleで本を沢山、出したいし、聴き屋だってやりたい。 

 マロンのイラストを描いて、LINEスタンプだって発売してみたい。


 でも、それらはすべて絵に描いた餅。


 一文字も書けない日々。書けないどころか、一日中布団の中にいる日々。一体、私はどうしてしまったのんだろう。原稿用紙数百枚の作品を書いていた頃の自分はどこへ消えたんだろう。


 精神科閉鎖病棟入院日記

 https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054882101528


 この作品を連載していた時は、毎日、原稿用紙七枚、書いていた。


 尊敬する村上春樹先生が一日十五枚、必ず書く、とどこかのインタビューで答えていたから。


 半人前の自分は、その半分の七枚書こうと。


 そうして、目標を掲げ、それは成功していたのに。


 いつの間に私はこうなってしまったのだろう?


 努力を怠った? 病状が悪化した? 筆力が落ちた?

 自棄になって、寝逃げしてばかりの弱虫になってしまった?


 苦しい。辛い。


 恋人も去っていった。みんな、体調がいいときの私は愛してくれるが、体調が悪い時の私は、愛してくれない。


 私にヨガを教えてくれた先生は「体調が悪い時の真世さんを愛してくれる人が、本当の運命の相手ですよ」と言ったけれど……。


 でも、そんな人はどこにもおらず、馬齢を重ねた。


 昔、といっても十年前は、夜、一人で食事をしていると、隣り合った男の人は大抵声をかけてきた。


 でも、今はそんなことはない。太ってしまったせいもあるとは思うけれど、女性的な魅力がどんどん失われていっているのを感じる。


 お化粧をする気力とかおしゃれな服装をする気力も、ほとんど残っていない。


 一線で輝き続ける、親友や友人達とも心理的な距離が開いたように思う。


 他人と比較しても仕方ないことはわかっているが、比較せずにはいられない。

 

 「生きているだけで幸せ」


 それは、「生きている」人ならば、そうだろう。でも、「生きていない」

「生ききっていない」自分はどうなのだろう。


 約一年前、私はもう自分自身を終わりにしたくて、正直、これ以上、不幸になる前に、命を投げ捨ててしまいたくて、こんな作品を書いた。


あと、一年。そう思って生きてみる

https://kakuyomu.jp/my/works/16816927861252463890


 結局、体調が悪くてほとんど更新できなかった。


 今、死にたいか、死にたくないかと聞かれたら、


 「生きられるなら、生きたい。でも、もう生きていない、死んでいないだけの状態を生きるのはうんざりなんだ」


と答える。


 でも、今の、私は、ただの、子供部屋おばさん。  


 こんなはずじゃ、なかったんだよ。


 三年。


 三年、あったら、変われるだろうか。


 今の自分が嫌いすぎる私は、三年後の自分に、祈るような気持ちで、手紙を書くことにした。


 ハロー、ハロー?


 三年後の私。


 私の声は、届きますか?


 どんなに微かでも、ノイズだらけでも、届いていますか?


 今、私は、泣いています。

 

 段ボールだらけの部屋の中で。ぽろぽろ、涙を流しながら、この文章を書いています。


 ……まった引っ越しです。家族の都合で、また。


 私に拒否する、権限も、資格も、力も、全部、ないんです。


 部屋があるだけ、有難いと、きっと誰かは言うでしょう。

 経済力がある、優しい、ご両親に守られてていいね、と、言うでしょう。


 その通りなんです。


 私は恵まれています。


 恵まれているはずなのに。


 なんで、涙がでるんでしょう。

 

 家族が嫌いなわけではありません。

 だけど、だけど――


 十六歳になった、犬のマロンがさきほどから心配するようにクッションの中から私を見上げます。


 ああ、マロン。


 私はお前と同じなのだよ――


 比喩でなく。


 そう。私は――種田山頭火の言葉を借りるなら。


 吠えるほかない犬なのです。

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