第20話 射撃場へ向う車の中で

 6つのゴツいアタッシュケースには、いわゆる長物と呼ばれるストックのある銃が5丁、ストックがないピストン型の銃が3丁の、合計8丁の銃があった。長物は1つのケースに1つずつ、ピストンは1つに纏められている。

 それら銃のスライドやらトリガーやらセレクターやらを、タクミとアイナが一つ一つパパっとイジって簡単な動作確認を行った後。簡単な説明を聞いて要件を済ませた4人は、アタッシュケースを受け取って、車でハンター専用の射撃場に向かっていた。


「意外とすぐだったな」


「ん。……何か書類とか、書かされると思った」


「基本的に製造責任はあちら側にあるからね。こっちは購入者のような立場になるから、所持登録だけで済んだんだよ」


「その所持登録も、サユリとタクミのおかげもあって終わってますから。すぐに射撃訓練ができるのは面倒がなくていいですね」


 ハンターが使うような、攻撃的な銃は協会に製品登録する必要がある。

 それは輸入品だろうが国内生産品だろうが変わらない。耐久性やセフティー、落とした等による暴発の有無などの安全性から、攻撃性能による武器の脅威度による所持条件のランク数の設定などが必要なのだ。車で言うところの国土交通省への市販車登録のようなものである。

 それは沢山の書類とテストによって行われるもので、当然にとても面倒な作業で、工場側が行ってくれたため、関わったアイナもタクミも大助かりであった。


「だね。むしろ持ってきてもらうのが一番時間かかったかもね」


「いや、そこまで時間かかってはなかったぞ」


「ん。……外で待ってた」


「私達が話していたから、終わるまで待っててくれたみたいでした。……話に夢中で気がつくのが遅れましたが」


「俺も」


「ん」


 非戦闘時で、怪しい動きなどがなければいくらハンターでも気が付かないものである。


「そうだったんだ、それはありがたかったね。流石、社会人」


「ん。……こっちは子供なのに、敬語だったし」


「だな」


「いいところでした」


 話し合いやらの対応をしていたタクミはよく知っていたが、今回初めて顔合わせした3人も工場に好印象を抱く。今後修理など、工場にたよることがあればあそこに頼もうと思っていた。


「それにしても、所持条件のランクも大丈夫でよかったな」


「ん。……よかった」


「まさか、私のまで作ってくれていたとは思いませんでした。……ランクアップしていなかったら危なかったです」


 8丁の銃はレンヤ用、アイナ用、風香用にとアイナが設計するようにお願いしたものだ。なので最近加わった風香にも、風香のために作られた銃がある。

 それは根本から新しく設計した物ではないが、既に存在している製品を元に、風香に合わせてアイナが設計を直して作った物だ。

 それはレンヤやアイナのに引けを取らない。むしろオールラウンダーの風香にとっても操作や感覚がまるっきり新しくなる、ということがないため好都合となった。

 ただ、2人の銃に引けを取らないということはつまり。2人と違いバリバリに活動できないために劣っていた風香のハンターランクである44のままでは、横にあるアタッシュケースに入った風香用の新銃は、まだ所持ができなくなっていたということである。

 それを工場で確認した風香は、表には出していなかったが内心ドキッとし、安堵していた。


「あぁ、なんかサユリが早見さんに風香さんがランクアップできるように、ランク優先の討伐内容にするようお願いしていたみたいだよ。アイナが改良した設計の時点で、ランクが足りないってわかったからね」


「どおりで、ここ2週間ほどの討伐の難易度が高かったわけですか」


「余裕があったから上がったわけではなかったんだな」


「ん。……ふう姉のおかげで、すごく楽になったからだと」


「役に立てて良かったです」


 確かに、2週間ほど前から3人に早見から紹介される難易度が上がっていることは依頼を決める際にわかっていた。

 その難易度は、3人が受けていた討伐内容は3人のランク帯の場合、本来なら5人はほしい程度には難しい内容だ。特に貧相なレンヤとアイナの装備ではより難易度が上がる内容である。

 しかし、前衛と後衛に遊撃手とバランスが取れ、3人とも能力がランクに合わないほど高く、何より息ぴったりなため、危なげなくこなせていた。

 そのため、学校と他のクランでの経験があった風香と違い、ないレンヤとアイナにはこれぐらいが普通だと思い、高いとは微塵も思っていなかった。


「ですが、費用は本当に出さなくていいのですか? やはりとても申し訳ないのですが」


「大丈夫、大丈夫。ハンターの報酬の一部を資金源として一部抜いてたでしょ? あそこからも出してるからね」


「ですが、それはみんなの分ですし……」


「気にしなくていいですよ。風香さんが加わったことへの僕達からのプレゼントでもあるんだから」


 まさか自分の分まであると思っていなかった風香は、自分の分の資金を出してもらってたことを気にするが、プレゼントと言われてしまえば払うわけにはいかず、いたたまれなくなりながらも感謝した。


「……わかりました。ありがとうございます」


「いいのいいの! それよりも。3人のランクはいくつになったの?」


「あ、はい。そうですね……」


 風香がスマホを操作し、協会のホームページのレンヤ達のクランページを開く。

 レンヤとアイナも以前のランク数の確認で知った通りにページを開こうとするが、パスワードを思い出せずに面倒くさくなり諦める。クランに所属している者同士なら確認できる。


「レンヤが56、アイナが53、私が51です」


 アイナが2で風香が5のランクアップし、レンヤは変動なし。


 ハンターランクは50以降から上がりづらくなるためアイナとレンヤの変動は低くなる。加えてレンヤは、以前では囮としてのの負担が大きい中で問題なく戦えていたことから評価されアイナよりもランク数が高かったが、風香が加わったことでレンヤの負担が軽減したため、ランクアップには至らなかった。


「おぉ。これで3人共、上級ハンターですね」


「まぁ、既に実力は上級ハンターだったけどね。」


「ん。……むしろ、わたし達の装備のが問題」


「た、たしかに。2人の装備は、新人ハンターみたいですからね。でも、融資制度に頼らずに自分たちのお金で買っているので、十分すごいことですです」


「まぁ、そもそ2人では借りられないんだけどね」


 融資制度とは国からお金を低利子で借りることができるハンター融資制度のことだ。ハンター専門の学校で最低3年学び、技術があることを証明する必要がある。

 なので、学校に行っていない2人は当然、借りることができない。

 そんな制度を知らない2人は「そんなものがあるんだー」とへーって顔をする。


「ですが、この中のお陰でさらに討伐がやりやすくなりますね」


「だな」


「ん。……期待してて」


 それから少しすると、目的地の射撃場に到着する。


 タクミは3人と6つのアタッシュケースをおろした後、買い物に出かけ、3人は工場の人に言われた通りに新品の銃、バレルのための慣らしを始める。

 付属の専用弾によバレルの慣らしを終え、すぐに射撃練習に入り、撃ちまくる。

 買い物を終えて一旦家に帰り少し休憩してから迎えにタクミが来てもまだ、3人は打ち続けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る