第9話 戦います

 柱状で様々な高さや幅を持つ岩山がいくつも並び、深く広がる黄土色に染まった荒野。草木が全く生えていない固まった大地と岩山は栄養を感じさせない。所々に崩れたコンクリートの破片が黄土色にアクセントをもたせてはいるが、それでも空虚感をもたせるだけで、遠出に見える廃れたビル群も相まって、崩壊した世界のような雰囲気を持たせていた。




「そろそろか?」


「ん。……もうすぐ」


 黄土色の硬い地面を、グレーで無骨な悪路走破性の高いAWDで軽装甲な中型車両が、レンヤを右の運転席に、アイナを左の助手席に乗せて走っていた。

 二人の間にはレンヤ用の鞘に替刃と一緒で納められているブレードと、アイナ用のグレネードランチャーがある。



 軽装甲で運動性を優先させた車の後ろにはシートはなく、縮められた銃座には12.7ミリの小型機関銃が正面を守る盾と一緒に備え付けられ、銃座の足付近には基本的な電子デバイスが装備されている。

 機関銃に備わっている盾の裏側には、見るからに頑丈そうな小さい液晶画面が取り付けられていて、下のデバイスと連動する近代的なものだ。


「見えた。……あれ」


「……あぁ、あれだな」


 モンスターの気配み感じ取った二人は、ハンター基準の肉眼でぎりぎり、モンスターが見えるぐらいの位置に車を止めて、交互に双眼鏡で確認する。


 車にはモンスターの生命石を元に探知する探知機器が備え付けられているが、二人はそれがなくても気配で遠くにいるモンスターを感じ取ることができる。

 これは異界で戦うハンターが獲得する第六感のような能力だ。ある程度のハンターなら持っている人外れた技能である。


「……きもちわるい」


「あぁ、キモいな」


 モンスターは一般的な人型である。

 カピカピでシワだらけの硬そうな皮膚に、歪んだ骨格、本来目があるところには眼球がなく空洞になって、唇は縮みきって欠けた歯がむき出し。

 映画などで見るような体液撒き散らすゾンビとは違い、ミイラのようで、グロさは少ないが気持ち悪さが際立つモンスターである。

 その数は80体程。


 モンスターの7割ほどは人型であり、このモンスターもその中の1種である。名前はない。

 モンスターの種類はかなり多く、種類の細分化が難しいため、特別に強かったりする個体を除き名前はつけられない。


「……じゃ、始めるか」


「ん」


 助手席に座るアイナはレンヤとの間においていたグレネードランチャーを持ち、シート背面を思いっきり倒して、その勢いのまま後転して後ろに移動する。

 そして、縮められた銃座を上に押し伸ばすことで、両開きのドアのようにルーフが連動して押し開き、アイナはグレランを銃座にかけ、画面付き盾を纏った機関銃と一緒に外に出た。


「よしょ。…………ロックアンロール!」


 アイナは叫びながらガッチャンと大きくコッキングレバーを引く。


「ファイヤー!!」


 それに続くように、レンヤが叫んでアクセルを踏み込み、それに合わせて、縦に2列で並列する独特な機関銃のグリップを片方づつ握りしめていたアイナが、両親指前のこれまた独特なトリガーを押し込んだ。

 二人は久しぶりのハンター活動で、少しテンションが高かった。






 車のエンジンが高鳴り加速し、そのエンジン音をかき消すかのような発砲音が連続する。

 機関銃はレートが遅めのものをあえて使用し、アイナはそのレートに合わせて次々と正確にモンスターを撃ち抜く。

 それは一瞬のことで、モンスターが2人の存在に気がつく前に、アイナは6体を瞬時に屠っていた。

 ようやく気がついたモンスターは、先程までの穏やかさが嘘であったかのように、憎悪を向けながら全力で2人に向かって走りだす。


「いくで!!」


「……ん!」


 二人も車で向かっていた分、すぐにモンスターに接近しした。

 レンヤは合図してすぐ右に方向へハンドルをきると同時にサイドブレーキを瞬時に引き即座に戻して、小さくドリフトをして急ターンしてモンスターを引き付けて、アイナはそれ日合わせて機関銃ごと左に回転しながら撃ち続ける。

 モンスターは人を見つけると、人への恨みがあるように憎悪の念で襲いかかる。

 その習性上、二人の車を追いかけて引き付けられ、モンスターが纏まっていき。先回りされづらく状況ができて、そのまま平坦で広く開けた場所へと移動する。


「そろそろ行くか。……自動運転に変更したで!」


 凹凸の少ない広場に出るとレンヤはハンドル左横の大きなデバイスを操作して車を自動運転に変更して、立ち上がる。

 自動運転では目の前の岩山や建物、モンスターなどの障害物を大きく避けたり、大まかに設定したところを通らせたり、横転を防いだりといった基本的な制御しかできなく、銃撃に最適なところへの位置取りやモンスターの引き付けを運転でコントロールしたりといったことはできないため、レンヤが運転していたときよりも雑になってしまう。高級品ならもっと対応力が高いが、いかんせん借り物ではこの程度だ。

 ただ、アイナがいる銃座の足周り、アイナの腰付近にあるデバイスから大雑把な指示が自動運転へ出せるようになっているため、それを用いれば対応ができる。


「……確認! 左回りで」


 レンヤが自動運転に変更したことを、アイナは機関銃に備わっている盾の裏側の小さな画面から確認する。

 アイナが言った「左回り」というのは、モンスターの集団を中心に上から見て反時計回りで走らせると言う意味である。


「了! ……久しぶりだからって当てるなよ!!」


「当然。……レンヤも油断して怪我しないように」


「おう!!」


 自動運転に変更して立ち上がり、左横に外しておいていた自分のブレードを左腰につけ、右前腰には元から身に着けていた、ハンドガンのようにグリップにマガジンを挿すタイプのPDW(小口径で先が尖った銃弾を用いるサブマシンガンのような銃器の一種)を装備したレンヤは、右ドアを開けて、しっかり走っている車から飛び出したのだった。

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