第10話 ハンター活動

 遠くに岩山が並んで見える、黄土色に染まった平坦な地面が広々と開けた荒野の一所。


 連続かつ爆音な銃撃音を響かせながら爆走する車と、撃たれようがなりふり構わず全力疾走するカピカピゾンビのモンスター。

 そのモンスターが車を追いかけることで纏まり始めた頃。

 車の右ドアから左腰に替刃と一緒のブレードを身に着けたレンヤが、まだ走る車から飛び降りたのだった。

 右前腰にはハンドガンのようにグリップにマガジンを挿すタイプのPDW(小口径で先が尖った銃弾を用いるサブマシンガンのような銃器の一種)を装備している。




 飛び出したレンヤは両足でザザザーっと滑って慣性をいなしながら、ブレードを抜いて着地する。

 そのときには、アイナが機関銃の銃座付近にあるデバスを操作して、自動運転に左に行くように指示を出して曲っていた。


「……行ってら!」


「行ってくる!」


 レンヤが飛び出して、モンスターの標的が2つに増えたことで、レンヤの近くにいたモンスターがレンヤに標的を変える。

 その数は、アイナが左に方向転換しながら機関銃をちまくっているおかげで3分の1程度ですんでいる。

 それでも20体以上がレンヤに狭って来ていた。


「じゃま」


 着地したときには直近まで来ていたモンスター3体の首を、レンヤは右手に持つブレードの一振りで斬りつけて飛ばす。


 見た目がゾンビで、首を切られた程度では倒せないように見えるが、基本的にモンスターは頭部や胸部付近に大きなダメージを与えれば倒すことはできる。これは生命石がモンスターにとって心臓のようなもので、そこを攻撃されると生命石のエネルギー流通が途絶えるためと言われている。


 レンヤは当然それをわかっているので、切りやすい首を切りつけてチョンパしたのだ。

 人間が相手ならわざわざ首を飛ばす必要はないのだが、生命力が高いモンスター相手だと確実性を高めるため仕方がない。

 一回の戦闘で替刃が数枚必要になるのはこういった理由がるのだ。



 そうやって一瞬で3体を倒したレンヤは、すかさず右前腰に身に着けていたPDWを、空いている左手で抜いてフルオートで撃って迫ってくるモンスターを牽制する。


 PDWは、弾頭が丸く太い拳銃弾を用いるサブマシンガンとは違い、尖ったスピッツァーと呼ばれる形状の細い軽い弾丸をしようする。

 そのため、近い形状であるサブマシンガンと違い、弾速が早く、反動が小さく、貫通力が高いというメリットがある反面、他よりも圧倒的に殺傷力が低いという欠点があって、ハンターにはあまり使われない。

 防御力の高いモンスターを相手取る場合でも、弾頭が同じスピッツァーでPDWよりも口径が大きいアサルトライフル系統のほうが高い威力を出せるため、貫通力が高いというメリットがるPDWの優位性はほとんどなくなるためだ。


 しかし、刃物を主武器にするレンヤの場合、アサルトライフルよりもPDWの方が優位性が高くなる。

 というのも片手で使用することが前提としてあるためである。


 弾丸が小さいためマガジンも小さくできるためコンパクトになり、軽いため反動が小さく弾速が早なって、弾頭が尖っているため防御力が高くても攻撃が通る、と言うためだ。

 殺傷力が低いという点も刃物でとどめを刺せばいいので気にする必要はない。

 あくまで目的が傷つけ、牽制し、弱らせらるこなので十分。


「ハハッ!!」


 実際にレンヤは銃弾をばら撒くように撃ちながら次々とモンスターを、楽しそうに笑いながら切りつけていた。


 倒したモンスターの死骸が邪魔にならないように、ブレードを振りやすい位置に移動しながら倒していく光景は、草刈り機が雑草を刈るかのようで、モンスターがレンヤの間合いに入ったとたん倒れていく。

