第24話 救助することに

 異界の悪路を、足を取られてスリップしない限界の速さで大型車両が走っている。

 ところどころの柱状の岩山やボロボロのビルやいえなどの遮蔽物があり、モンスターとバスはまだ目視できていないが、あと少しのところまで接近していた。


 サユリはハンター協会からバスの通信先を聞いて、繋げる。焦っていながらも、あまり表に出さずに冷静な声が返ってきた。


 通信先の者は学生達の引率者で、2人いる内の年齢が上の方である40代の男性だ。苗字を高木といい、運転席からセンターに置かれた情報端末に繋がっている。

 もう片方の引率者は三十路になったばかりの牛崎という男性だ。恐怖と不安からあからさまに焦りがうかがえる様子で助手席に座っていた。


「あと、数分でそちらに追いつきます。が、その前に注意事項として、……そちら皆さんには私の指示に全面的に従ってもらいます。質問や文句は聞きつけません。もし、勝手な行動や指示の無視があるようでしたら見捨てますので、その場合は。……いいですね?」


「なっ?! ……何いってんだ!?」


「……あ、あぁ、了解した」


「では、構えている銃を引っ込めて補充やらの備えをしてください。終わっても指示があるまでは攻撃しないように。それから、すべての装備を教えてもらいます。車は送りました行き先に向かってください」


「わかった」


 通信先の男性の高木は、自分よりもサユリの方が若いことは声質からでも分かったであろうが、それでも指示を了承する。


 それは、ハンター協会が要請したからということや、レンヤ達のハンターランクの高さ、そして早見から6人の評価を聞いていたからだ。そして何より、その引率者の男性がハンターを理解しているベテランだからということもある。


「ふざけるな!! なんで子供なんだ!? もっとマシなハンターを―」


「いいから黙れ!!」


 逆に、助手席に座る牛崎は、攻撃を止める指示に叫び反対し喚く。助けられる側でありながら文句を言うばかりで、高木に強く怒鳴られていた。


「やっぱ、文句を言うやつがいるか。……まさか教師とは思わなかったが」


「……ですね。ですが、早見さんに私達の簡単な情報を送っていただき、高木さんって方が使う側の端末の通信先を教えてもらえましたので。まぁ、なんとかなりそうで良かったです」


 一番騒いでいるのは助手席の牛崎だ。だが、後ろで通信が聞こえていた生徒たちも小さい声で不安さを表している。

 けれど、牛崎と違いって高木が指示を聞いて自分たちに指示しているからと、言う通りに行動する。


「……騒いでいるのは牛崎先生って教師です。コネで教員についた人で、生徒からの評判は悪かったですよ。……私も、傲慢さが隠せていなく、好き勝手に怒鳴るだけでしたので嫌いでした」


 レンヤが苦笑いしているのを背に、サユリがため息のようにふぅと息を吹き、風香が高専に通っていた頃を思い出す。

 レンヤと風香は自分の装備の補充と点検を行いながら、サユリの通信に聞き耳を立てていた。


「そうなのね。でも、北原さんが理事しているのに、良く放っておいたわね」


「北原さんが理事になったのはさいきんだからじゃない? それに教職だから簡単にクビにはできないんだと思う」


 本人の代わりに、アイナの新しい対物ライフルのバレルとハンドガードを変え、弾をホルダーに補充したりしている、ヒナコが会話に入る。バレルとハンドガードは超遠距離用の長い方へと変えている。

 そのヒナコの疑問に答えたタクミは、変わらずサユリの指示する通りに運転していた。

 アイナはヒナコが遠隔で操作していた機関銃2丁のバレルの変更と弾の補給を車のルーフ上で行っている。ヒナコでは走る車の上での作業はきついためだ。


 レンヤ達5人の恩人の1人である北原は、能力が高くて行動力があることを彼らは知っている。そのイメージからのヒナコの疑問だったが、それはタクミの予想通りであった。北原も牛崎に注意していたのだ。


 そもそもサユリが言葉強く異論や疑問を受け付けないと言ったのは、そんな暇はなく、少しでも早く行動してもらって生存確率を上げるためだ。

 また、銃撃を止めさせたのは、撃っていてもモンスターに当たっていないのかほとんど効果が出ていないことがアイナの感知でわかっているからである。

 当然、そのように理由があるのだが、牛崎は文句を言うばかりでその理由があることを考えようとしていない。


 ただ、良くも悪くもその姿が反面教師となり、ベテラン引率者の男性に強い口調で言われているのを見て、バスに乗る生徒達は素直に指示に従っていた。


 レンヤと風化が自分の装備の準備を終え、ヒナコがアイナのを終える。そして、アイナが車に備え付けられた機関銃を終えて、車内に戻ってきて少し。

 レンヤ達が乗る大型車両は幅広の岩壁で遮られていたところを抜けて、救援依頼をしてきたバスの後ろに出る。


「そちらのバスをこちらで視認しました。2人がそちらのバスに乗り移ります。速度とハンドルを維持したまま、右横のドアを開けてください」


 レンヤ達が乗る車両と同様にバスも大型だが、レンヤ達のよりも一回り大きい。

 そのバスのすぐ間近に近づいたことで、バスの中が何となく見えるようになった。


「な!? まだガキじゃないか!! ふざけるな!!」


「いいから黙れ!! 教師のくせに恥ずかしくないのか!!」


 そのタイミングで、予めサユリから聞いていたレンヤとアイナが、立ちあがる。移動しない風香は座ったまま待機している。


「なんか、揉めてるな」


「はい。……どうやら若手の引率者が私達を見て、子供だったてことで騒いでるみたいです」


「…………見捨てる?」


 サユリの近くに立っていたレンヤとアイナが、サユリの左右に移動して通信を一緒に聞いていた。


「あー、いえ。あの人だけですからね。それだけで見捨てるのは忍びありませんし、もう片方の方が頑張ってますので。まだ耐えましょう」


「ん。…………あ、話がわかる方の、バス運転できる?」


「高木さんですか? えっと、聞いてみますね。………………はい、可能のようです」


「ん。……なら大丈夫。任せて」


「え、えぇ。お願いしますね」


「ん。……レンヤ」


「おう」


 ようやく開いたバスのドアから、ルーフのハッチから外に出たレンヤとアイナが飛び移る。

 アイナとレンヤの背にはアイナが設計したそれぞれの対物ライフルを背負い、さらにアイナはアサルトライフルを、レンヤはブレードを、手に持っているた。

 牛崎だと急にハンドルきられるかもしれないため、運転席に座っているのが高木であってよかったと2人は思った。



 この時、感知した当初は1キロ程先にいたモンスターは、既にアイナの感知から500メートル先まで迫っている。レンヤがモンスターに気がついてから十数分で500メートルも縮められていたのだった。

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