第23話 裏

 まだレンヤ達が新銃で使った経費を少しでも補填しようとモンスターを狩りまくっていた頃である。


 彼らから2キロメートル程離れたところには、凸凹で入り組んだ岩山があった。

 その岩山の中らへんの周りから隠れた絶壁と呼べる斜面に、白や赤や黄色などで鮮やかな色をしたお寺のようなものが数々の柱によって支えられ、へばり付くように建っている。そして、その下には守るように鬼の像が柱たちの周りを埋め尽くすように雑多に置かれていた。

 その建物は、手前に柵のない縁側があり、その奥にすだれの掛かったそこそこの部屋があって、大きな屋根が全体を覆っている。新築のような綺麗さと鮮やかさで絶壁に立つそれは、荒れている異界にはそぐわない。そんな鮮やかな見た目にも関わらず見る者にはどこか怖さを覚えさせていた。


「あれか」


「そうだ。まだ協会には発見されていないから、ピッタリだな」


「あぁ。それに、エネルギー量も丁度いい。……高い質のが取れそうだ」


 その建物を岩山の影から顔を出して覗き込む男が3人。どこにでもあるようなパッとしない黒い防護服を着込んでいる。

 3人の内、2人は一般的なアサルトライフルを1丁ずつ持ち、1人は一般的な機関銃を持っている。アサルトライフルを持っている2人は大きめの情報端末とグレネードランチャーをそれぞれ持っており、機関銃を持っている1人の背にはハードシェルのバックパックを背負っている。銃や服装がパットしない一般的な物なのにどこか装備が尖っていて、ちぐはぐさがあった。


 極めつけは彼ら3人の後ろに立ったまま動かない暗いカーキ色のローブを着込んだ5体の存在だ。

 背が丸まって極端な猫背で、体格に差がなく、フードを被り体全体をローブで隠しているため性別や年齢は一切伺えず、銃などの武器も所持している様子がない。モンスターに襲われるかもしれない異界で、そもそも戦うために来るところなのに、5体の格好は異質も異質で、周りに彼らを見た者がいたら迷わずハンター協会に報告したことだろう。


「今回は誰に向けるんだ?」


「ここから1キロ先ににガキ達がいる。そいつ等を襲わせれば、上級ハンターが出てくるだろうからな」


「ガキって、大丈夫か? ガキが死のうが知ったこっちゃないが、死んだら救助も来ないだろう? 簡単に死なれたら調査でばれる恐れがないか?」


 ハンターが異界で死んだ場合、ハンター協会はその理由を簡単にだが調べる。それは、依頼のランクが間違っていたのか、把握していなかったモンスターによるものなのか、はたまた人間によるものなのか、その原因に対して対処する必要がるためだ。

 日本の警察が行う死因の調査とは比べれば劣るが、それでもハンターの数を減らさないために行っているためバカにはできない。


「大丈夫だ。ガキだが高専の優等生だ、時間稼ぎぐらいの実力はあるだろう。それにガキなら、勘繰られて露見する危険が低くなる。……ガキが、社会の汚さを、異界の裏を知るはずがないからな」


「なるほど。……すぐ始めるのか?」


「あぁ。ガキ達の討伐はもうすぐ終わるだろうからな」


「なら、すぐ始めよう」


 3人は岩山の影から出していた顔を戻し、情報端末を持っている1人はそれを操作し始め、グレネードランチャーを持っている方はそれを建物に向けて、ハードシェルのバックパックを持っている者はそれを降ろして中を漁り始める。


 情報端末を持つ男がキーボードらしきものを、チラチラとローブを着た5体を見ながら打ち込むこと少し。タンッとエンターを押したであろう音を鳴らせた瞬間、今まで全く動かなかったローブを着ている5体がビクッと電気が流れたように体を震わせた。

 それを待っていたグレネードランチャーを構えていた1人が、すぐさま鮮やかで異様なお寺のような建物に向かってグレネードランチャーを即座に撃つ。


 ポンッと鳴ってから少しの間の後にドゴンッ!と建物に着弾した弾が岩山を僅かに震わせる、土煙と一緒に白黒い煙がまう。


 その音に、反応したローブを着た5体。

 5体はグレネードが着弾した建物の方向に瞬時に顔を向けて言葉ではない叫びを体を震わせながら発す。

 その音は大きくない。かすれ、詰まっているような声だ。だが、その体を震わせながら無理矢理出している様子で音が大きくないのに迫力がある。


「喉を潰されてんのに、どこから出してんのか」


「うるさくねぇし、好きなだけ叫ばしてやるさ」


 声にならない叫び声をあげた5体のローブの顔を隠していたフードが後ろに垂れて、顔が露わになる。


「相変わらずキモいな」


 ありふれた宇宙人の顔だ。

 肌は毛穴がなくビニールのようにしわくちゃで、髪はなく、鼻は潰れ、上唇と下唇の皮膚が所々でくっついていて、口を無理に開けているためくっついている皮膚が破けそうになっている。

 誰もが気味悪がる見た目、世間一般ではモンスターと呼ばれる姿だった。


「そう言ってやんな。金のなる木だ」


「あぁ。どうせ後、数分で見なくてすむ」


 1分ぐらいか、5体のモンスターは叫ぶのをやめ、建物の方に前のめりに手をつく。


「さっさと行けよ」


 そう言われたからなのか分からないが、5体が一斉に岩陰から飛び出す。5体は四つん這いで岩山をすごい勢いで走り、煙で隠れた絶壁の鮮やかだった建物に向かって行った。

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