第25話 戦闘準備

 各々の装備を手にし、ゴツいサイドドアからバスへと飛び移ったレンヤとアイナは、スタタとフロントに移動する。運転席の高木と助手席の牛崎、2人のまだ揉めている声がする中、バスに乗り移ったレンヤとアイナはスタタと即座に移動する。

 アイナは助手席に近づくと、流れるように手に持っているアサルトライフルを右肩近くに振りかぶる。レンヤは助手席後ろに着くと、背負っていたバックから取り出したワイヤーを手にしていた。


「ふざけるなよ! こんなガキに何ができ――」


 ――ガン!!


 後ろから近づいたアイナが、アサルトライフルのストック先を素早く突き出していた。助手席で顔を右に向けながら喚き散らしていた牛崎の顎を、背後からストック先で強打したのだ。


 右を向いていた高木の顔が打撃音とほぼ同時に「グルン!!」と急回転し、一瞬で前向きに戻されると、糸が切れたかのように頭がガクンと倒れていた。


 人は顔横から顎を強く打たれれば、脳が揺さぶられるため気絶する。

 なので、牛崎は人形のように力が抜けた状態になっている。さらに、歯で口の中を切ったのか、開いたままの口から血を垂していた。





「…………ちょっと、やりすぎた」


「あー……苛立ちの分、力んだか?」


「ん。……ムカついたからつい」


「まぁー、うん。……こんなんで死なないし、大丈夫だろ。……俺もスッキリしたし」


「ん。…………だね」


 苦笑いしたレンヤは、パパッと手に持ったワイヤーで牛崎をシートに縛り付け、スッと切り替えたアイナは、背負っていたバックから小型の電子機器を取り出して中央の情報端末に繋げる。横で慌ただしく左横を二度して驚いている高木や、後ろで固まっている生徒たちはスルーした。







「……サユリ、いいの? 問題になるんじゃ――」


「揺れでバランスを崩したアイナの銃が、たまたま顎に入っただけです。兄さんは車が揺れたら危ないと思って、シートに固定したんでしょう。……さらに電波が悪かったせいかわかりませんが、これも偶然に、こちらの車両の外部カメラが機能していませんでしたので記録もありません。なので大丈夫ですよ」


 サユリは真顔で、スラスラと応える。ヒナコと運転しながら耳を傾けていたタクミは察す。


 タクミが運転する彼らが借りた車両にはドライブレコーダのように、画質は悪いが360°周りを見渡せる外部カメラがある。荒野に出る車両には付ける義務があるためだ。荒野のことを記録するためや、戦死したときの原因究明するなどのために義務化されている。


 それがたまたま、アイナが銃のストックを打ち出した辺りで機能が一旦、止まった。


 カメラの記録は有線で車内の情報端末に記録され、その映像記録は協会が情報保護などのために管理されている。

 したがって、カメラが故障で一時的に止まる可能性は当然に機械であるため起こりえるのだが、それでもサユリが言ったように電波云々でカメラが止まることはありえない。

 サユリが何かしたことは明らかだった。

 さらに、カメラの映像記録は協会が管理するため、カメラ操作や映像記録の改ざんはできないようになっているのだ。

 つまり、ハッキングしてカメラを止めたか、クラッキングしてデータを消したか、サユリが法的にアウトであろう方法で干渉したということになる。


「サ、サユリも、イラついていたのね……」


「……まぁ、気持ちはわかるよね」


 ヒナコとタクミはしょうがないかと苦笑いする。2人はこのことが問題にならないか少し不安になったが、問題になったとしても大したことにはならないなと納得した。


「それよりも。風香さん、モンスターは?」


「まだ大部分は確認できませんが、岩の隙間から僅かに目視できました」


 レンヤとアイナが向こうのバスに乗り移った後。自分の装備の確認を終えた風香は、ルーフのハッチから50口径の重機関銃を構えている。もともと予備で持ってきていた物で、車のルーフに短い三脚を介して無理やり設置していた。

 左右両サイドの軽機関銃と違い、そもそもが大きく、車の限られたスペースでは遠隔操作化ができなくて、装弾数も多くないが、かわりに攻撃力はこちらのほうが高くなる。

 アイナが設計した銃の中には重機関銃はなく、この機関銃は彼らが風香と出会う前に使っていた、あの機関銃だ。昔から長らく世界中の軍などで使用されていた某重機関銃を改良したものである。

 連射速度の可変性をなくす代わりに整備性と安定性を向上させ、重くなる代わりにバレルの冷却方法を水冷式に戻している。


「ありがとうございます。そろそろ岩山から一旦、開けますので風花さんの判断で銃撃を開始してください」


「はい、了解しました」


 返事後に風香はガチャリとコッキングハンドルを引く。後部から見るとローマ数字の2のような独特なグリップをサユリは脇を閉じて両手で握り、いつでも撃てるように構えた。


「兄さんとアイナはどうです?」


「ん。……配置についてる。ちょうど、構えた」


 バスのルーフ上にレンヤが右側に、アイナが左側に並んでうつ伏せでそれぞれの対物ライフルを、バイポットを使って構えている。

 バスのルーフにはレンヤ達が乗ってきていた車両同様にハッチがついていてそこから移動していた。バスと言っても、ハンター用の異界専用車両なためにルーフ上で銃撃ができるようになっていた。


「おう。あと、高木さん? に聞いてバスの情報端末とサユリの方のを繋げたで」


「ありがとうございます。……はい、確認できました。これで、こちらから指示が出せます。生徒たちは気にせずに、兄さんとアイナもモンスターが見えたら攻撃を開始してください」


「ん……」


「りょ」


 レンヤとアイナが構えているのは背負っていたアイナが設計した新しい対物ライフルだ。アイナは救助依頼前の討伐ですでに使っていたが、レンヤは訓練では沢山撃ってはいるものの実践での使用は初めてである。

 レンヤも本来は先の討伐で使用するつもりだったが興奮していたために使うまでもなく倒してしまったため、ある意味いい機会であった。


 2人は並んで銃を構えているが、あくまでメインはアイナで、レンヤは観測や援護を主に行うサブである。

 どちらも銃を持っているのだから、気にせずにそれぞれが目についたモンスターを撃つのもありだ。だが、今回は重機関銃による風香の援護もあるので、合理性のためアイナよりも腕が劣るレンヤが、アイナの観測手と援護の役割を、自然とこういった形となった。

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