 周りにごった返すモンスターをものともせずに次々と屠るレンヤの戦闘能力は誰が見ても高いことがわかり、十分な上位ハンターと言える。


 ただ、その戦闘能力に加え、笑いながら楽しそうにブレードを振るレンヤは、上位ハンターというよりも戦闘狂の方が似合っていた。





 一方のアイナはレンヤ中心に、その周りを左回りで移動しながら機関銃を連射して、薬莢をばら撒く。

 遅めの連射速度に合わせ、リコイル制御を完璧に機関銃を操作し、使用した弾薬数とほとんど同じ数のモンスターを次々と倒し。機関銃のバレルが熱くなりすぎないように、近くまで来過ぎたモンスターを一気に屠るために、助手席から持ってきた6発装填できるグレランを時々に撃つ。

 レンヤのアグレッシブさとは対象的に、危なげなくただ当たり前のように処理する姿は、アイナの腕が異常に優れている証明のようで、レンヤ同様にアイナも上位ハンターである証明のようであった。


 レンヤが車から降りたことで、そこにモンスターが集まり、その周りをアイナが乗る車が走ることでレンヤにモンスターが集まりすぎないようにする。

 このお陰で、モンスターを一箇所に集めて行動を限定させることができ、車から二人で攻撃するよりも別々の場所で攻撃ができるため討伐速度が速くなる。

 二人がよく使う、モンスターの特性を利用した作戦である。




 レンヤが2本目の替刃を装着したブレードで近づいてきたモンスターを草刈り機が如く切り刻み、乱射させているPDWを2回リロードし、アイナが機関銃を連射する合間に撃っていたグレランを6発程撃ち込み、機関銃のベルト給弾用の弾帯が残り半分になった頃。モンスターの残りが3,40体になった。

 そうなると機関銃では効率と容易さが落ちるため、アイナは一旦銃座を縮めて機関銃をルーフから下げ、ボストンバッグの中にあるボルトアクション式の対物ライフルを取り出し、ルーフの上で構えて狙撃に変える。

 一方、真ん中にいるレンヤも、数が減ったことでPDWを腰に戻し、ブレードのみに専念する。

 ブレードに専念できるため、レンヤの速度が更に速くなる。


「あざす!!」


「……後ろは任せろ」


 レンヤの後ろに回ってきていた邪魔な2体をアイナは、カチャンっとボルトを即座に引いてリロードすることで連続で倒す。

 ライフルに変更したことでアイナはレンヤ近くを狙えるようになり、ますますその腕の高さを証明する。

 両手でブレードを振るえるようになっただけでなく、前に集中できるようにもなったレンヤはますます速くなる。



 正確な狙撃と豪快な斬撃により、戦闘開始から1時間ちょっとで、80体ほどもいたモンスターを倒し、2人は戦闘を終わらせたのだった。







「終わった!!」


「おつー」


ハンター協会に連絡し、運転席に移動したアイナがレンヤを回収して帰路につく。


モンスターの生命石といった素材の回収はハンター協会が所有する無人機、異界側のゲートに建てられた拠点からお掃除ロボより少し高度な程度のAIが操作する無人機、が行うため場所の情報と一緒に討伐報告をすればあとは放置でいい。

モンスターは無機質な無人機を見つけたとしても、攻撃しなければ気にもとめないため。安全に素材回収が可能なのである。

無人機では汎用性が劣るため討伐用には向かず、こういった補助や援護的な役割に重宝されている。




モンスターの気配に気を配りながら帰路についた二人は、何事もなくゲートにたどり着いた。

ゲートは裏表どちらからでも行き来できるが、安全のため、行き来方向はの決められているので、潜って出てきた方向の反対側から潜る。


現界に戻ってきた二人は、ハンター協会に車を返し、乗ってきていた5人の共用車で新ハウスに帰宅する。


「「ただいまー」」


「おかえりなさい」


タクミとヒナコは予定通りに、車屋と製薬会社にそれぞれ打ち合わせや話し合いに行っているため、家で作業していたサユリの返事だけが聞こえた。



帰宅後、シャワーを浴びた順にレンヤとアイナは遅めの昼食を取り、協力して武器の整備をしてやるべきことを終わらせる。

今日の仕事を終えた二人は夜の訓練までそれぞれ、レンヤはリビングでくつろぎ、アイナは自室で昼寝に入ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る