第19話 アイナが設計

 工場端のドアから入ってすぐの事務室を抜け、細道を通た先の部屋に、レンヤとアイナとタクミと風香の4人は通される。

 そこは客室、客間とはちょっと違い、置物や飾りがない実用性を重視した殺風景な部屋であった。部屋の中心には腰ほどの高さの大きく頑丈そうな机が置かれ、入って右手側には横広の窓を隠すためであろう白のブラインドが降り、左手側には大きなスクリーンが固定され、天井にはプロジェクター、奥の壁にはパイプ椅子が4,5脚立て掛けられた横に扉がある。会議のためにあるであろうとわかる部屋であった。


「お持ちしますので、少しお待ち下さい」


「はい、よろしくお願いします」


 工場の作業服を着たそこそこお偉そう40代と思われるおじさんが、タクミの返事の後に部屋から抜ける。

 そのドアの閉める音の後、ワンテンポを刻むように静粛が生まれ、次にくるテンポに合わせるようにレンヤが静粛を破る。


「んで、……いつから?」


「ん。……引っ越しのちょっと前」


「あぁ。確かにアイナ、変なテンションでパソコンをイジってたな。……で、製造はタクミ?」


 変なテンションと言われてムッとするアイナ。


「うん、この工場にお願いしたんだ。僕が説明やら製造のあれこれについて話し合っってね。……結構無茶を言ったんだけど、さすが本業って感じのすごい技術力だったよ」


「へー、それはありがたいな。でも、よく相手にしてくれたな」


「ん、サユリが見つけた。……見つけるの大変だったて」


「普通は相手にしてくれないもんなー」


 ところどころを端折って話す3人。

 呆れるように慣れた様子で話すレンヤは、既にまでの経緯をほぼ理解できていた。


「どういうことですか?」


 ただ、レンヤと違い、付き合いがまだ短い風香にはよくわかっていなく、風香は疑問の顔を浮かべる。


「あぁー、んとね、ざっくり言うと。……アイナが設計した銃をこの工場で製造をお願いして、完成したから呼ばれたってわけ」


「……え? ……えっと、いろいろ気になりますが……まず、設計って?」


「新しい銃の設計。……自分で考えたのをCAD使って設計した」


「設計って……銃を? 簡単にできるものではないと思いますが」


「まぁ、ね。……CADでモデルを作って、サユリが組んだ物理演算プログラム、で、……モデルに材料を当てはめて、耐久性とか歪みとか、いろいろと確認があるから。……マジ、面倒」


「違うよね? その確認の作業は僕がやったんだよ!? アイナはCADで形作ったとこまでだからね!」


「ん。……だからそこまで大変じゃない。……面倒なのはタクミがやってくれた」


「いや、そもそも設計が難しいからね」


 なんてことないという感じで答えるアイナにレンヤは正論を返す。

 アイナを銃のエキスパートと聞いていた風香は射撃の腕と扱いが長けていると思っていたが、そこに設計までも加わるのかと小さく驚いていた。


 銃の設計には様々なことを考慮しなくてはならない。セフティーやセレクター、マガジンリリース等の操作箇所が扱いやすい位置にあるか、トリガーの重さや長さキレ、本体の大きさや重さに重心の位置、発泡時の圧力に耐えられ、落とした際に撃針を簡単に落とさにような構造にし、そして信頼性のために構造を簡略化して動作不良の確率を極力減らすようにしなくてはいけなく、さらにオートマティックならブローバックのタイミングを計算し、弾薬が装填された際の閉鎖がしっかりされようにするなど、上げるとキリがない。

 つまりは銃について詳しく知っていなくてはいけなく、さらに既存の銃よりもどこかしらで超える性能を持つ必要があり、それだけ新しい銃を生み出すのは難しいのだ。


「アイナは扱いだけでなく、設計までもできるのですか……流石ですね」


「ふふん。……どやー」


 アイナは無表情でドヤる。


「ですが、なるほど。だから工場が対応してくれたことに感謝しているのですね」


「ん。……まさか作ってもらえるとは思わなかった」


 高校生が自分で考えた商品を工場に発注するっと言えば聞こえがいいが、その商品が殺しのための道具となれば話が変わる。

 そもそもつい数十年前まで銃の所持に厳しかった日本では銃火器の工場は少なく、製造には国家資格が必要で海外と比べてまだまだ厳しいのだ。

 だから、まだ子供と呼ぶに値する少年少女が銃を設計したから作ってくれと言われても、わざわざ危険な橋を渡るメリットなどなく、工場側が渋るのは当たり前である。

 そんなことはアイナ達もわかっているため、サユリが製造してくれる工場を見つけなければアイナの設計は趣味で終わっていた。だから引っ越しのちょっと前、パソコンをいじってたアイナのテンションがおかしかったのである。


「それは幸運でしたね。…………ところで、アイナが設計までできるなら、レンヤも戦闘以外でまだ何かしらの特技があるのですか?」


「へっ? い、いやー…………」


 ですよねっと納得した風香の視線にレンヤが写り、風香は思い立った疑問そにままレンヤに問いかける。

 風香はアイナがが射撃の腕以外に設計までできるのだと初めて知ったた。なら、戦闘が得意なこと以外知らないレンヤにもまだ何かしらの特技があるかもしれないと思った風香の純粋な疑問だ。

 風香に馬鹿にする気など一切ないことを理解しているレンヤは、逆に返答に困る。

 その結果、風香の視線から逃れるように、何かしらを探すようにレンヤは視線を泳がし、くっ! っと悔しがことしかできなかった。


「ふふっ。……脳筋レンヤには設計とかは無理」


「うんうん。射撃や車、バイクの運転も、アイナや僕が教えたもんねー。だからレンヤは戦闘能力特化って解釈で合ってるよ。クス」


 アイナとタクミは薄ら笑いをこぼしながらレンヤの代わりに答える。


 レンヤは、んぐっ! とより悔しさと恥ずかしさを見せる。その近くにいるサユリは、自分の聞き方に問題があったものの、レンヤのためにも謝るわけにいかず、えっとーっと困っている。その脇では薄ら笑いをこぼす2人がいて、部屋は変な空気になるり、話が一段落付いた。


 すると、その空気を破るようにトントンと扉がノックされタクミがはいと返事を返すと、大人3人が大きく頑丈そうなアタッシュケースを2つずつ持って入ってくる。


「おまたせしました。こちらが完成品になります」


 部屋真ん中の大きな机にケースが置かれ、カチャッとガキが解除、開かれた。

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